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「自立した個人として、一緒に人生を歩む。」“事実婚”を選んだはあちゅうさんが築くパートナーシップのかたち

7月15日、作家・ブロガーのはあちゅうさんがセクシー男優のしみけんさんとの結婚をTwitter上で報告。大きな反響を呼び、ふたりが選んだ「事実婚」というパートナーシップのかたちに注目が集まっています。

「事実婚」という言葉の輪郭のイメージがあっても、具体的に法律婚とどう異なるのか、その実態を知らない人も多いかもしれません。筆者もそうでした。

事実婚が法律婚と大きく違うのは、入籍はしないため同じ戸籍に入らず、同姓にならないこと。ほかにも、税金面での配偶者控除は対象外となり、子どもが生まれた場合は、何も手続きを取らない限り母の戸籍に入り、父は認知届を提出します。続き柄は「夫/妻(未届)」となり、相続には遺言状が必要となりますが、社会保険の扶養や離婚後の財産分与などは法律婚と同等の権利があります。

はあちゅうさんとしみけんさんは、なぜ事実婚を選び、どんなパートナーシップを築いているのか。ふたりの出会いから、結婚の決め手、これからのことまで、はあちゅうさんにお話を聞きました。

はあちゅう
ブロガー・作家。「ネット時代の新たな作家」をスローガンに読者と直接つながって言葉を届ける未来の作家の形を摸索中。著作に「とにかくウツなOLの、人生を変える1か月 」「半径5メートルの野望」、「通りすがりのあなた」など。月額課金制マガジン「月刊はあちゅう」が好評。

インスタグラム・ツイッター:@ha_chu

日常の延長線上に、個人と個人が関係を結ぶ「事実婚」という選択

─ ご結婚おめでとうございます!

ありがとうございます!

─ 4年間の交際期間を経て、今回結婚を決めたきっかけは何だったのでしょうか?

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4年間ずっと同棲をしているので、結婚しているような感じではあったんですが、昨年の11月に一度お別れをして、4ヶ月間距離を置いていたんです。その時は、彼から一方的に別れを告げられて、「戻るかもしれない」とは言われていたんですが、その保証なんてないから、すごくショックでした。

付き合ってから今までずっと恋をしている感じで、付き合いたてのカップルみたいにすごく仲が良くて。10分でも一緒にいられるなら家に帰りたい、一泊二日の出張も入れたくない、というくらい、彼がいない生活が考えられなくなっていたんですね。

お互いにお互いがいないことが考えられず、夢中で…すごく楽しくはあったんですけど、一方で依存しあっていたとも言えるかもしれません。そんな中で、変わらずに好きだけど、いったん自分の人生を見つめたいから距離を置きたい、と言われたんです。離れていた4ヶ月間は、#Metoo(Buzzfeedでセクハラを告発)の時期とも重なっていて、精神的にもすごく辛かったですね。

そんな宙ぶらりんの関係性が4ヶ月間続いて、彼から戻りたいと言われた時に、私は4ヶ月前に突然突き放されたということもあり、何かかたちが欲しいから、事実婚の届け出を出したいと伝えました。

─ 結婚のかたちとして「事実婚」を選ばれたのはなぜですか?

まず、名字を変えるのが嫌でした。手続きの煩雑さを結婚した人たちから聞いていて、フリーランスで働いていると、銀行口座やパスポートだけじゃなく、すべての仕事の取引先の登録変更をしないといけない。会社員だったら1回で済むのかもしれないけれど、私は法人を3つ登記しているので、その名義変更にもお金がかかってしまいます。金銭的にもデメリットが大きいわりに、メリットが見えてこない。

事実婚は配偶者控除を受けられないという点がありますが、年収103万円までしか適用されないのでそもそも対象外。国が女性活躍を推進し、女性が働いて稼ぐことが当たり前になる今、この制度自体が時代に逆行しているように感じます。

また、いわゆる「結婚」には旦那さんの扶養に入るイメージを持っていたので、「対等なパートナーでいたい」と思ったのも理由のひとつです。実際に私たちは、お財布は別々で、生活費も家賃も折半で生活を共にしています。

あとは、ふたりの気持ちを大事に、日常の延長線上で結婚したいという思いがありました。だから、結婚式のような非日常なセレモニーはいらないな、と。私は昔から自分のために集まってもらう会が苦手なので、そもそも結婚式をしたいと思ったことがなくて。

