夜と朝をなぞるだけのまともな日常

BUMP OF CHICKENの「ギルド」が自分の中で再燃している。

バンプとの出会いは例に漏れず中2のことだった。クラスの友人がバンプを好きで、ギルドも収録されているユグドラシルというアルバムを入れたMDを貸してくれたことが始まりだった。
当時の私は音楽といえばヒットチャート上位の曲くらいしか分からず、テレビに映ることが比較的少ないロキノン系バンドについては全く知らない状態であった。ユグドラシルはロックの中ではポップ寄りなアルバムだと思うけれど、それでも当時の私にとってはロックってなんだか良く分からないなあというのが第一印象で、聴きにくいアルバムだと思っていた。

何度かアルバムを聴いていくうちに、一曲、また一曲とお気に入りの曲が増えていった。気づけばユグドラシルを何周も聴いていたし、他のバンプのアルバムも友人やレンタルショップから借りるようになったし、バンプ以外のロキノンバンドにも手を出し始めた。ラッド、エルレ、アジカン、椎名林檎あたりを聞くようになったのも中2の頃だった。今は椎名林檎以外はあまり聴かないけれど、自分の音楽の趣味の土台ができたのは間違い無くこの頃だった。

ギルドに話を戻すと、ギルドも私のお気に入り曲の一つだった。バンプ好きの友達とカラオケに行くと歌うこともあったし、よく聴いていたと思う。だけど、ギルドがダントツで好きというほどではなかったし、特に思い入れがあるわけではない。
しかし、ツイッターであたそさんのツイートを見たときに、ギルドってそんな曲だったかな?と思ったこともあり、Spotifyでバンプの曲が聴けるようになってから早速ギルドを聴いてみたのだった。

多分人よりも音楽は聴いている方だと思うけど、BUMP OF CHICKENの『ギルド』よりも暗い曲に出会えそうにはないな、というのはなんとなく察している

「人間という仕事を与えられてどれくらいだ」という歌詞で始まるギルドは、人生を仕事に例えて、日々の生活をあてのない労働のように描いた歌だと思うのだけど、それでいて一見全く暗さがない。メロディも割とキャッチーだし、分かりやすい暗い表現は使っていない。だから、バンプに一番はまっていた中学生のときは、暗い歌だという認識がなかった。
しかし、労働を始めた今改めてギルドを聞いてみると、たしかに救いのない歌なのである。私自身毎日あてもなく同じような日々を再生産するようになって、生きるという労働を続けながらも不器用に愛を求めていく感覚を中学時代よりも理解できるようになった。ギルドは生きていく上で誰でも突き当たるようなテーマを歌った曲だと思うけれど、そのような日々の生活の閉塞感や単調な毎日が綿々と続く苦しさをあくまでもさらっと歌い上げている。普通、暗い曲というのはメロディもダウナーであったり、歌詞もより明らかに絶望的だったりすることが多いと思うけれど、ギルドの曲調はなんだか明るいし、直接的な暗い表現はない。しかし、それでいて、歌を通して流れ続ける金属を打つような音の繰り返しが、絶え間なく労働が淡々と続いていくことを予感させる。(と私は思っている)
重苦しいテーマになりやすい、人生とはなんだ、労働とはなんだということを軽やかに歌い上げ、それでも生活のやるせなさを滲ませるところに、藤原基央の凄さを感じた。

しかし昨日、ドライブがてらSpotifyでバンプの曲をランダム再生していたのだけど、「K」という曲を聴いたとき、ギルドを聴いたとは違うものを感じたのである。
Kというのは物語仕立ての曲なのだけど、ある忌み嫌われている黒猫が、画家と出会って初めて人の温もりを知り、画家は猫に「ホーリーナイト」(holy night)という名前を付けるのだけど、ある日画家は貧しい生活に倒れ、黒猫に対しはるか彼方に住む恋人宛の手紙を託して亡くなってしまう。そして黒猫はいく先々で罵声や暴力を受けながらも遠くの恋人を目指して走り、やっとの事で画家の恋人に手紙を渡すとそこで動かなくなってしまう。そして、恋人は猫の名にアルファベット一つを加え、「聖なる騎士」を埋めてやった、という歌である。このアルファベット一つというのが曲名である「K」であり、holy nightはholy knight、聖なる騎士になった、というすご〜〜い曲である。

私は猫を2匹飼っているけど、猫を飼うにあたり名前については何日も考え続け家族でもたくさん話し合ったものの「ホーリーナイト」なんて言う人は当然ながら誰もいなかった。私が勝手に「なめろうが良い」って言ったときに家族から大反発を受けたことはあったけど、それでもやっぱりホーリーナイトはない。それに、不吉の象徴と言われる黒猫がいく先々で罵声や暴力を受けることはまあ目を瞑るとしても、いやお前も死ぬんかい、という感じである。なぜ手紙を渡す=死、なのか。もちろん一番の見せ場はアルファベットのくだりであり、これが言いたかったがためのホーリーナイトか…nightもknightもかっこいいもんな……こんなにかっこいい単語が一文字しか違わず発音も同じなんて気づいちゃった日にはそりゃあもう黙ってはとけないわな…それで歌詞ではあえて「本当はholy nightだったけどK一つ加えてholy knight、つまり”””聖なる騎士”””にしてやったんですわ!ガハハ!!」って語らずにあくまでも匂わせるだけにして、タイトルを見てあらびっくり!って構成にするのがいけてると思ったんだろうなぁ…………。と勝手に想像しては勝手に恥ずかしがらせていただいた。
思えばそういう厨二心をくすぐる歌はこれだけでなく、アルエという歌も綾波レイへの思いを歌った曲だというけど、綾波レイをモチーフに曲を作って「ハートに巻いた包帯を僕がゆっくりほどくから」というセンスも今思えばなかなかのものである。
そんな曲と知り合ったときの私も当時中二真っ只中、厨二病真っ只中であったので、曲を聴いてものすごくかっこいい!!!!!と思い、バンプ信者っぷりが加速していくことになった。今でもいい曲だとは思うけど、あの頃と同じ心持ちでは聴けないかな……。

Kを聴いて思ったけれど、私がギルドを聴いたときに感じた、日々の閉塞感をあっさりとポップに歌い上げる藤原基央のセンスについても、最初からこういう歌詞やメロディを作れていたわけではなく、まあ厨二病満載な曲を作っていく中でだんだんと感性が磨かれていった結果なのだろうな、と実感した。とはいえ最近のバンプの曲が分からないだけで、今もKみたいな曲はあるのかな。
いずれにしても何事もまずは挑戦で、最初から完璧を目指すよりも様々な作品を量産していく中で感性を研ぎ澄ませていく方が良いのかな、という気がする。

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