クレーマーを無視することが出来なければ…… 改訂

先程投稿した記事に問題が発生したため投稿し直しています。

……というタイトルをつけてはいるが、誤解のないように書いておくと僕は責任者による自主規制であれば尊重すべきだと思っている。

例えばアニメの『名探偵コナン』ではオープニング開始時にコナン君が「何回やってもいいじゃない。恋も事件も今日も明日も」という台詞を言ったことがあった。

この台詞に対して「事件を何回もやっていいというのはおかしい」という声が視聴者から寄せられたのだという。

確かにそう思われるのは頷ける。

先週までYouTubeで配信されていた『本庁の刑事恋物語4』等を見てみるとコナン君は事件の話を聞いた時に「面白い」と言ったり時折不謹慎な言動をすることはあるようだ。

しかしそれは彼が探偵として解くことになった謎を「面白い」と言っているのであって、彼は決して事件を起こすことを容認したりはしないのだ。

そして彼は事件の前兆を見つければ懸命にそれを阻止しようとし、自分の命を賭けて殺人や自殺をくい止めたこともあった。

そんな人格者が「(事件を)何回やってもいい」と言うのは確かにおかしい。

それに『名探偵コナン』で扱われる事件の大半は殺人事件だ。

殺人事件を含む事件が「何回あってもいい」等と言ったら『資産家令嬢殺人事件』の回に登場した七尾米さんから「バカいうでねえ!」と怒られかねない。

「この世に死んで良い人間なんぞおりゃせんわ」
「誰かが死ぬということは誰かが悲しむということじゃ」

この米さんの台詞はごく当たり前のことだ。

大切な人を亡くしたことによるPTSDを抱えているらしい灰原さんや佐藤刑事の描写を見てもそれがお分かり頂けるのではないだろうか?

しかしその当たり前のことを今の僕等は守れているだろうかと思う所もある。

もちろん直接手を下す殺人は起こしたりしないが、例えばSNSを使っていると自分が気付かないうちに誰かの死を招くようなことをやっていないか、あるいはそれを黙認していないかと、省みなければならないからだ。

また、コナン君が件の台詞を発するOP『TRY AGAIN』が流れていた頃に放送された『命をかけた恋愛中継』で命を狙われたのは……ということからもそんな事件が何回もあったら大変だと思われるのは然りだろう。

……というのはあくまでも僕の線引きだということはわきまえておきたい。

「何回やってもいいじゃない。恋も事件も今日も明日も」はアニメの前説だからアニメの一部ではないかという風に見方を変えてみると以下のようになる。

以前の記事で引用させていただいたハライチの岩井さんのツイートを再度引用させていただこう。

「アニメ内の原付二種の2人乗りが、免許取得1年以内で違反ではないかと指摘されてるけど、そういう人はルパン三世観て『窃盗は犯罪行為だから放送するな!』ってクレーム入れ続けてんのかな」

「原付二種の2人乗り」の所を「何回やってもいいじゃない。恋も事件も今日も明日も」に置き換えると……ということになるからだ。

もちろん「何回やってもいいじゃない。恋も事件も今日も明日も」は前説で「原付二種の2人乗り」は本編だから違いはあるし、岩井さんの指摘をそのまま当てはめることは出来ないのではないかという反論はあるだろう。

しかし創作物には表現の自由がある。

アニメの制作に関わっておられる方々が「事件を何回もやっていいというのはおかしい」のはあくまでも現実世界でのことだと割り切って「何回やってもいいじゃない。恋も事件も今日も明日も」という台詞は変更しないという決断をされた場合はそれを尊重するべきだと思う。

……では「何回やってもいいじゃない。恋も事件も今日も明日も」はそのまま使われ続けたかというと……?

「何回やってもいいじゃない。恋も推理も今日も明日も」と、「事件」の部分を「推理」に変更されたのだった。

これはアニメの制作に関わっておられる方々も原作者の青山剛昌さんも納得した上での変更だったのではないだろうか?

