見出し画像

東野圭吾作品③「ラプラスの魔女」

東野圭吾作品「ラプラスの魔女」を紹介します。

ラプラスの魔女

⚠️以降ネタバレ含みます。


あらすじ

とある地方の温泉地で硫化水素による中毒事故が発生。地球化学の研究者・青江は警察の依頼で調査のため事故現場に行くと、一人の若い女性・羽原円華の姿を見た。
彼女は、一人の若い青年の行方を追っている。
2か月後、遠く離れた別の温泉地でも同じような硫化水素事故が発生し、そこでも同じ若い女性を発見。
その女性はいったい何をしているのか。
2か所の温泉地での被害者には共通点はあるのか。
また、青江はそこで若い女性の「不思議な”能力”」を見る。果たしてその能力とは……。
ある天才映画監督・甘粕才生の昔起きた自宅での事故も硫化水素によるものと判明。
2つの温泉地の硫化水素事故と甘粕家で起きた硫化水素事故の因果関係は……。
甘粕才生の息子・謙人も羽原円華と同じ不思議な能力を持っているが、なぜその能力を持っているのか?
硫化水素事故は本当に事故なのか、それとも……。

ラプラスの魔女

感想

まず、本編を読んでいく時に聞き慣れない言葉が出てきます。
タイトルにあるラプラスとか、ナビエ・ストークス方程式とか……
物理系(特に流体力学)の分野を勉強してる人は聞いた事があると思います。
私自身、ラプラスは電磁気学とかでラプラス変換を聞いた事がある程度でよく分かってません。

ラプラスとは、
フランスの数学者・ピエール=シモン・ラプラスで、
主に近世・近代の物理学分野で、因果律に基づいて未来の決定性を論じる時に仮想された超越的存在の概念。「ある時点において作用している全ての力学的・物理的な状態を完全に把握・解析する能力を持つがゆえに、未来を含む宇宙の全運動までも確定的に知りえる」という超人間的知性のこと。
ラプラスの悪魔とも呼ばれている。

Wikipediaより

もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、その目には未来も(過去同様に)全て見えているであろう。

確率の解析的理論より

はい……

よく分かりませんね……(笑)

言い換えると、未来を予測出来るという事。

気になったらググッて下さい。

本題に戻します。

この「ラプラスの魔女」は、ラプラスシリーズの第1弾で、主人公は羽原円華。
この物語のタイトルが「ラプラスの魔女」となっていて、最初に言いますが、「ラプラスの魔女」は、
この物語の主人公・羽原円華。
円華が未だ小学生の時に起きた竜巻事故で母親を亡くし、それから数年が経ってとある研究施設で暮らしている。
「私があの竜巻を予測出来たらお母さんを助けられた」
「だから私が『ラプラスの魔女』になって人助けをしたい」
円華はこんな事を言った。
どういった経緯で「ラプラスの魔女」になったのか。
たった1つの事故で失った物は非常に悲しいです。
今後、予測出来たとしても母親は戻ってこない。
しかし、この事故をきっかけに何か人助けが出来ないか…と思ったのだろう。
人間は自然には抗えないですが、過去の教訓を糧に今後未来は救えるかもしれない。

「ラプラスの魔女」となった羽原円華の特殊能力とは何か……それは、
未来を予測する能力のこと。
「予言」ではなく「予測」。
しかも、ずっと先の未来ではなく少し先の未来
人間の動き(手足や口など)や人々がどう動いているか、
物体がどう動いているか、
気象条件など、
言い換えるなら物理系の話し。
これらを見て瞬時に頭(脳)で判断し、少し先の未来を予測する能力のこと
これは普通に出来る事ではありません。
小説だから有り得るのかもしれない。
こういう天才が実際に世の中に要るかもしれないが、羽原円華の場合は、頭の中、即ち脳を手術して、こういう能力が出来るように変えられている。
円華の父親・羽原全太郎は天才脳外科医。
父親に頼んでやって貰ったのだが…
(なぜそういう手術をしたのかは本編を読んで下さい)
普通にそういう能力を目の当たりにしたら誰もが驚愕するでしょう
「予言者か…」みたいにね。
世の中の物理現象は全て予測出来るらしい。
サイコロの目も確率論でなく、サイコロが手から離れた瞬間に出る目は決まっていると。
(サイコロの話しは本編に出てきます)
円華が「ラプラスの魔女」になって人助けをしたいと言ったのは、竜巻事故が起こっただけでなく、
甘粕才生の息子・謙人と出会って色々話しを聞く内にそう確信したのです。
無論、脳を手術するのは健常者には出来ない事。
甘粕謙人は昔の事故で植物状態になったから脳の手術が出来たのだが、円華は健常者。
そんな健常者の頭にメスを入れるのは到底難しい。失敗するかもしれない。
そんな事でも円華は強い意志で父親に頼んだのです。

