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酒は飲んでも飲まれるな

俺は売れない俳優。先日、とある健康食品のCM録りに参加したのだが、なんとギャラが商品で支払われてしまった。

こんなたくさん貰ってもなぁ。
俺は仕方なく、露天を出して
自分で売り捌くことにした。

この商品は肝機能を高めて
アルコール代謝を上げて、二日酔いを予防するお薬で、その名も「酒は飲んでも、飲まれるな」
酒なんだか、クスリなんだかわかりゃしない名前。ネーミングセンスなし。

このまま売ると、何かと面倒なことになりそうなので、俺はパッケージデザインを変えて、このイケてない名前も変えた。

夜の繁華街の片隅、小さな机の上に
クスリを並べ、俺は口上を言う。

飲む前に3錠、飲んだ後に3錠飲むだけ。
どんなに飲んでも、翌朝お酒がスッキリ抜けます。今夜は飲むぞ!そんな時はこの
「飲んだら飲んで」をどうぞ!

オレもネーミングセンス無しだ。

金曜、夜の繁華街は、人がごった返しているが、オレの屋台に振り向く人はいない。
やっぱり商品名がイマイチなのかな。
と、思いながら、ボーっと人並みを見ていたら、初老の紳士と目が合った。ツカツカと歩み寄って来て、

これ、ホントに酔わない?

と、オレの顔をジロジロ見ながら
訝しそうに言った。

私は、酒に弱くて直ぐ酔ってしまうのだが、仕事関係の付き合いがあって、飲まないわけにはいかず困ってる。かなりの数の薬を試して来たが、全然効かない。これはホントに効くの?

そう言って、彼はギロッとオレの目を見つめた。
オレの頭から汗がドッと噴き出た。

オレが適当な事言ってるの、もしかしてわかってるのかな?

そう思うと、さらに頭から汗が噴き出た。

もし効くなら、一個買ってみてもいいけど、私はこの手の薬には、散々やられてるからなぁ。

薬の瓶を手に取って、更にオレを睨む。

大丈夫です。僕も付き合いの前に飲んでますが、全然酔わないし、翌朝も残りませんよ。

オレは自信たっぷり、笑顔で答えた。売れなくてもオレは俳優。効かない薬でも
効くように説明しなきゃ。

ホント?一体何が入ってるの?

瓶を弄りながら、彼はまた、オレの顔をジロジロ見た。

ちょっとちょっと・・・
オレが作ってる訳じゃないから
そんなこと知るわけないじゃん。作ったヤツに聞いてくれ!
と、心の中で叫ぶ。

君、売ってるくせに知らないの?

紳士は訝しい表情をして、上目遣いでオレの顔を見た。

何が入っているかは、箱の裏側に書いてありますが、更に詳しく知りたいのなら、こちらに電話ば・・・

オレの適当な説明を断ち切るように、老紳士は、

わかった。君を信用して、二箱貰おう。

と、言い、代金を払って夜の街へ消えて行った。

いやいや、やっぱり出かけてみるもんだ。
こんな破格でいい薬を買えた。
これと同じ薬を作って売れば大儲け。
名前はやっぱり、オレが作り売り出し中の
「酒は飲んでも飲まれるな」の新型として
「酒は飲んでも飲まれるな2」がいいかな。
あ、だけど、あの薬は全然効かないんだよなぁ。

それにしても、あの若者。何処かで見た事あるんだよなぁ。ま、いいか。

(了)




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