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ふーこ

良く眠れないので、お布団を変えてみたらいいかなと思い、近所の寝具店を訪ねてみた。
年配の奥さんと息子さんの二人で切り盛りしている小さな寝具店だ。

すみません。最近良く眠れないので、
寝具を変えてみたいのです。だけど
あまり予算ないので、

と、小声でぐずぐずと奥さんに伝えていたら
奥さんが、

大丈夫ですよ。ご予算の中で、寝心地の良い品をお選びいたします。

と、優しい声で言ってくれた。

翌日、ピンポン
玄関のチャイムがなったので、インターホンの
モニターを見たら、布団屋さんの息子さんだった。

こんにちは。昨日お買い上げいただいたお布団、お届けにあがりました。

息子さんからお布団を受け取り、包みを開き
カバーをかけようと布団を取り出し、床に並べた。

赤いレトロな模様のお布団は、ノスタルジックな雰囲気を放っていて、カバーを掛けるのは勿体ない感じがした。今まで化繊の安い綿布団ばかりだったが、今回は人生初の真綿の布団。

夜になり、早速新しい布団に潜り込んで
文庫本を読んでいたら、何処からか声が聞こえて来た。

眠れないなら、読書の代わりに、私が自作のショートショートを朗読してあげるわよ。

あなたはだれ?

私は恐る恐る、何処にいるのかわからない相手に尋ねた。

私はあなたが寝てる布団です。
布団のふーこ。

ふーこ!

私はびっくりした声を上げた。
ふーこは、

そんなに興奮しちゃだめ。
私の中でリラックスして、私の読むショートショートに耳を傾けていたら、自然に眠くなるから。

と言って、ショートショートを語り出した。
彼女の読むショートショートは、内容は勿論、
文章に独特のリズムがあり、凄く聞きやすい。
そして、それを語るふーこの声は、お日様をたくさん浴びてふっかふかになったお布団思わせるような、心地よい声だった。

どう?少しは眠くなってきたかな?

うーん。
もう一話お願いします。

じゃ、次は少し長めのお話しです。

ふーこはまた、心地よい声で、違うお話しを語り始めた。
それにしても、彼女の声はとても癒しになる。
今夜はこのまま眠れるかも。
物語も終盤、ふーこは穏やかな声で

美しいお花畑を目の前にして、
私たちは暫く沈黙し、

と、読んだ後、彼女は暫し沈黙した。
その後、

ぶー、すー、ふう


と、寝息が。
そう、ショートショートを読みながら
彼女は眠ってしまったのだった。

ふーこ、おやすみ
今日はお疲れ様

私は、心の中でそう呟き
さっきまで読んでいた文庫本の
続きを、ふーこの中で読むのだった。

お布団が3枚干してある写真を挿絵に使ってます。




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