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「残らないもの」へのデザイン"六本木 common"

再開発の動きがジワジワと進む六本木エリア。進んでそうで進んでいないのもこのエリアならではの特徴だ。
そんな再開発エリア内にあり、建物解体までの期間限定で運営されているカフェ&ミュージックバーラウンジ「Common」。同建物内に展開されるKant.の1階に位置する。
Kant.は都市に生きる私たちが等身大の幸せを感じて暮らしつづけるために生まれた、新しいワークプレイス。上階にはオフィスやワークラウンジがある。
運営は大阪天満橋の「Hotel Noum Osaka」を展開するNoumだ。このホテルはデザインはもちろん、過ごす人達に寄り添った心地よい時間を提供してくれる。

Commonのデザインを手掛けたのは「STUDIO DIG.」。THE KNOT TOKYO SHINJUKUなどのホテルや話題の飲食店のインテリアデザインを手掛ける。ラウンドしたラインと自然の風合いを生かす材料によってスマートで温かみがあるデザインを得意としている。


エントランス

1.有機的空間が生み出す都心の交わり

イベントスペース
カフェスペース

ランチを少し過ぎた時間帯だが、周辺で働く人達や外国人観光客などで賑わっていた。奥にはDJブースがあり、様々な音楽イベントが企画されている。DJブースを囲む溜まりの空間には、何層かの異なる緩やかにラウンドしたラインのベンチが配されている。方向性をしっかりと定めず、座る人たちが自然に気配を感じとりコミュニケーションをとれる程よい曲線だ。土を押し固めたようなシームレスなフォルムも見ていて心が穏やかになる。
同じく厨房と食事提供をするラウンドしたカウンターの周囲には、大小のテーブル席、ベンチ席、カウンター席が適度に配されている。六本木通りに面したエントランス部は柱以外の壁は取り払われて光が奥まで届く。
ここは都心の都心と言われる場所でありながら自然に人が交わりやすい気軽さと居心地のよさがある。

2.マテリアルとリユースの展開

材料や工程の展示
DJブース
再利用可能なブロック

数年間の期間限定という条件下でデザイナーは「残らないもの」へどれほど貴重な資源を投下するかを前向きに捉え、サステナブルな材料や別の場所でリユースできるよう工夫した。壁はワイヤーフレームにブロックが仮積みされたり、積層された木がDJブースに、紙管がカウンターや棚の一部に使われている。テーブルカウンターも複数の廃棄されたであろう材料が砕かれ押し固められている。また多くの人に使われるテーブルに生まれ変わったことは素晴らしいし、混ぜられている材は元々はどこで何をしていたのか、想像するのも楽しい。

3.空間を超越する美味しさ

自家製ハムのオープンサンド

正直デザイン性の高いカフェのご飯は、自分の中で勝手に期待値が高くなってしまっていたためか、期待通りの美味しさに出会えなかったことが多く、最近はさほど料理に期待はしていなかった。
しかしランチに注文した自家製ハムのオープンサンドは、とんでもなく美味しかった。
土台のカンパーニュも香り高く、自家製ハム、トレヴィスという赤キャベツのようなもの、ポムフリットという名のフライドポテトを一緒に食べるとそれぞれ味が混ざり合ってまた美味しい。そして私が一番感動したのは上にかかっている生姜のマヨネーズ。大好きな生姜と普段あまり食べないマヨネーズがこんなにも新たな味を生み出し全体に味をまとめているのが職人技だと感じた。

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