見出し画像

人に優しい世の中と衰えた体で生きること。

facebookのタイムラインに「やまゆり園事件〜神奈川新聞取材班」という本の紹介が流れてきた。この本はまだ読んでいないが、今、要介護2で人のお世話になる入り口に立つ身としては、読んでみたいと思った。facebookでこの本の紹介者は、自らの中にもある「植松のタネ」に言及していたが、多分、私の中にもどこかに「植松のタネ」はあって無意識に飼い慣らしているのだろう。介護される側の立場とその逆の立場が自分の中で併存している今、その辺を意識つつ読んでみたいと思った。ただ、今はあんまり余裕はないので、いつ読むことになるかわからないけど・・。

現在、週に一度ヘルパーさんに家事手伝いに来てもらっている。まだまだこうして文章が書けるし、風呂やトイレは自分で行けるし、そこまでのお世話は必要ないが、「植松のタネ」の断片を垣間見る瞬間はある。

この1週間、母が東京に来ていたのだが、もう80歳の母は物忘れもひどく、徒歩5分ほどの駅までの距離を歩けずタクシーに乗りたいというような状態。今回、身の回りの手伝いや部屋の片付けに来てもらったが、あまり作業はできず、何のために来てもらったかわからない感じの時間が続いた。もう80なのだからしょうがない。しかし、しばらく会っておらず、ここまで弱っているとは思っていなかっただけに、動きづらい私の仕事がかえって増えてしまうような母の状況に苛立つことも多く、互いに言い合いになることも多かった。

こういう苛立ちは急にむくむくと湧き起こる。自分の体が動きづらい不甲斐なさ、時々襲う痛み、痒み、体のむずむず。そんなとき、母が必要なものをどこかにしまってわからなくなったり、目の前で東京の友人とおしゃべりばかりしていると、嫌味の一つも言いたくなる。

私の場合は自分も要介護者、母も老齢であるから、物事が効率的に進められない不甲斐なさは、自分に対しても母に対しても湧き起こる。よそのお母さんは80過ぎてもシャッキリしている人も多い昨今、うちの母は私がこんなときにどうしてこうなんだという思いでイライラする。

老齢のしんどさを推して、地方から出てきてくれた母に対して感謝はしているが、自分の体が辛いと、素直に感謝を表明できず、身内だけに辛く当たってしまうことがある。凶暴性が顔を出す。

頭でわかっていることとは別物。急にイライラっと湧き出す怒りの感情。今、私は「植松のタネ」と「介護されるものの不甲斐なさ」の両方を同時に感じている。

私には優しくしてくれる友人もいる。そういう友人に対しては素直にありがたいと思う。母の姿を見るにつけ、それはみんなまだ若くて、ちゃきちゃきとお手伝いをしてくれるからだと気付かされた。年老いていろんな作業がままならなくなった老親に対してはありがたいとは思うが、物忘れで仕事が増えたり、たどたどしい物腰を見るたび、イラッとする自分がいるのに気付くのだ。

老親の動きが辿々しく、物忘れが激しいのは当然なのに、それをなかなか受け入れられない自分がいる。

自分の体や境遇が辛いときにはなおのことだ。

こうした自分の中の効率化や合理性に毒された気持ちを浄化して、のんびり過ごしていいのだという認識を心の中に植え付けないことには、特に「がん」という病は治らないのではないかと思う。

今回、思いの外に年老いた母と過ごして、自分の中に巣食う嫌な部分とか、いろんなことを考えさせられた。

のんびりした優しい人になりたい。

効率的に物事を進められることがどれほど偉いというのか。

そういう人や考え方が世の中に蔓延っているから、現代社会は辛いのだ。

母は今日帰って行った。

空港までも一人で行くことができない人だ。これまではいつも私が迎えに出た。しかしそれができない今、母は自らの東京の友人に空港まで連れて行ってもらった。その友人も母と同い年。高齢になって、子供の働く東京に出てきた人で、東京の地理には疎い。そういう高齢者が連れ立って、なんとかかんとか空港まで行ったようだ。

でも、母曰く、今回は杖をついてきたが、空港でも前回来た時よりいろんな人に手を差し伸べてもらったそうで、田舎より東京の方が親切にしてもらえるという印象を持ったようだ。私の通院に同行して地下鉄に乗った時も、電鉄会社の車椅子対応に感心していた。時と場合にもよるんだろうが、都会の公共的な場というのは、こうした公共性が徹底していたりする。

人に優しい世の中になるために、私たちは心の中のどのような思いを飼い慣らし、建前と本音をどう使い分けて、ストレスを溜めず、暴発しないように生きていけばいいのだろう。

多分、まずは自分を大切にせねばならないのだろうな。体の調子悪くてもイライラするのやめよう。良くなっている過程だと信じよう。

※サポートよろしくお願いします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?