御喜悠

小説を書いています。 他、エッセイなど、いろいろ書いています。

御喜悠

小説を書いています。 他、エッセイなど、いろいろ書いています。

マガジン

  • 道標! どこへ行く?

    山で出会った道標を集めてみました。山の道標には、手作り感いっぱい、朽ちてもなお使命を果たそうとする健気な道標。そこには山の風土や歴史を感じさせてくれます。

  • 『照星(しょうせい)』

    フランス軍での狙撃兵訓練から実戦へ

  • ジョニーさんの動物記

    いろいろな動物との交流のお話です。

  • マンガ小説「翔べ! 鉄平」 エピローグ

    劇画風に仕上げた小説・・・エンタメ小説ですね。 長い間 ありがとうございました。

  • 「翔べ! 鉄平」 第二部

    マンガ小説、いわゆるエンタメ小説です。いよいよ本番。上陸作戦!

最近の記事

  • 固定された記事

『翔べ! 鉄平』  1

 熱い風が木々の茂みの上を翔けて行く。  熊野神社境内の裏手、鎮守の杜の山の斜面には大きなイチョウの木があり、子供たちが集まると、たいていはその木の周辺が遊びの中心になる。だからそのイチョウの根元や周りの斜面は緑の草も生えないほど忙しい遊び場になっていた。  緑の深くなる夏の雑木林の中は、そのイチョウを中心にそこだけが大きな空洞のようになっており、取り巻く木々はその空間に枝葉を伸ばすことを控えている。蝉の声が木々にこだまして杜に充満しても、それに負けじと子供たちの歓声が響

    • 【白骨】

       小さい頃から鳥瞰図などが好きで、山に登り始めた頃から、いろいろな山の地図を眺めては、いつか行こうと思っていた。「山渓」の登山地図はなんども見ていた。  そんな中、ある場所が印象に残っていたのだが、  海外へ行ってから25年後、日本に帰ってきて、再び日本の山へ登ろうかと思い、「山渓」 の登山地図を見ていたら、あの地名が載っていないのである。  それが「白骨」。  確か、昔憧れだった「雲の平」の近くだったと思っていたのだが、人に聞くと 「白骨温泉」の間違いでは? と

      • お母さんを探して

        パリ在住だった頃の話。 家内が言うには、 「人間として育てています!」 犬、二匹のこと。 一匹はオス、名前はトラくん。もう一匹は3歳若くてメス、サクラちゃん。 どちらも耳の大きなコッカースパニエル。 元々トラくんは去勢もしていないので、多少他の犬とうまくゆかない時がある。 そこで犬友達とおしゃべるするために、サクラちゃんが欲しかったのだろう。 サクラちゃんが来てからは、トラくんは妹のサクラちゃんに仕切られて大人しくなっていた。      *** ある日、家内が入

        • 山で「怖かった話」

           もう40年も前の話である。  山小屋で働き始めて数ヶ月が経った頃だった。  その日は近づいていた台風の影響で明け方から小雨が続いていた。泊り客はまだ雨足が弱い早朝から駆け足で小屋を後にして行った。  なので朝食の片付けから部屋の掃除まで、早めに終えることができ、シーズン中ではあったが、昼食も落ち着いて摂ることができた。  午後になり、受付の準備をしていると、夫婦と子供三人連れがやってきた。夫婦は40代であろうか。子供は小学校高学年の男の子に見える。  雨足は次第に

        • 固定された記事

        『翔べ! 鉄平』  1

        マガジン

        • 道標! どこへ行く?
          2本
        • 『照星(しょうせい)』
          11本
        • ジョニーさんの動物記
          6本
        • マンガ小説「翔べ! 鉄平」 エピローグ
          8本
        • 「翔べ! 鉄平」 第二部
          6本
        • マンガ小説 『翔べ!鉄平』 第一部
          16本

