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放送大学大学院博士後期課程:1期生の立場から(8)生涯学習開発財団による助成

放送大学大学院博士後期課程は、3年間の学費が約140万円です。国立大学ならば、約190万円です。私立大学ならばさらに高額です。
私は生涯学習開発財団から助成を得ることができたので、90万円ほどで済みました。この助成については、美学芸術学ゼミナールに所属するとりわけ優秀な女性が教えてくれました。

この財団の博士号取得支援事業は、50歳以上の社会人が博士号を取得することを支援するもので、若い方は応募することができません。私はこのような財団があることすら知りませんでした。教えてくださった女性は、私ならば審査を通るだろうと考えて教えてくださったそうですが、彼女自身は修士課程在学中にすでにこの助成を受けていました。そして、修士課程修了後は、母校の大学の博士課程に進学して、成績優秀のため学費半額免除になっています。

審査委員長は、都内の私立大学で比較文学を講じる教授で、口頭試問は、博士課程入学の際の面接試験よりも厳しいと思いました。何度も挑戦してようやく審査に合格した方もいるそうで、1度で審査を通ったことは、本当に運がいいことでした。

同年に審査を通った方のなかには、建築家の男性や大学教授の女性がいましたが、東日本大震災時に東京電力福島第一原子力発電所に勤務しておられた方がいて、現在は、災害時のレジリアンス(回復)に関する研究をしていました。新橋にある、福島の酒や料理を出す店に、同期で集まったことがあります。震災時の現場の話を聞きながら、東日本大震災が大学院進学のきっかけだった私は、自分とほぼ同年代のこのような方と巡り会ったことに感慨を覚えたのでした。

ところで、私は大学に勤務する専任教員ではなく、高等学校の教員なので、研究者番号がなく、したがって、科研費(日本学術振興会の科学研究費助成事業)の申請をすることができません。今、ふりかえって思うのは、博士課程在学中に、研究者番号がなくても申請することができる奨励研究ならば応募することができたということです。以前に、大学教員をしている友人から、科研費奨励研究については教えられていたのですが、博士後期課程学生在学中は、目の前の論文執筆に気をとられていて、すっかり失念していたのでした。

それというのも、倒れんばかりに前のめりの姿勢で研究していたからなのです。放送大学が作成した案内パンフレットには、それぞれの年度にやるべきスケジュールが書かれていますが、査読論文が何報も必要であり、修士課程のときと同じく、先取りして研究を進めていかなければ、3年間での学位取得は到底おぼつかないと考えたからです。そしてそれは正しかった。

国文学関係の学会は多数あります。それは、論文の投稿先が多くあるということを意味します。国際政治学のゼミに所属する博士課程学生は、国文学関係と比べると、学会が少なく、査読論文を得ることが容易でないようでした。投稿して、不採用になり、書き直して再投稿する。この繰り返しが博士課程学生の日常なわけですが、査読結果が来るのは投稿してから数ヶ月後、半年後ですから、悠長に構えているわけにはいかないのです。限られた時間との勝負なのです。

生涯学習開発財団の助成が得られたとき、私は、自分の研究がパブリックな価値があるものと認定されたと感じて、本当に嬉しく思いました。冗談ではなく、私は命がけで論文を執筆していたからです。

その生涯学習開発財団を創設した松田妙子理事長が91歳で永眠したと、先日、お別れの会のお知らせが財団から届きました。新年会でお目にかかると、いつでも壇上でまっすぐに立ち、立派なご挨拶をされていました。東京大学で博士号をお取りになったのは71歳のときと伺いました。若いときはアメリカ合衆国で活躍していた方です。充実した人生を、生き切った方だと思います。自分もそうありたいと思います。
(続く)

*写真は、現在、研究しているフランス文学者村松剛の著作群です。

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