この物語は、2つの温泉地で起きた硫化水素事故と
もう1つは昔、甘粕家で起きた硫化水素事故、この2つの要因が重要なカギです。
特に後者の方が。
重要な人物は甘粕才生と甘粕謙人の親子。
この2人は何かしら欠陥がある。
甘粕謙人は未だ良い方だが、父親の甘粕才生はとんでもない人物。
天才映画監督であるが故、甘粕才生の本当の真実とは何なのだろうか。
それは到底許されることでない真相ですが、果たしてそれは何か……
この2人についてはこれ以上言えません。
結構、話の中核なので実際に読んで下さい。
そして、温泉地で起きた事故は本当に事故なのか…
甘粕家で起きた事故も同じく…


この物語は、物理系の話しが出てきて内容が難しいと思います。一見、ガリレオシリーズみたいに思うかもしれません。
ある人物の悪い部分も見えてきますが、家族の在り方・生きている存在意義・大切なものは何か、という生き方の真価を問われる感動ストーリーです。摩訶不思議な物語で物理用語が出てきますが、特に分からなくても大丈夫です。

ここで、気になった部分を抜粋します。
物語の最終段階で甘粕才生と謙人が対峙している場面で、謙人が父親・甘粕才生に向かって言った言葉。

(前略)
大多数の凡庸な人間は何の真実も残さずに消えていく。生まれてきてもこなくても、この世界には何の影響も無い。だけど違う。
世界は一部の天才や(犯罪者のような)狂った人間たちだけに動かされているわけじゃない。
一見何の変哲もなく、価値も無さそうな人々こそが重要な構成要素だ。人間は原子だ。
一つ一つは凡庸で、無自覚に生きているだけだとしても、集合体となった時、劇的な物理法則を実現していく。この世に存在意義の無い個体など無い
ただの一つとして。

ラプラスの魔女P476より

どんな人間でも、みんな生きている価値はある。
生きている価値が無い人など1人も居ないという事

たとえ植物状態となったとしても生命果てるまでは生きている価値はある。
人間は原子だ」。
原子は最小単位。
それが結び付けば分子になる。
人間に言い換えると、1人より2人、2人より3人、
もっと集まると偉大な力を発揮する

だから、
この世に存在意義の無い個体(人間)は無い」と言っている。
この世に生まれてきたのは神様が何か使命を与えて下さっているのかもしれない。
その使命とは人それぞれだけれども、
人生を楽しんで最後まで生命果てるまで生きなければいけないですね。

この物語で羽原円華と甘粕謙人は特殊能力で少し先を予測出来ますが、
未来って分からない方が私は良いと思います。
あなたはどう思いますか。
過去は済んだ事だから思い出に過ぎない。
未来は誰にも分からない。
天気予報でさえあくまでも予報。
誰にも分からないから期待もあるし不安もある。
だから、生きる楽しみでもあるんじゃないかな。
最後まで精一杯生きましょう。

「ラプラスの魔女」は2018年に映画で公開されていました。
主人公の羽原円華役は広瀬すずさん、甘粕謙人役は福士蒼汰さん、その父親の甘粕才生役は豊川悦司さん、地球化学を研究している青江役は櫻井翔さん、羽原円華の父親・羽原全太郎役はリリーフランキーさん、羽原円華のボディガードの武雄徹役は高嶋政伸さん、あとは割愛します。

因みに、「ラプラスの魔女」はラプラスシリーズ1作目です。
2作目の「魔力の胎動」は「ラプラスの魔女」に繋がる羽原円華の過去の物語。
そして、最近出たばかりの3作目は「魔女と過ごした七日間」。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

この記事が参加している募集

読書感想文