        記事

          山犬の話

          昔、コルシカ島(Cors)のカルヴィ(Calvi)という町に住んでいた。 その島は、地中海にある島で、アルプス山脈の麓ニースの町と海を挟んで南側にある島だ。 カルヴィは、夏ならフランス本土から来るヴァカンス客で賑わう港町だ。 ある年の冬、12月の初め、休暇をもらい山に出かけた。 その年は雪の降るのが早く、住んでいる建物の窓から見える2144mのモンテ・コロナ(Monte Colona)は12月末にでも1000m以上の標高は真っ白になっていた。 休暇初日の午後から歩き

          インペリアル・ディテクティブ 最終話

          三島は森山家一家殺害事件の発生の時から語り始めた。      * 森山家殺害の第一発見者は竹中巡査であった。 その日、竹中巡査は交番に通報のあった無銭飲食の犯人を追いかけていた。 被害者のうどん屋の証言から、今までに何度も補導、逮捕されていた津久井淳であると考え、地域の見回りをしていた。 そんなある日の夜、淳がある家から飛び出してくるのを見つけた。 その時は淳を追いかけることよりも、その家で何かが起こったのかも知れないといと思いその家に入ると、すでに五人が殺されていた

          インペリアル・ディテクティブ 最終話

          インペリアル・ディテクティブ 第5話

          ファイル3   津久井淳ケース・握り飯  つづき 美山と純平が2Bに戻ると、恩田はまだ戻って来ていなかった。 二人は美奈子と淳が焼け出された後のことを知る人物がいないかどうか探ってみるとこにした。 そこで再び二人の調査書類を丹念に読み返してみることにした。 「あの、この淳が森山家を飛び出していく所を目撃した巡査。生きていないでしょうか?」 「この目撃者の竹中巡査ね」 すると美山は電話を取り警察庁の桜庭に電話をかけ竹中が今何所にいるか、その前に生きているかどうか探して

          インペリアル・ディテクティブ 第5話

          インペリアル・ディテクティブ 第4話

          ファイル3 津久井淳ケース・握り飯  順平は、新山栄治ケースの報告書を献上した後、口数が少なくなっていた。 ただ以前のような左遷されたという被害妄想はなくなり、入力作業を地道に丹念にこなすようになっていた。 ボロボロと崩れてしまいそうな古い書類と、怪しげに光り輝くパソコン画面を交互に見つめる眼差しは一期一句を語り継がなければならない義務感を漲らせている。 そんな順平のデスクのすぐ向かいで美山もごく当たり前の時間を過ごすように調べ物などの仕事を続ける。 ただ恩田は時折用件

          インペリアル・ディテクティブ 第4話

          インペリアル・ディテクティブ 第3話

          ファイル2  新山栄治ケース・M資金  つづき 1945年、昭和20年、8月8日、ソ連軍は日ソ中立条約を破棄し、満州へと侵攻を開始。 満州国南方の通化まで進駐した。 そして日本のポツダム宣言受諾後、満州国は中華民国の統治下におかれることになったが、ソ連軍は中国共産党にそれを引き継ぎ、中国共産党軍が統治を始めると中華民国軍は駆逐された。 満州国に残された日本人は、中国共産党の支配下で、財産の没収、略奪、強姦などの迫害を受け、共産主義への転化を迫られながら、翌年の1月、残留

          インペリアル・ディテクティブ 第3話

          インペリアル・ディテクティブ 第2話

          ファイル2  新山栄治ケース・M資金 順平はその後一ヶ月ほどの間単調な入力作業を続けていた。 古い資料の旧仮名遣いを読みこなすだけでも時間が掛かる。 そうしてたまに画面をインターネットに変えては、ニュースを読んでみたり、仕事上の気にかかる言葉や人名を検索してみたりしていた。 地上の生活は仕事が終わってエレベーターで地上階に出てから始まる。 庁舎を出て電車に乗り、家に帰るともう夕方で、太陽を拝めるのは次の朝になる。 忙しなく出勤してしまえば、太陽の光を浴びることの出来

