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不安は魂を食い尽くす(1974) / ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督

1970年代の映画が2023年、やっと日本で劇場公開になったという。

やっぱり名作というのは
タイトルにも惹かれる。

ファスビンダー監督というのは、ダニエル・シュミット監督と共作していたとか、アキ・カウリスマキ監督が影響を受けた人物だとか、そんな前情報でいそいそと早稲田松竹まで足を運んだのだった。

二本立てを観る時間は無くこの一本のみの鑑賞だったのが惜しかったのだが、それでも滑り込んでよかった。
個人的には前後の予定もギリギリだったので、92分とコンパクトなのもよかった。

今作は未亡人の掃除婦エミと、モロッコからの出稼ぎ労働者アリの話。

出会いのBar。
誰しも予想していなかったカップルの誕生である。

歳の差の恋。
世代も人種も違う二人だったが、ひょんなことから人生を共にするパートナーとなっていく。

二人が出会うことで観客は、特に差別意識というものをありありと体感することになる。
年齢、人種、職業、etc...住む世界の違う二人が惹かれあってしまったものだから、好奇の目に晒され、または余計な言葉を投げかけられ、徐々にバランスを崩してゆく。

いくら二人の世界で幸せでも
周りからの当たりが強すぎて挫けそうにもなる。

1974年の映画ではあるが、それから50年経った今も、カタチは変われど似たような意識から人間社会はまだ抜け出せずにいることをまざまざと見せつけられたような気がした。

映し出される束の間の幸福や苦難、認められなくとも、祝福されなくとも、それでもふたりの愛情を守り抜こうとする…
そうやって書いてしまうと一見、ありふれた話にも思えてしまうかもしれないが、実際のところ、それよりももっと新しく、みずみずしく感じられたのである。

それは、ふたりの純粋さによるところが大きいと思う。
人種も年齢も関係なくシンプルに目の前の人物を見る、という、いつの時代であっても色褪せない姿勢がそこにあったからだと思う。

もちろん、白人女性であるエミもまた周囲と同様、自分の中に少なからず存在するその意識と潜在的に戦っていたのかもしれないが、それ以上に目の前の彼を愛する、ということが勝ったようにわたしには思えた。

ルン♪

どこまでもピュアで透き通るような二人の空間を見たなら、彼らを嫌悪する人たちが一層汚れているように見えてしまうほどに。

一時はそんな二人ですら別たれてしまうのか、差別意識に負けてしまうのか、とヒヤヒヤしたのだが、そんな時間を経た彼と彼女が、再び出会い直すシーンが胸に刺さる。

自分の年齢のことを考えたら、縛ることはできないと考えるエミ。
そんな彼女に寄り添っていくことを決めたアリ。

そんな二人を見ていたら、結婚していようがしていなかろうが
"愛する人を自由にすること"ができたのならばそこにはもう、名付けられた関係性以上の絆が立ち現れてくるのだろう、と思わずにいられなかった。

歳の差も人種もなにもかも、いつからか忘れていた。
ただただ内側に宿る、お互いの灯火だけが呼応する二人の時間。

その綺麗さに、涙が溢れていた。

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