法律婚は“ 家と家 ”が関係性を結ぶというイメージがありますが、事実婚は“個人と個人”の関係性で成り立つものだと思っています。昔、誰かが「結婚すると故郷が増える」と言っていて結婚に憧れたこともありましたが、実際には、綺麗事だけではない“ 家 ”のしがらみなどもあると思います。離婚したいけれどできない理由として「家族」との関係性を挙げる人もいますよね。

家と家の関係性よりも、個人と個人の関係を結びたい。だから私たちには、事実婚がしっくりきたんです。

法律婚を否定するつもりはまったくありませんが、事実婚もオプションとして選べて、受け入れられる社会になったらいいなと思っています。

正直に、堂々と生きていたいから。
公表を決意

─ 事実婚をしてふたりの関係性や生活に変化はありましたか?

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本当に結婚が日常の延長線上にあって、私たちふたりは何も変わらないですね。手続きとしては、区役所へ行って、「事実婚をしたいです」と伝えて、職員の方がお互いの本籍地に電話で独身かどうかを確認し、住民票の私の欄に「妻(未届)」という記載がつきました。実家にあった住民票を移して、彼と同じ場所にしたんですが、両親もあまり実感は伴ってないみたいです。

事実婚自体は6月22日にしていて、7月15日に公表をしているんですが、夫婦としての実感が湧いたのは、事実婚をした時よりも、公表した時でした。住民票に「未届(妻)」と書いてあることよりも、周りの人たちがふたりの関係性を認めてくれるかどうかが、結婚は大事なんだと感じます。裏を返せば、法律婚でも事実婚でも、夫婦として認めてもらえれば、かたちはどんなものでもいい。周りの人たちの受け止め方次第なんだと思います。

─ おふたりの結婚(事実婚)のご報告はとてもインパクトがありました。公表しようと思ったのには理由があったのですか?

私も30歳を超えて、仕事でもプライベートでも「結婚は?」「彼氏は?」と聞かれる機会が多くなってきたけれど、今まではなかなか答えられませんでした。彼の仕事を打ち明けると「やめたほうがいいんじゃない?」とか「そんな職業の人とつきあって大丈夫?」とか、イメージだけでジャッジされることも多かった。一方で「めちゃいいね!」「面白い二人。お似合い!」と言ってくれる人もいたので、いっそオープンにして「いいね!」って言ってくれる人と繋がりたいと思いました。

あとはやっぱり、読者の方々に対して真摯でいたい、という気持ちがあります。私は発信を通じて自分の人生を切り売りするような仕事をしていて、私の本など創作物を好きだと言ってくれる人もいるけれど、本から離れて私の人生全般を応援してくれる人たちもいる。そういう人たちに対して、事実婚をしたことを伝えられないのは心が苦しい。事実婚をしたこと、よかったことや不便なことも含めて、生身の声を発信していくことが自分の生き方としても自然だな、と。

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ただ正直、読者には女性が多いので、相手の職業のイメージだけで幻滅されてしまうこともあるかなと、公表する怖さもありました。でも、隠し事をしているような、悪いことをしていないのに悪いことをしているような感覚になっちゃうので、さらけ出して、認めてくれる人たちと、新しい未来を築いていきたいと思いました。

彼自身は、最初は公表に関しては乗り気じゃなかったんです。彼はプライベートが明らかになることで、AVを今までどおりお客さんに楽しんでもらえなくなるんじゃないかという葛藤があったようで。でも、私のために公表をOKしてくれました。

これから、ふたりで堂々と生きていこう、と。

─ おふたりそれぞれが葛藤や怖さを抱えての公表だったんですね。

公表にはすごく勇気がいって、前日も眠れませんでした。ささいなことでも炎上しやすいネット上で、叩き潰せ!くらいの勢いで、石を投げられるんじゃないか、それに心が耐えられるかなという怖さがあって。

実際に公表してみると、思った以上に温かく迎えてくださる方が多くて、たくさん「おめでとう」と言ってもらえて、人生でこんなにも祝ってもらえたのははじめてです。先日、ふたりでレストランで食事をしていたら、知らない二人組の女の子が「結婚おめでとうございます!」と声をかけてくれて、すごく嬉しかったです。周りの人たちが私たちふたりを認めてくれて、彼も「公表して本当によかったね」と言ってくれたのでほっとしています。

