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いくら言っても「できない人」は、どうすればよいか④

「何でもないこと」なのに、なぜやろうとしないのか

前回は「能力的な問題でうまくできない人」についてお話ししましたが、今回は何でもないことを「どうしてもやろうとしない人」について考えてみたいと思います。

例えばこんなケースです。

ある新人は仕事で何かわからないことや、気になることがあれば自分で判断せず、必ず上司か先輩社員に相談するよう指導されていました。いわゆる「ホウ・レン・ソウ」の徹底です。

しかし、この新人は「ホウ・レン・ソウ」をせずに自分で勝手に進めてしまうことが何度もありました。幸いこれまで大きなトラブルは無かったものの、いつか問題を起こす危険性があったので上司や先輩社員は「ホウ・レン・ソウ」の徹底を改めて厳しく指導しました。

ところが、ある日お客さまから「急いで〇〇の資料を送ってほしい」という連絡があり、どの資料のことを指しているのかよくわからなかったが、上司や先輩に相談せず自分で「この資料だろう」と判断して間違った資料をお客さまに送付してしまうということが発生しました。

さすがに上司は怒り、

「わからないときは必ずホウ・レン・ソウをしなさいって、何度も言ったよね!?」

「それでもホウ・レン・ソウをしないなんて、本当にやる気があるの?」

と叱りつけました。(あまりよい叱り方ではありませんが)

この新人はひどく落ち込み、「本当にもうしわけございません・・・、今度こそ気をつけます・・・」と反省の言葉を述べてホウ・レン・ソウをするようになったが、暫くするとまた自分からホウ・レン・ソウをしなくなりました。

このとき、上司がホウ・レン・ソウをしないことを「やる気」の問題として捉え、叱咤激励という方法で本人のやる気を引き出そうとしたが、本当の原因は他のところにありました。

実はこの新人は、「他人に声をかける」という一見何でもない行為に強い恐怖感を抱いていました。そのため、上司や先輩社員が忙しそうにしているとどうしても声をかけられず、ついホウ・レン・ソウを後回しにしていたのです。
厳しく叱られたので一時的に無理にホウ・レン・ソウを行いましたが、結局長続きせず元に戻ってしまいました。

ここで重要なことは、

・大多数の人にとって「何でもないこと」でも、人によっては「ものすごく嫌」という可能性がある

・「ものすごく嫌なこと」でもやろうと思えばできてしまうが、結局続かない

ということです。

第4回

これはやる気の問題でも、能力の問題でもなく、その人の個性の違いに過ぎません。
人はそれぞれ個性が異なりますので、他人と話すことが大好きの人もいれば、大嫌いな人もいます。物事の好き嫌いに理由がないように、これは理屈ではなく「嫌なものは嫌」としか言えません。

元々他人と話すことに抵抗がない人にとって、ホウ・レン・ソウは何でもありません。しかし、他人に声をかける行為に強いストレスを感じる人の場合、ホウ・レン・ソウはとてつもなく難しいことになってしまいます。

このケースにおいてもう一つ大きな落とし穴があります。

それはこの新人にとって「ホウ・レン・ソウ」という行為は能力的には「できてしまうこと」であるため、上司や先輩社員が無理強いをすると短期的には改善されたように見えてしまいます。しかし、本人は相当無理をしているので、上司や先輩社員がこれを繰り返すといずれ潰れてしまうことになるでしょう。

また、ニンジンでやる気を引き出す作戦もおすすめしません。
極端な話、「1ヶ月間ちゃんとホウ・レン・ソウをすれば100万円やる」と言われれば短期的にはやるかもしれませんが、いつまでもニンジンを与えることはできないため、結局やらなくなります。

とはいえ、仕事なのでどんなに嫌なことでも乗り越える必要があります。

そこで、指導する側は以下のような関わり方をするのが良いと思います。

1.他の人にとって「何でもないこと」でも、本人にとって「ものすごく嫌なこと」があることを認めてあげる(悪いこととして扱わない)

2.「ものすごく嫌なこと」をやる必要があるときは、強いストレスがあることを理解してあげる(やらなくてよい、というものではない)

3.本人のストレスを少しでも軽減するための支援を行う

先ほどの新人の事例では、ホウ・レン・ソウを無理強いするのではなく、ホウ・レン・ソウを行うときのストレスを減らす、具体的には忙しそうな上司や先輩社員に声をかけるときに恐怖感を感じないようにすると、少しずつホウ・レン・ソウができるようになるかもしれません。

例えば、「声をかけづらいときは直接声をかけなくても紙に書いて渡してよい」と伝える、上司や先輩社員はどんなに忙しくてもホウ・レン・ソウされたときはちゃんと向き合ってあげる、といったことができると思います。

このように、いくら叱咤激励してもやろうとしない場合、心の中で何かが引っ掛かっている可能性があるので、まずは「引っ掛かっているもの」を見つけてあげると良いでしょう。

第4回2

いくら言っても「できない人」について4回書きましたが、次回で一度区切りをつけたいと思います。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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