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サハラマラソン 2024 / レース総括




昨年の10回大会連続出場を区切りとし、また今年から大会運営が変わったこともあり、今年のサハラマラソンへの参加は見合わせていたが、日本事務局からの依頼で大会スタッフとしてサハラマラソンに参加することになった。


ということで、大会スタッフとしての視点にはなるが、今後サハラマラソンの参加を検討している人たちへ向けて、大会運営が変わったサハラマラソンはどうだったのか、まとめ記事を起こすことにした。



まずは、イギリス人メディアスタッフ、フランス人選手の大会まとめ記事を参考までに掲載する。

・イギリスのフォトグラファー、イアン・コーレスの大会まとめ記事


・12回出場・完走したフランスのランナー、シルヴァンの大会まとめ記事
(ちなみに彼は今年の大会直前はソウルマラソン、徳島マラソンに出場していた)




さて、今年から大会運営が変わったというのはどういうことか。


昨年までのレースディレクターは、サハラマラソンの創始者でもあるパトリック・バウアーだった。今、世界中で行われているステージレースは彼の影響と言っても過言ではない。いつか彼もサハラマラソンから退く日が来るという覚悟はあったが、それはまだまだ先のことだと思っていた。

それが、昨年のサハラマラソンを最後に勇退すると知ったのは、昨年のサハラマラソンの後だった。その時の衝撃は今でも忘れない。



このレジェンド、カリスマのあとを引き継いだのが、シリル・ゴーティエというフランス人だ。シリルは2009年にサハラマラソンに参加し、その際にレース装備が自給自足レース、極限の環境下に向いていないと感じ、2年間の試行錯誤の末、ステージレース用のバックパックを開発。

これが成功を収め、2013年にはWAA(What A Adventure)ブランドを立ち上げて、サハラマラソンの公式グッズに採用された。そして、2017年から始まったHalf MDSレース(3日間120kmのステージレース)の運営&公式スポンサーとなった。

という経歴の持ち主で、HMDSレースの運営経験も活かしながら、今回のサハラマラソンの運営を行なっている。




今回の変更点として主に以下が挙げられる。


【必須装備】
・ポイズンリムーバーが除かれる
・14個のコンソメキューブを追加に伴い、大会支給のソルトタブレット廃止

サハラ砂漠といえばサソリだが、実際10年通ってサソリを見たのは1回だけで、ポイズンリムーバーは使う機会は全くなかったので、この判断は歓迎。

14個のコンソメキューブについてはレース前から度々議論になった。ドクターの提案でソルトタブレットよりもコンソメキューブをお湯に溶かして毎朝毎晩飲むことで塩分やその他の栄養素を効率的に摂取できるというのが大会運営側の見解だった。「結果的にコンソメキューブ良かった」という意見もイアン・コーレスのレポートにある。お腹が空いたときに丸かじりしたという声も聞いた。

日本人選手に関してはドライフーズの味噌汁でも対応可能ではないかと思うので、フィードバックで提案するのも良いと思う。レース中はお湯を使わない人には水に溶けやすいコンソメキューブがあれば良いだろうが、、。




移動】
・チャーター機削減(ロンドンから1機、パリから2機)
・マラケシュ〜ワルザザード間の大会バス運行
・野営地、ワルザザードへのバス移動の途中休憩地が路肩の荒野ではなく、ガソリンスタンドやホテルに変更

大会運営がやたら強調する「二酸化炭素排出量の削減」の一環で、チャーター機が昨年より大幅に削減された。「来年からはチャーター機はなしにする」「帰りは空(乗客なし)で帰って行くなんて無駄」と筆者がシリル本人から聞いているので、来年からはチャーター機廃止と見てよいだろう。

今回のようにマラケシューワルザザード間の大会バスが増える見込みで、大会前後で現地に観光でお金を落としてほしい意図もあると思われる。

そして、移動の休憩ポイントがガソリンスタンド(往路)、ホテル(復路)に変更になり、ランチパックは支給されているもののガソリンスタンドに併設されているお店で飲食できた。また復路のホテルではお菓子や飲み物が振る舞われた。特に女性はトイレで困ることがなくなった。


【野営地】
・女性選手のみのテント、女性用トイレ提供、生理用品も常備
・レース前の食事提供なし
・レース開催中のメールサービス廃止
・エモーションボックス新設
・テント中央でヨガやMDSレジェンド達による体験談共有の時間

女性ランナー参加が過去最高人数だというアナウンスがあったのは、女性に配慮した運営も影響しているようだ。

レース前に批判の対象となったレース前の食事、特に「二酸化炭素排出量削減」のもと、メールを印刷する大量の紙は資源の無駄遣いだとして今回廃止となったメールサービスの不満はあちこちで聞いた。