          インペリアル・ディテクティブ 第2話

          インペリアル・ディテクティブ 第1話

          あらすじ 梅沢順平は厚生労働省から内閣調査室別室、通称セカンド・ビューロー(2B)に派遣されることになった。 順平は先輩の美山洋子に連れられて、報告書を提出するため吹上大宮御所へ向かう。その帰り、報告書の内容と昭和天皇勅定の2Bの歴史を知ることになる。 報告書の内容は、塩田貴子ケース。埼玉の公団住宅の一室で孤独死しているのが発見されるが、預金には三千万円も残っている。受取人を探すため、貴子の歴史を追った。夫は兵隊に取られビルマで戦死。子供を米三升と交換して飢えを凌ぎ、再婚後は

          インペリアル・ディテクティブ 第1話

          『照星(しょうせい)』 11 終

          剛、カッフ、そしてルインがその場所を離れると後方に残っていた第三小隊も合流して来て農地を囲む密林の端に沿って散開した。 第三小隊は家屋に向かい畑を挟んで横一列に、各人が五メートルほどの幅を取りながら並んだ。 膝を突いて突撃銃を構え、全員が弾倉を装填した。 丁度第二小隊がその西側で同じ展開をしていた。 L字型に第三と第二の小隊が農場を囲んでいた。基本的なトーチカ戦の陣形である。 「第一分隊、家屋に向かって、横一列、幅五メートル、進め!」 ルイン伍長が声を張り上げると、

          『照星(しょうせい)』 11 終

          『照星(しょうせい)』 10

          午前四時、剛とカッフは再び監視の当番に起こされた。 昨日の定位置に着くと再びスコープで監視しはじめた。 普段の訓練なら眠いと感じただろうが、今は全ての神経が標的に向けられていて苦も苦に思えなかった。 空は黒い夜から深い藍色の空に変わり始め、黒い密林に覆われた地球が藍色の空を背景に丸く浮かび上がってくる。 朝露で湿った顔がべとつく。汗の臭いに蚊が唸った。 密林の中にお盆の底のように開けた農場に靄が流れ込む。 そして肉眼で判別できるくらいに明るくなる頃には、畑も小屋も霧に包

          『照星(しょうせい)』 10

          『照星(しょうせい)』 9

          マトリッシュは剛に手招きで着いて来るように合図した。 二人は緊張で震える足を静かに出来るだけ早く動かして、藪を掻き分け斜面を登った。 分隊の進行方向に向かって突き出た稜線を登ると、そこに大きな木があり、その下は草地になっていた。 ほぼ四十メートルの高さから、行く手の密林地帯を上から眺めることが出来た。剛は銃のスコープを取り出して、草の陰から北北西の方向を覗いてみると、地球の丸さを現す広大な密林の中に、ぽっかりと穴のように禿げた、明らかに人の手で開かれたと思われる場所を見つけ

          『照星(しょうせい)』 9

          『照星(しょうせい)』 8

          小隊は衛生兵のペルチエーが配る抗マラリア剤のニバキンを第一分隊から順次受け取って口に放り込むと、密林の中へ潜り込んでいく。 ルイン伍長が指揮する第一分隊の剛は、その最後尾に着いて歩き始めた。その時、准尉が声をかけた。 「ヤジマ、今日は良い化粧をしているな」 「はい、ベルーに良い化粧品を借りたンです」 「そうか。わたしも後で借りよう。そうだ。今日は特別な日だね。射撃手として初めての実践だな。でも射撃はいつもの訓練どおりでいいンだ」 剛は准尉の浅黒い顔には化粧は必要ない

          『照星(しょうせい)』 8

          『照星(しょうせい)』 7

          数週間後、緊急呼集が掛かった。 それは消灯前の静かな兵舎に甲高い笛の音が響き渡ることから始まった。 第三連隊の第三中隊が出動することになったのだ。もちろん剛の所属する第三小隊も含まれていた。 軍警察のジープが何台も忙しそうに街に出て行った。 彼らは夜の街に繰り出している兵隊たちを呼び戻しに行くのだ。 熱帯雨林気候の夜のスコールを浴びて濡れた街は、街灯や店舗の看板、家の明かりを華やかに躍らせていた。 午後十時を廻ってもカエルや虫の鳴き声が止まない蒸し暑い夜だった。街は映

          『照星(しょうせい)』 7