アニメの初期のサブタイトルには必ずと言っていいほど「事件」というワードがついていたのだが、『本庁の刑事恋物語』のシリーズが始まった頃から「事件」というワードがつくサブタイトルは減少していった。(「事件」というワードがつかないサブタイトルが初めて採用されたのは映画を除くと『コナンVS怪盗キッド』の回が初)

『名探偵コナン』に関わる方々は事件を見せたいわけではなく小さくなった探偵坊主の名推理を僕等視聴者に見せたいのだ。

だからこそ「事件を何回もやっていいというのはおかしい」という声はアニメに反映されたのだと僕は思っている。(もし『名探偵コナン』に関わる方々にとって不本意な変更だったのならそれは問題だが……)

社会の構成員として僕等はアニメに限らずものごとに関してはそのものごとを制作した人の意思を尊重しなければならない。

例えばテレビ番組等に対してこちらの放送倫理番組向上機構のCMで言われているような「この番組本当かな?」「青少年に悪影響あるかも……」「人権侵害じゃない?」という意見を発することは自身の言論の自由だ。

だが、最後にどうするかを決めるのはあくまでもそのテレビ番組を制作した責任者だということを否定すればそれは相手の表現の自由の侵害に当たるのだ。

テレビ番組をあいちトリエンナーレに置き換えればそれがよくお分かり頂けるだろう。

寄せられた声を取り入れて自主規制するにしてもクレーマーの意見に過ぎないと無視するにしてもそれは責任者の自由……にも関わらず何故今回『クレーマーを無視することが出来なければ……』というタイトルをつけたのか、皆さんは不思議に思われたかも知れない。

タイトルの意図はこれから説明させていただこう。

まずはこちらのストーリーを読んで頂けるだろうか?


とある公立の文化会館にて、漫画展が開かれることとなった。

ベテラン、若手を問わず多くの漫画家の作品が展示されたその文化会館は多くの見物人で賑わっていた。

間もなく文化会館に作品を提供した漫画家達が漫画展の様子を見にやって来た。

名前をよく知られたベテランの周りにはすぐに人が集まる。

「鳥海先生、今回も良かったですよ」
「倉橋先生、今回も面白かったです」

その一方で新人漫画家達はそっと人の間を抜けて自分の作品の展示場所へ向かっていた。

漫画家達は自分の作品を見たり読んだりして喜んでもらえるのは嬉しいが、突撃取材並みの勢いで詰め寄られるのは正直苦手だ。

実際ベテラン漫画家達の顔を見てごらん。

詰め寄られて困った顔の上で笑顔を作っているから、漫画でしか見られないようなへんてこりんな顔になってしまっているだろう。

R国に祖を持つクォーターである新人漫画家の露口詩杏(つゆぐちしあん)はそんなベテラン達の様子を気にかけながら自分のデビュー作が展示されている場所へ向かう。

そして展示場所を見た詩杏は愕然とした。

詩杏のデビュー作『Я』には緑色のカバーがかけられ、周りからは見えないようになっていたのだ。

「あ、あの……すみません。これってどういうことでしょうか?」

詩杏は近くにいた文化会館の職員に尋ねた。

「実は……」

職員は詩杏と目を合わせられないままで事情を話し始めた。

漫画展が始まってから1時間程経った頃、数人の来館者達が受付に詰め寄り、『Я』の展示をやめるように迫ったのだ。

「国際平和を乱すような国の言葉を使った漫画を展示するなんてどういうつもりだ?!」
「あんた達がやっていることは軍事侵攻に遭って辛い思いをしている人達を苦しめる行為だ!」
「漫画の作者もどうせR国の人間なんだろう!R国の人間の漫画はここに置くな!」