代わりにエモーションボックスなる参加者が1分間のビデオを撮影し、あらかじめ登録したメールアドレスに送信するというブースが新設された。このエモーションボックスは「サプライズ」として提供されたわけだが、運用においてはまだまだシステムの改善の余地があり。

そして、円形状のビバークがテント同士が近くなり、ひと回りくらい小さくなり、中央ではヨガやMDSレジェンド達による体験談共有の時間が設けられていた。参加者が多すぎるため、もっと選手間でのコミュニケーションが取れるように配慮したものだと思われる。


【レース】
・7日間6ステージ制(チャリティーステージ廃止)
・ステージ3にオーバーナイトステージ
・ループコースの採用
・アーリースタート(6:00〜7:30)
・CPでの給水方法変更・トイレ設置
・CPでの冷水サービス新設
・WS(ウォーターステーション)新設
・ゴール後の給水、水ボトル支給
・メディカルパトロールランナー新設
・GPS端末、トラッキングシステム一新
・ワルザザードに戻ってから表彰式、パーティ

レースについては前回までと大幅な変更が加えられている。ここ数年、サハラ砂漠の気温が上昇していることもあり、選手の安全をかなり配慮した上で、早朝スタート、また給水方法が変わり、CP間にウォーターステーションが新設され、水不足に陥るリスクが大幅に減少された。筆者は昨年CP以外で給水を受けて時間ペナルティをもらったが、今回はそのペナルティは発動されなかった。

そして、CPではメディカルが首や頭に冷水をかけてくれるサービスがあり、上昇した体温を下げる役割を果たしている。また、コース上にはメディカルパトロールというゼッケン番号1000番台、赤いゼッケンをつけたドクター(もしくは看護師)が医療品を背負って走っていた。(ゴール後に食糧と交換)

安全面での配慮が見て取れる一方で、緊急搬送時に大いに役立つヘリコプターが削減されていたのが気になるところである。


そして、今回よりチャリティーステージが廃止となった。7日間6ステージ制、過去最長の251kmを走ることとなり、オーバーナイトステージは3日目になった。これについては特に批判の対象にはなっておらず、オーバーナイトステージが終わっても、あと3ステージ、まだまだ勝負は決まらないというところでレースの面白味が増したように思えた。

問題はループコースである。
第1、3、5ステージはループコースとなり、同じテントに戻ってくる。よって野営地設営は従来の6ヶ所から3ヶ所になった。これも「二酸化炭素排出量削減」の一環で野営地移動トラックやコスト削減の意図があったようにも見える。もしかしたら、運営が変わったため、ループコースを取ることで運営のしやすさで、安全策を取ったのかもしれないが、これは来年のコースを見てみないと分からない。

ループコースで同じ場所に戻ってくるのはつまらないという意見をよく聞いた。また、同じ場所に戻ってくるため、荷物をこっそり置いて行けるんではないかと考える人たちも当然ながら出てくる。実際、スタート後に大会スタッフがテントを見て回ると、絨毯の下に食料を隠していたのを発見したりしていた。

ループコースは今回初めてなので、このような「ズル」に対するペナルティ規定はレギュレーションにはない。そのため、ペナルティ対象になると注意喚起するくらいに留まっていた。

ゴール後の水について、今まではゴール後に4.5リットル(1.5ℓx3本)が支給されていた。今回は5リットルのボトル1つだ。これに加えて、ゴール地点では給水タンクがあり、そこからフラスクに入る分だけ水を入れることができた。これは、水ボトルとは違い、厳密にチェックされていないので、また後から戻ってきて、フラスクに給水することができた。なので、最終ランナーがゴールするまではほぼ無限給水状態だった。



と、変更点についてはこんなところだろうか。



今回の大会については、フランス人ランナー、シルヴァンが簡潔に表している。

De l’ère de la Légende à l’ère commerciale
伝説の時代から商業時代へ

Le Marathon des Sables sans Patrick Bauer, que faut-il en penser ?

これに尽きる。



大会スタッフについては、大会運営が変わったことにより、メンバーも大きく変わった。筆者は10年間サハラ砂漠に通っていたわけだが、その時の顔馴染みのボランティアスタッフはほぼいなくなっていた。

自分も含めてになるが、大会スタッフ(メディカルチームも含め)は刷新された形となった。経験者が圧倒的に少ない中、大会ボランティアスタッフはレース運営を行なっていくこととなった。その辺については、次回続編にて記す。



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