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いくら言っても「できない人」は、どうすればよいか⑤(完)

「できない人」に対して、教える側はどう向き合えばよいか

これまで4回にわたっていくら言ってもできない人について考えてきましたが、実際に本当にこのような人に出会ったとき、上司やトレーナーといった教える立場の人はかなり辛い思いをするのではないかと思います。

第2回でも触れましたが、前提として「できない人」は時間と労力をかけてでも「できる」ようにしなければならない、というものではありません。

「あなたはこの仕事に向かないので、他の仕事をしたほうがいいですよ」と言って他で活躍の場を見つけることができれば、それは互いにとって幸せな選択だと思います。

ただ現実的に「向いてない」のレッテルを貼られた人が自力で活躍の場を見つけるのはかなり難しいと思います。見放された人は結局行き場がなく、社内に残ったにしても周囲の足を引っ張る存在になり、辞めてもらったにしても会社に対してネガティブなことを言わないとも限りません。

そこで、もし上司やトレーナーとして「できない人」の指導を任された場合、どう向き合えば互いにとって最も良い結果になるか考えてみたいと思います。

先に私の考えを申しますと、教える側は無理に「100%できる」を目指すのではなく、

ほんの少しでもいいので、「できた」経験を積ませればよい

というのが結論です。

仕事なので、最終的には100%できるようになるのが望ましいのですが、いきなり100点満点を目指そうとすると教える側も本人も精神的に参ってしまい、逆に一歩も前に進まないということがあります。

それよりも、10でも20でもよいので教える側にも本人にも無理のない目標を設定し、「0から進んだ」という経験を本人に積ませるほうが結果的に最も伸びると思います。

第5回

ここでまた一つの事例を紹介したいと思います。

私がマクドナルドの店長をしていたときに採用したアルバイトの中に、とにかく仕事の覚えが悪く、ほとんどの人が一回で覚えられるレベルの簡単な作業で何度も同じミスをする人がいました。

うまくいかない原因はシンプルに「手先が不器用」ということですが、とはいえその作業が定められた時間内でできるようにならないととても戦力にはなれません。

求める基準は30秒以内ですが、その人はどうしても倍の1分以上かかってしまい、30秒でやるよう求めると食材を床に落とすといったミスをしてしまいます。

速い人の動きを真似するように言っても、「作業のコツ」を教えてもうまくいかなかったので諦めかけていましたが、ほかに替わりの人もいなかったので、「30秒でできなくてもいいから、まずは5秒だけでも縮めてみようか」と言って、ストップウォッチを片手に作業時間を測りながら練習をさせました。

最初は何度やっても1分以上かかりましたが、ある日ついに1分を切ることができるようになり、本人にストップウォッチを見せて「今58秒でできたよ!」と伝えたところ、それまで見たことがなかったような明るい表情になり、その後も定期的にストップウォッチで測り続けたところ、50秒を切り、40秒を切り、ついにミスなく30秒でできるようになりました。

もちろん速い人は20秒ぐらいでできてしまいますが、それでも店にとっては十分な戦力にはなりました。

あとで振り返ると、うまくできなかったころはアドバイスをしても叱咤激励をしても、本人は「できない自分」に嫌悪感を抱くだけで、「どうすればできるようになるのか」まで意識が回らなかったが、「こんな自分でも5秒速くなった」という経験が小さな自信になり、自分なりに工夫するようになって好循環が回り始めたことができるようになった要因でした。

このように、「できない人」にとって最も必要なことはアドバイスでも叱咤激励でもなく、

できないことが「できた」という経験

だと思います。

この事例は能力面でできない人の話ですが、内面的な問題でどうしてもやりたくない人にとっても同じだと思います。

電話を取るのがどうしても嫌だった新人でも、いきなり完璧な電話応対を求めると潰れてしまいますが、まずは「電話を取った」という小さな一歩を認めることで、「苦手なことでもやればできた」という小さな自信になるでしょう。

もちろん人によって向き不向きはありますので、「できた」という経験があっても50点止まりの人もいると思います。ただこの場合でも、0から50になった経験は決して無駄なことではなく、様々な場面で活かせることができます。

ここまで色々お話ししましたが、個人的に強く思うこととして、
いくら言ってもできない人は決して本人が悪いわけではなく、やり方次第でいくらでも可能性はある、ということです。

きれいごとかもしれませんが、「できない」からといって見捨てるよりも、手を差し伸べた方が長い目で見て自分にもメリットが大きいのは確かです。

もし職場に「できない人」がいたとき、少しでもご参考になれば大変幸いです。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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