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そこのかどでちょっと待ってて。

今回は「春の訪れ」。

早いものでもう3月。季節の変わり始めをあらゆることで感じる今日この頃だけど、こういう時期に毎回思い出して読み返したくなる物語がある。

それは「そこの かどまで」という僕の好きな絵本の一遍で「アーノルド・ローベル」さんという方の作品。たぶん見たらすぐわかる人が多いとは思うけど、いわゆる「がまくんとかえるくん」シリーズの絵本で、小学校の国語の教科書に載っていた「おちば」という物語で初めてこの「がまくんとかえるくん」に出会った。これは僕らの世代ならみんな覚えているんじゃないだろうか。ちなみに翻訳は「三木卓」さんという方で、教科書にも題名の後に作者名と訳者名がちゃんと載っていた。国語の授業で音読をするときに、いつも「アーノルドローベル、さく。みきたく、やく。」と声に出して読んでいて、「みきたくやく」の音の響きがなんとなく面白かったからか、それが印象的で今でも妙に鮮明に思い出される。その教科書に載っていた「おちば」も、僕が好きな「そこの かどまで」も、どちらも「ふたりは いつも」という本に収録されている。

この「がまくんとかえるくん」シリーズには、確か大学生の頃に再会した。たまたま知り合いがこの本を持っていたような記憶(やや曖昧)。その頃の僕はすっかり「カエル好き」になっていて、主役のかえるの二人がかわいいし面白いし、懐かしさも相まって、その後に出版されている絵本4種を少しずつ買い集め始めた。結局、現在「ふたりはともだち」「ふたりはいっしょ」「ふたりはいつも」「ふたりはきょうも」の4冊とも本棚の一角に並べているし、数年前に隣町で公演があった「がまくんとかえるくん」のミュージカルも見に行ったこともある。グッズとして売っていたコースターも買って今も使っている。

そんな「がまくんとかえるくん」の、「そこのかどまで」というお話は、ざっくり言うと、かえるくんが子供の頃、おとうさんに「はるはそこのかどまできているんだよ」と言われて「春」を探しに行った時のことをがまくんと話している、というもの。詳しい内容は是非読んでみてほしいのだけど、春の訪れを待ちわびるのと同時に恐れてもいる僕にとっては、何とも複雑な心境になるお話なのだ。

恐れるというのは大げさかもしれないけど、要はまだ春になってもらっては困る、ということ。仕事がまだ終わっていないから。仕事柄、量はともかく、やることの種類は多い方なのだけど、大まかに分類すると、「春までにやっておくこと」と「春になったらやること」があるとして、その「春までにやっておくこと」と僕はここ数年は熾烈な戦いを繰り広げている。その最たるものが「梨の剪定&棚付」。毎年、自分のとこだけでなく、近所の方の梨畑の剪定作業を請け負っていて、それはやはり梨の芽が開く前には最低限終わらせないといけない。自分のところが終わってからバイト剪定…となるのだが、天候や諸条件によっては、なかなかタイトなスケジュールになる。今年は、年が明ける前から雪や気温が低い日も多く、なかなか自分のとこの作業の進捗が悪かったせいもあって、バイト剪定に移るのが遅れてしまった。そこに、ここ最近のやたら気温が高い日があったりすると、拙い僕の作業を梨の生育の方があっという間に追い越して行くような気がしてしまう。そんなんだから、寒い日は、体がかじかんでしんどいけどまだ時間的に猶予があると感じられてこころは穏やか…一転、暖かい日には動きやすくて軽快に作業できるけど、タイムリミットへのカウントダウンが早送りされてるような気がして焦る…!というジレンマに毎年苛まれる。

そんな時に、父に「そこのかどまできているんだよ」なんて言われたら、「いやちょっと勘弁してくれよー!」と叫んでしまうだろう。実際には、僕の父はそんなこと言わないだろうし、言われなくたってそんなことは肌で感じられずにはいられない日々。それを視覚的に示してくれるものが実はあって、それが今バイトをしている梨畑の入り口のところに生えている梅の木。毎年、その梅のつぼみの膨らみ加減が、季節の進捗具合を測るめやすになっていたりもする。梅の花が咲く前には終わらせよう!と勝手に思っているのだけど、あんまり春のようなポカポカ陽気が続くようだと、梅の花が咲いちゃって、春が来ちゃって、おいおいまだ終わらないのかと、父やら園主さんやらに怒られて…いや実際に怒られることはないだろうけど、先の仕事が控えているから、スマートに次のへ仕事へと移っていきたいのだ。だから、梅の花よ、もう少し咲くのを待ってておくれ…!そして剪定のバイトが終わったら、その時こそ僕が、そこの角を曲がって、春を迎えに行くから、その時まで、あともう少しだけ…!と思っていた今日、見つけた。

すでに咲いていた…。

残念。今年もまた負けた。勝手に負けた。まだまだ気温が低い日もあるけど、積算温度はもう十分なんだろなー今年は特に…。剪定バイトはまだようやく中盤といったところで、もう少しかかりそう。梅の花がちらほら咲くのは大目に見させていただいて、本格的な到来は、まだもう少し角の向こうで待っててもらえますように。今年もまた「そこの かどまで」を読み返して、かえるくんとがまくんにお願いした。今年はまだ見つけないでもらえたらありがたい、と。

ひとまず今回この辺で。またそのうちに。

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