また、事実婚をしている人たちやAV関係のお仕事をしている人たちから「勇気をもらいました」「堂々と生きていける方法を知りました」「新しい風が吹いた」といったメッセージをいただいたのも励みになりました。

一方、公表したことで、想定内ではありましたが、ネット上で批判の言葉も投げられて、嫌がらせのようなこともされました。最初は、自分たちは幸せだし言いたい人は勝手に言っていればいいと平気だったんですが、積み重なるものがあって、ゆるゆると心が疲弊していって、家族にまで嫌がらせがあった時に、それまで保っていた感情がぱりんと割れてどーんと落ち込んだ瞬間もありました。でも、そんな時に、彼がテンション高く笑わせてくれて、一緒に前を見て乗り越える方法を探ってくれて、やっぱりこの人となら大丈夫だと思えたんです。


「この人がいるから生きていける」と思える
唯一無二の存在


─ はあちゅうさんにとって、しみけんさんはどんな存在ですか?

太陽みたいな存在です。私は気持ちのムラが激しくて、ネット上でいろいろ言われて、気持ちが深く沈み込むこともあるんですが、「陰」にいきがちな私の心を彼がいつも「陽」に戻してくれます。

彼は本当に毎日を幸せそうに生きていて、深刻そうに生きている私を笑顔にしてくれる人。私のことを“ 強い人 ”だと思っている人もいるかもしれませんが、実際の私は小さな言葉の行き違いや人との気持ちのすれ違いに敏感に反応してしまって、なかなか気持ちが戻せないことがよくあります。その裏返しでつい言葉が強くなることもある。それでトラブルを招いてまた落ち込んで、その情緒不安定っぷりがまたネットで嘲笑われて、ますます落ち込む、みたいな繰り返しです。

でも、彼と話すと心が楽になる。「この人がいるから生きていける」と思えるくらい、尊敬しているし、頼りにしています。

─ はあちゅうさんにとって欠かせない、唯一無二の存在なのですね。

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かけがえのない人に出会えた、という確信があるから、職業が特殊で苦労もするだろうと思ってはいたけど、この人とだったら乗り越えていける、乗り越えていきたいと思っています。

─ もともとのおふたりの出会いは?

もともとの出会いはネットを介してですね。私が、彼が出ているクイズ番組を見て気になって、Twitterをフォローしたら、彼も私のことを知ってくれていて、メッセージをくれたんです。そこでLINEを交換して、3ヶ月くらい後に実際に会ってみたら、話が面白くて、惹かれていって。

でも、最初は私も「AV男優」という職業に偏見があって、“平気で女性と寝るような人だから、女性をモノとして見ているんだろうな”と思っていました。だから、恋愛ごっこをして、適当な時に卒業して、この次の恋愛で結婚だな、とつなぎ的な位置づけで付き合いはじめたんです。お試しでもなく、“ネタ”になるぞという気持ちで。ところが実際に付き合ってみたら、彼が思った以上に誠実で、人間的で、何よりも私のことを大事にしてくれる。

ある時、私が炎上して大泣きしていた時、撮影の合間に、「ほんのちょっとしかいれないけど」って言いながら往復3時間半かけて会いにきてくれて、ぎゅっと抱きしめてくれたんです。たった5分でも、10分でも会える時間があるのなら会いに来てくれる。こんなふうに自分を大事にしてくれる人がいるんだ、これは本気になってしまうな……と思いました。

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それまでは、何かあったらすぐ別れようと逃げの姿勢で、いつ振っても振られても大丈夫なように心を預けすぎないようにしていて、嫌われてもいいから彼に対しても言いたいことをズバズバ言っていたんですよ。逆に彼はズバズバ言われるのがよかったみたいで、お互いに付き合って3ヶ月くらいで心を許し合っていました。

そこからは、どんなことがあっても行き先は決めていて、別れるか別れないかではなく、ふたりでどう乗り越えていくか。正直、自分のなかで受け止められないことも何度もあったんですが、その都度一緒に乗り越えてきました。それでも、彼の職業に対する複雑な気持ちは2年くらいずっと持っていましたね。

パートナーの人生を変えるのではなく、
受け入れて支える


─ 受け止められないことがあった時は、どうやって乗り越えてきたのですか? また、相手の職業に対してはどうやって理解を深めていったのでしょう?

