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25.ボートとしゃぼん玉

穏やかに晴れた5月6日
私たちは真っ白のシャツに袖を通して
しっとりと黒い
スリーホールのドクターマーチンを履いて
お揃いの腕時計をして家を出た。
のんびりとあったかい太陽の下で
手をつないで歩いた。

ひばりヶ丘の小さなアトリエで、
シルバーのアクセサリーを、
お互いのことを思いながら
トンテンカンテンと作って

それを大切に身につけながら
ピカピカの心でまた電車に乗った。

お互いの心をお互いが満たしあって
2人の周りにはふんわり春の香りがするようだった

石神井公園の小さな売店で
ピンク色のボトルに黄色のキャップが付いた
シャボン玉を買って、
レンタルの手漕ぎボートに乗った。

ゆっくり遠くの日陰の方へオールを漕いでゆく
池のまわりに背筋を正してキショウブが咲いている

何を喋ることがなくたって、ただ幸せな午後だった

私はカメラを回しながら、
さっき買ったシャボン玉をフウ…と吹いた
黄緑の吹き口からぷっくり丸い球が現れて
風に運ばれ飛んでゆく
光を浴びて虹色に光るシャボン玉が
水面に当たって壊れると
ぱちぽち ぱちぽち と音がした

3年と半年。

動画ファイルの整理をしていると
あの日の動画が残っていた。
何か思いが湧くのかと思ったら。
ちゃんと思い出になっていて、
私はただ幸せな午後をみつけた。

よく晴れた朝に寝ぼけながら、
ひとつの動画を
ぱちぽち、削除した。

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