そして文化会館の管理者はそれに屈する形で『Я』にカバーをかけてしまったのだった。

「そんな……!あんまりじゃないですか!『Я』は確かにR国語ですけど、戦争を肯定する漫画じゃないしそれに……」

詩杏の声は怒りに震える。

「詩杏、待って!」

詩杏の肩に手を置いてそう言ったのは彼の先輩漫画家でC国に祖を持つハーフの国見中(くにみあたる)だった。

「国見さん……」

「まずはここの管理者さんに来てもらおう。……職員さん、すみません。管理者さんを呼んで頂けませんか」

中の求めに応じ、職員は管理者を呼びに向かった。

間もなくやって来た管理者は詩杏の顔を見て、目をそらしてしまう。

「どうして詩杏の……否、露口の顔を見られないんですか?」

中は静かに管理者に問いかけた。

「……申し訳ありません」

管理者は中に頭を下げる。

「……私、日本語は勉強中なんであまり偉そうなことは言えないですけど、“露口の顔を見られないのはどうしてなのか”を聞いた時に“申し訳ありません”って返すのは変じゃないですか?」

中は管理者にそう言った。

「……仰られる通りですね。私共がしたことは、どんな理由付けをしても結果的に露口さんの作品を踏みにじったことになる。……そう思うと……」

管理者は言った。

「それじゃあ、露口に納得してもらえるように話し合って頂けますか?利用者の声を聞くことは大事ですけど、利用者の声を聞いた上で『Я』をどうするかについては露口の声を聞かない内には決められないはずですから」

中は言った。

「……その通りです。本当に申し訳ありません」

管理者は深々と頭を下げる。

「あ、否。それは私じゃなくて彼に……。それじゃあ詩杏、私は自分の漫画の所に行くけど、いいかな?」

中は詩杏の方を振り返り、言った。

「……はい。国見さん、ありがとうございます」

詩杏は言った。

「お礼を言われるようなことなんてしてないよ。当たり前のことを言っただけだもん」

中は言った。

「国見さんって凄く冷静でネゴシエーションが上手いですよね。僕も見習わないと……」

詩杏は言った。

「あ、否。私はその……ね。それじゃあ……」

中は照れ笑いしながら立ち去った。

中と入れ替わりにベテラン漫画家の氷見弥生(ひみやよい)がやって来た。

「彼女も成長したみたいね」

氷見は笑いながら言う。

「……と言うと……?」

詩杏は聞いた。

「彼女ねえ、作品を規制しろと言われたときに“見て不快ならお前の目玉を潰せば済むことだろうが!”って万年筆で相手を脅して、何回も謹慎をくらったことがあるのよ。そういった経験があって分別を学んで成長したのよ」

氷見は言った。

「え~」

詩杏は思わず後ずさる。

「この通り、彼は今の話を聞いて後ずさっています。きっと彼はあなたやここの職員に対して無茶苦茶なことは言わないですよ。彼の気持ちをしっかり聞き入れて下さいね」

氷見は管理者にそう言うとその場を立ち去った。

詩杏は1度深呼吸をした。

そして自分の作品『Я』にカバーを掛けた文化会館の管理者の方に向き直る。

「……僕の気持ちを聞いて頂けますか?」


どうだろうか?

個人的な意見を言えば、文化会館の管理者が一部の来館者のクレームに屈して『Я』にカバーをかけたことは間違っていたと思う。

来館者からクレームが来ること自体はさすがに防ぐことは出来ない。

かつて実在の人物をモデルにした漫画を描いた人が名誉毀損で訴えられた例からも分かるように、漫画は何でもありではない。

従って「この番組(ここでは文化会館に展示される漫画)本当かな?」「青少年に悪影響あるかも……」「人権侵害じゃない?」という声が来たらそういった声には耳を傾けなければならないだろう。

しかし、その上で『Я』の展示をやめるかどうかは中が言ったように作者である詩杏の意見を聞いた上で判断しなければならないからだ。

また、今回のストーリーの場合は『Я』の展示をやめるように迫った来館者達の主張は明らかに人種差別に基づいており表現の自由の侵害に当たる。

『戸定梨香(とじょうりんか)』に対するクレームと比較しても非常に悪質であることがお分かり頂けるのではないだろうか?

