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スポーツ=○○×△△。それぞれあてはまる言葉を求めよ。

1.夢の劇場にて

どこまでも続きそうな階段をのぼり、改めてスタジアムの巨大さを知る。やっとの思いでのぼりきった先に飛び込んできた景色に、思わず息を呑んだ。表面をなぞるように吹き上がってきた風の中、私はいまにも落ちそうなほど急な観客席の最上段に立っていた。

2019年12月5日。ここは、イギリス、オールド・トラッフォード。「The Theatre of Dreams (夢の劇場)」と称される世界有数のサッカースタジアムだ。

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観戦したのは、ホームのマンチェスター・ユナイテッドが、ロンドンの強豪トッテナム・ホットスパーを迎えた試合。当時のユナイテッドは不調そのもの。さらに、前監督のモウリーニョ氏を迎えるということもあり、初めてのサッカー観戦にしてはアクの強すぎる雰囲気が漂っていたのを覚えている。

当時、イギリスのマンチェスターに留学していた私。「こんなこと、一生に一度だから」と、思い出作りほどの気分で一番安い席を買った。そして最終的に、一生に一度もないかもしれない体験をした。

2.熱狂の渦へ

その瞬間は突然訪れた。1-1で迎えた後半4分。主審が笛を吹き、ペナルティスポットを指す。沸き上がる観客たち(ちなみにこの頃にはスタジアムの雰囲気にも慣れ、現地の人々よろしくチャンスの時には自然と腰を浮かせるようになっていた)。キッカーはエースのM.ラッシュフォード。ボールを置き、ゆっくりと助走を始める。

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シュートを打つ刹那、スタジアムを静寂が包んだ。

それも束の間、会場は再び熱狂でいっぱいになった。

このときの動画を、今でもたまに見返す。そして毎回、あの静寂に、90分の中で一瞬だけ訪れた静寂に感動してしまう。この静寂が意味するものはなにか。そこに、私はスポーツの価値を見いださずにはいられない。あの日、あの一瞬だけは、会場にいる全ての人が、選手たちが織りなす一挙手一投足に注目していたはずだ。90分立ちっぱなしの警備員も、スタジアム上段にあるVIP専門バーのマスターも、あの一瞬だけは、我を忘れてことの行く末を見守ったはずだ。

こんなにも馬鹿馬鹿しく、そして素晴らしいことがあるだろうか。

スポーツがあるだけで、人々は日常の一切を忘れ、目の前の動向に夢中になれる。たとえそれが一瞬だとしても。それまで「なんとなく」好きだったスポーツに、好きでいられる理由を見つけた瞬間だった。

3.スポーツがくれたもの

#スポーツがくれたもの、それはある公式だ。

スポーツ=選手×市民。

スポーツは選手たちだけによって完結するものではない。それらを取り巻く多くの市民がいて、その価値が高まる。そして、それら二つの要素は足されるのではなく、掛け合わされることによって幾重にでもその素晴らしさが発揮される。

あの尊い体験は、このことを私に気づかせてくれた。

そして、この素晴らしさを広めることに身を捧げたい、とも感じるようになった。なにかしらの目的を持って世に出たい。そう思っていた私に、スポーツは、人生を懸けても良い目的をも授けてくれたのだ。

4.変わりゆく世界の中で

あれから約1年半が経った。世界は、あのときの記憶からは想像も付かないほど変化した。

スポーツを構成する「選手」と「市民」。未知のウイルスは、一瞬にしてその両方を奪った。大勢の人が一堂に会するスポーツ観戦というエンタメは、この時勢にはそぐわないものだったのだろう。人々の「非日常」を支えていたスポーツは、その価値を奪われることになったのだった。やがてスポーツに「選手」が帰ってきた後でも、それらを取り巻く「市民」との距離は遠いままだ。

この時代に、私はスポーツで人々の生活を彩る仕事がしたい。私があの日感じたように、スポーツを通して人々の「非日常」を創造したい。

ライターとして、文章でスポーツを描く。

スポーツイベントを企画し、人々が楽しめる空間を作る。

人財事業に携わり、多くの人にスポーツというフィールドで職を得てもらう。

方法はいくらでもある。全ては

スポーツ=選手×市民

その解がどこまでも伸び続けることを夢みて。

Ren






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