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とにかくその都度、彼と深い話し合いを重ねてきました。そうするうちに、AV男優という彼の仕事に理解を示せるようになったんです。彼の仕事を近くで見ていると、自分の快楽ではなく、女性の身体をどう魅せるかを考えていて、過酷な現場も多い。体調管理も大事で、心の状態も関わってくるので、相手の女性を傷つけないことにも心を砕いている。アスリートみたいで、まるで競技の世界だな、と。

彼はそういう仕事に誇りを持っていて、人生をかけて取り組んでいます。そういう彼の生き方を応援できないのはパートナーではないと思うので、私は一番近くで、彼を応援して支えたいと思ったんです。それが私にとっても幸せなことだ、と。

─ すばらしいパートナーですね。はあちゅうさんは「パートナーシップ」という言葉をどのように捉えていますか?

パートナーシップは、一緒に人生を歩んでいくことだと思っています。自立した個人が、お互いの人生を補完し合って、支え合ったり励まし合ったりしながら、よりよいものに向上できる。ありきたりですけど、1+1が2以上になる関係性が理想のパートナーシップで、彼とならそれができると思いました。

─ お互いがひとりの「個人」として自立したうえで、お互いの人生を支え合うかたちで寄り添って生きていくというのは、「個人と個人の関係性を築きたい」というはあちゅうさんが「事実婚」を選んだ理由にも通じる気がします。

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そうですね。夫婦はセットで見られがちですが、夫も妻もひとりの人間で、生き方も考え方も違って、ぶつかり合うこともある。それはどんな夫婦も同じだと思います。ふたりで人生を一緒に歩んでいくと言っても、すべてが一致するわけではないから、お互いの人生を変えようとするのではなく、受け入れていくことが大事だと思っています。

以前の恋愛で私は、相手の人生を私のために変えようとしていました。遠距離だったので、私が仕事を続けるために引っ越してきてほしいとか、顔がいいから東京でホストしなよ、絶対売れるよ!とか言って。自分の都合の良い人生に彼を乗せようとしてダメになった経験があるので、金輪際相手の人生を変えるような恋愛はしないと決めていたんです。人の人生に口を出すような嫌な人間にはならないでおこう、と。

私の人生は私の人生、彼の人生は彼の人生だから。彼の人生を変えるのではなく、彼の人生を尊重するほうに、自分を変えようと思ったんですね。だから、彼に対しても、AV男優として、現役を引退してほしいとかまったく思わないです。我慢しているわけではなく、理解をして、受け入れることができました。

─ これからどんなパートナーシップを築いていきたいですか?

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一緒に自由に生きていきたいですね。今回、事実婚を公表した時に「子どもがかわいそう」という言葉をたくさん浴びました。まだ作ってもいないけれど、親の結婚のかたちや職業で決めつけられて「子どもがかわいそう」と言われるのは悔しい。子どもはほしいと思っているので、「かわいそう」だなんて言わせないくらい、子どもを幸せにしたいです。

自由に生きることを私たちが実践をして、どんな人生でも恥じることはなく、堂々と生きていけるんだ、ということを示していきたいですね。子どもには、偏見を持たずに、自由に強く、育ってほしい。


はあちゅうさんは、世の中の「普通」を疑い、迷い葛藤しながらも、常に新しい扉を叩き、“自分らしい生き方”を自ら選びとっています。そして、ぶつかった壁や乗り越えたことそのすべてを、本やネットを通じて、私たちに伝えてくれます。

「自立した個人として、一緒に人生を歩む」

はあちゅうさんが事実婚を選び、その先にあるパートナーシップのあり方を問い直してくれたことで、私たちの視野とこれからの選択がより広がりつつあります。

ひとりひとりに、それぞれの結婚のかたち、家族のかたち、幸せのかたちがある。その多様性が受け入れられる世の中になりますように。

取材/執筆:徳 瑠里香


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Re.ingは「パートナーシップのあり方を問い直す」をコンセプトに、多様な関係性からインスピレーションを受けた指輪ブランドです。2018年中に、9つの指輪を発表していきます。

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