文化会館側がそれに屈してしまったのはまずかったと言えるだろう。

こういった場合は警察に通報し、必要とあればクレーマーを検挙するということも考える必要がありそうだ。

クレーマーによって攻撃されたのが漫画だった場合は僕はそう考えている。

では、クレーマーによって攻撃され、カバーを掛けられたのが漫画ではなく外国語で書かれた案内板だったら?

……いくらなんでもそんなことがあり得るのかと思われそうだが、これは実際にあった話だったのだ。

R国によるU国への侵攻が始まった後、JR東日本は東京の恵比寿駅にあるR国語の案内表示板を一時的に紙で覆い隠してしまったのだという。

隠した理由は複数の乗客から「不快だ」とのクレームが寄せられたからだそうだ。

JR東日本の深谷光浩東京支社長は4月19日の定例記者懇談会で「差別との誤解を招く行為で不適切だった。深くおわびしたい」と謝罪したそうである。

“差別との誤解を招く行為”という表現は果たして適切だろうかと思う所はある。

2020年(令和2年)の1月にソレイマニ司令官が殺害された際、英語表記をなくそうという動きがあったのだろうかということや、公共の場からC国語やK国語の表記をなくそうとしたら差別と言われて然りだろうということを踏まえると、R国語の案内表示板を隠す行為はやはり差別なのではないだろうか?

当たり前のことだがR国が戦争を始めたからといってR国の国民全てが悪いわけではないし差別するような行為は言語道断だ。

……にも関わらず、それがまかり通ってしまった。

クレーマーを無視することが出来なければ下手をすれば、深谷社長の言葉を借りて控えめに言っても“差別との誤解を招く行為”につながるような事態になりかねない。

深谷社長は今後もし同じようなクレームが来た場合は「R国大使館が近くにあり案内表示を必要とする人がいることや、侵攻を支持する意図はないことなどを説明する」と述べたそうなのだが、差し支えなければクレームが来た場合は無視すること、クレームが酷ければ警察や弁護士に相談するということも視野に入れて頂きたい所ではある。

刑法第233条では信用毀損及び業務妨害についてこう記されている。

●虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

もしもクレーマーがR国語の案内表示板を出すことを“侵攻を支持する意図”などと言ってきているのだとしたらそれは虚偽の風説に当たることは明白である。

逆にクレーマーが「そんなことは言っていない」と言い訳をするのなら、警察や弁護士はクレーマーに“それならば何故あなたはR国語の案内表示板が不快なのか?”“あなたが不快だからR国語の表記をなくせというのはあまりにも理不尽ではないか?”“R国の人達に対する差別ではないか?”と問うことが可能となる。

“お客様は神様だ”という言葉があるようだが、これはあくまでも接客する側の心構えであって客が傍若無人に振る舞って良いということでは断じてない。

ただしその一方でストーリー内の過去の中のように“見て不快ならお前の目玉を潰せば済むことだろうが!”と万年筆で脅すような行為をすればそれはそれで罪となる。

刑法第222条ではこう記されているからだ。

1.生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2.親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

今回は『名探偵コナン』、僕自身が創作したストーリー、JR東日本で実際にあった例を挙げさせて頂いたが、これは社会に出て何かをする以上僕等1人1人に確実に当てはまることなのだ。

クレーマーを無視することが出来なければ、あるいはクレームが来た時に不適切な対応をしてしまえば僕等は自分自身や社会にとってとんでもない不利益をもたらすことになるかもしれないのだということを肝に銘じておきたい。

追記

5月30日現在、『杉原千畝記念館』の「最新の動き」をクリックするとU国への人道支援のための募金とメッセージに関する情報が見られますので、困っている人達のために自分に出来ることはないかと考えておられる方は参照にしていただけばと思います。

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