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空間のチューニングによる適度な緊張感と、なめらかなユーザー体験がアートを鑑賞することを最適化するーームトカ建築事務所による「ファーガス・マカフリー 東京」

こんにちは。
アーキテクチャーフォトの後藤です。

いつもご覧下さり誠にありがとうございます。

今日は、先日訪問した、東京・表参道にオープンしたギャラリー「ファーガス・マカフリー 東京」について書いてみたいと思います。
設計は、ムトカ建築設計事務所です。

ムトカは、青木淳建築計画事務所出身の村山徹さんと、山本理顕設計工場出身の加藤亜矢子さんによる設計事務所です(プロフィールはこちらに)。

様々な住宅の設計で注目されていると同時に「小山登美夫ギャラリー」の設計を担当するなど、アートを展示する空間の設計に対しても実績のある建築家です。

そんなムトカさん達の設計したギャラリーでしたので、期待を持って伺いました。

ギャラリーは表参道駅から徒歩5分くらいの場所にあります。

青山通りに面した路地の突き当たりにギャラリーがあります。まずこの立地が凄く面白いです。すでに存在している路地が、そのギャラリーに向かうためのアプローチとして機能しています。ギャラリーのエントランスを建物のどこに位置させるか、という部分に建築家がどこまで関わったかは分かりません。ただ、ロケーションを最大限に生かす計画がされているのは間違いありません。

この路地を奥まで歩いていきます。

正面に、ビルの一部を掘りこんだかのようなエントランスアプローチが存在しています。これによって、路地を歩いてきてくれた訪問者を優しく向かい入れ、また、これからギャラリーに入っていく鑑賞者の心を整える機能を担っているとも感じました(この部分は京都の中村外二工務店の仕事だそうです)。既存建物の外壁と対比するように、彩色された木とそれと同色の金属のリブ(※訂正:木材にウレタン塗装との事。漆をイメージされていると村山さんが教えてくださいました)が取り付けられており、その質感の違いが静かながらも、ここが特別な場所であることを物語るクオリティの高さを感じました。

この半透明のガラス戸をあけて内部に入っていきます。

(ここから先の写真がないので、こちらで見ていただいてから読んでもらうと理解しやすいかと思います。)

内部にはいると、まず正面に大きなギャラリー空間があることに気がつきます、左側に別の展示室の存在もちらりと見えますが、自然とその第一展示スペースにと引き込まれていきます。
エントランス部分と展示空間は天井高に差もつけられていることで(展示室の天高の方が大きい)、展示室に入った時に空間の変化(開放的な感覚)を受けます。

また、壁面の一面は展示用ではなく、自然採光ができる天井高いっぱいの木製建具とされていることが分かります。そこには障子のような素材があてはめられており、フィルターとして光を均質に拡散すると共に、空間に少しの光の揺らぎをもたらしています。

この建具壁面によって、この展示スペースは均質さというギャラリーに求められる特性を持ちつつも、同時に優しさ柔らかさ、少しの不均質さが加わっています。この効果は凄く大きいなと感じました。
ホワイトキューブの空間からは過度の緊張感を受けることが多いのですが、この展示室の中では、その緊張感がありつつも、少しのリラックス感も感じることができます。それはとてもバランス感が良く、リラックスした状態で展示作品と向き合うことができる空間になっていると感じました。

第一展示室を一周するとエントランスの空間にもどってくる構成になっています。最初に視界に入っていた第二展示室に自然と足が向かいます。その途中に木製のカウンターが配置されていて、芳名帳なども置かれていることに気がつきます(ギャラリーでは訪問者が名前を書いていくことが通例となっています)。

第二展示室も、第一展示室と同じ構成をしています。(おそらく)同じヴォリュームの空間で、一面を採光可能な木製建具をあてはめています。

ここに来ると、展示空間が壁を挟んでシンメトリーという強い空間形式になっていることに気がつきます。おそらくこの構成は内部経験としては緊張感を生み出す作用があると感じました。そして、それを調整する役割が木製建具や、カウンターの素材が担っていると感じました。

つまり、ギャラリー空間がどのような性格をもつべきなのか(感覚・印象を訪問者に与えるのか)ということが注意深く・検討されているのです。

第二展示室を一周見て回ると、その開口部の正面にカウンターが配置されていることに気がつきます。動線の最後の場所でキッチリとカウンターと正対することができるようになっているのです。

ここまで、平面計画やホワイトキューブをつくることで、ギャラリーに必要な緊張感・厳格さをつくりだしつつ、そこに木製建具や自然光を取り入れる設計によってそれを緩和し、緩やかな雰囲気を取り入れるという空間のチューニングがとても丁寧に行われている、ということを書いてきましたが、訪問者が、無意識のうちに(なめらかに)ギャラリー内をストレスなく見て回ることができる設計になっていることも強く印象に残りました。

空間体験を「なめらかな」ものに出来るということを初めて感じたのは、ラファエル・モネオが設計した、ストックホルムの近代美術館を訪問したときでした。エントランスに入ってから、展示室をめぐる全ての行動が、ピクトグラムに頼る必要がなく、自分の直感に従って自然に歩いているだけで、ストレスなくなめらかに見て回ることができたのです。これはすごく驚きでした!

なぜ、そのようなことが可能なのかを考えた時に、気づいたのは、それぞれの空間にいる時の、人間の視界に入るものが何であるか、そして、その視界に入るものに、明確な序列をデザインしたり(ドアや開口部の大きさや仕様など)、空間の明るさや暗さを丁寧に設計することで、訪問者の動きを適切にコントロールできるということです。

それは、美術館という空間にもとめられる、ストレスなくアート作品を鑑賞できるという目的に、非常に貢献していると感じたものです。

今回ご紹介した「ファーガス・マカフリー 東京」でも同じ感覚を受けました。ドアを開けてから鑑賞し、外に出るまでの一連の流れが、非常になめらかでストレスがないのです。ここでも、それによって鑑賞者はアート作品と対峙するということに集中できる空間になっているのです。

空間の性格を適切にチューニングする、訪問者の体験をなめらかにする、そのような設計が注意深く考慮されている「ファーガス・マカフリー 東京」は、とても素晴らしい建築だと思いました。

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ウェブの世界が注目を集めるようになり、UI、UX(ユーザーエクスペリエンス)という言葉が世の中でも注目を集めるようになっています。そのような言葉が存在する前から建築家たちは自身がつくる空間において、熟慮を重ねてきたのだと思います。もし建築を専門としていない方がこのテキストを読んで下さったとしたら、UX的視点で建築をみてみるというのも面白いかもしれません。

逆に建築を専門家としている方々は、建築家の仕事の一部には、UXの概念が入っているということも意識しても良いかもしれません。その部分は、まさにウェブ発信にも通じる部分ですし、応用が効くと考えています。

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