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NYから見える世界中のリモートワーカーたちの驚くべき実態 - 日本のガラパゴス化を防ぐには?-

汚い、臭い、物価が高い、治安が悪いなど、ニューヨークを形容するネガティブな表現は多くある一方で、ニューヨークにいるからこそ見える世界があります。ニューヨークにいないと見えにくい世界、とも言えるかもしれません。そんな世界を感じることができるのは、ニューヨークが世界の縮図だから。

ニューヨークには、ニューヨークで叶えたい夢を実現するために、世界中の人々がやって来て切磋琢磨しています。

大学時代に弾丸旅行で訪れたニューヨークの街から、多様性、そして、ニューヨークで暮らすエネルギッシュな人たちが作り出すこの街の息吹をひしひしと感じ、いつの日か私もそんな街で暮らしてみたいという想いが、私をニューヨークへと駆り立て、2009年に渡米しました。

摩天楼の夜景はいつ見ても迫力抜群

ビッグ4と呼ばれる大手監査法人の一つで働き始めた今からおよそ10年ほど前から感じていた、ニューヨークにいるからこそ感じる驚くべき時代の変化がありますが、ここ数年で、それはさらに加速しているように思います。そして、その時代の流れは、日本がさらに世界の中で孤立してしまうのではないかと思わせる現象でもあり、私は危機感を強めています。今日は、そんなことについて書いてみたいと思います。


ニューヨークで感じる世界中のリモートワーカーたちの躍進

私が感じている時代の変化とは、いわゆる先進国ではない国々出身で英語ができる人たちの躍進です。英語でのコミュニケーションが問題ない彼らの中で、特定のスキル(ITや会計など)がある人達は、母国にいながら米国での仕事を請け負って生計を立てているのです。

物価水準が米国よりもはるかに低いこれらの国々の人たちは、どんなに頑張ってその国でステイタスと言われるような職種で正社員の仕事を得たとしても、もらえるお給料には限界があります。一方で、英語で意思疎通ができて米国にいる人たちと変わらないスキルを身に付けているという武器を使って米国の仕事を請け負えば、母国での正社員よりも好待遇となるのです。

はるか昔は、何らかの手段を使って米国へと渡ってサバイブしたり、母国から米国での仕事に応募し、晴れて採用されてビザがそろったタイミングで渡米したり、というパターンが一般的でしたが、異国の地で生活を立ち上げることは容易ではありません。また、こうしたことができるのは、限られた人たちです。

一方で、米国市場でも十分通用するスキルを身に付け、仕事上での意思疎通に困らない英語力があれば、母国を離れることなく、米国での仕事を請け負うことができるのです。

これは、米国企業にとってもありがたいことです。米国で人を雇うよりもはるかに安い水準のお給料で、優秀な人材に仕事を任せられるので、会社の発展につながります。

こうした外注には2つのパターンがあります。頼む側には大差ありませんが、請け負う側にとっては大きな違いとなって現れてきます。一つずつ見てみましょう。

先進国ではない国々に拠点を置く会社への外注


ニューヨークでのビッグ4勤務時代には、インドにある関連会社へのアウトソースのプレッシャーが強かったです。入社2年目ぐらいまでの経験が浅いスタッフが行うような仕事は、判断を伴わない単純作業も多いため、インドへ外注して、コストを下げましょう、という会社としての至上命題が掲げられ、各プロジェクトごとに、総作業時間の一定%をインドへ外注するように、との指令がくだっていたほどです。

連絡が取りやすいようにと、できるだけ米国時間に合わせての勤務体系をとってくれていたため、地理的距離を感じずに仕事を進めることができました。

英語ネイティブではない私が言うのは気が引けますが、インド人の場合、強いインド訛りの英語の人が多かったため、電話でのコミュニケーションは苦労しました。ただ、メールでのやり取りは全く問題なかったです。
几帳面で細かいところまで丁寧に仕事をしてくれて、アメリカでスタッフを採用するよりもずっと良いと感じる場面もありました。

こうした会社で働く人たちは、所属は母国にある会社のため、お給料は母国水準となっています。会社の経営陣にとっては良いかもしれませんが、社員として働く人たちは、米国の仕事を行っているメリットを享受することができません。

先進国ではない国々で暮らすフリーランスの方々への外注

一方で、フリーランスとなると、状況が大きく異なってきます。

米国の会社から直接仕事を請け負うことができれば、ある程度の金額を支払ってもらうことができます。物価調整等がなされるため、米国居住のフリーランサーより受取額は少なくなりますが、それでも、母国で働くよりはずっと良い待遇となるのです。

フリーランスの場合、自分で仕事をとってこないといけないため、安定的に収入が入るまでの間、なんとかしのがないといけないというリスクはあるかもしれません。しかし、副業のような小規模から始めて、ある程度仕事が取れると見込んだ段階で独立、ということは可能です。

英語力とスキルの掛け算で活躍する世界中のフリーランサーたち

私の周りで、そうした働き方をしているフリーランスの人たちを見てみましょう。

フィリピン在住のAさん:米国に拠点を置く日本企業の秘書・総務担当

かれこれ10年ほど、米国に拠点を置く企業の業務を請け負ってきたというAさん。

もともと米国で採用していた人が辞めてしまったことを機に、コスト削減と離職しない人を採用したい、という米国に拠点を持つ日本企業の意向を受けて、Aさんは、その会社の秘書と総務を、フィリピンから一手に引き受けています。

ほぼアメリカと正反対のタイムゾーンで暮らしていますが、米国時間で連絡が取れるようにと、昼夜逆転の生活。フィリピンは英語が公用語のため、言葉の壁がありません。事務作業が得意な彼女は、理解力も良く、仕事も丁寧で、大活躍しています。

遠い親戚が日本にいるそうで、近い将来は日本へ家族で移住したいとの夢を持っていて、着々と準備を進めているそうです。

カザフスタン在住のRさん:米国に拠点を置くスタートアップと日系子会社のソフトウエアエンジニア

渡米初年度に通ったコロンビア大学附属のALPという語学学校で知り合ったカザフスタン出身のRさんは、その当時、母国で高校を卒業したばかり。英語ができる人材を増やしたいというカザフスタンは、国家戦略のもと、オイルマネーで得た潤沢な資金で国費留学プログラムを設け、アメリカやイギリスなど英語圏に優秀な若者たちを派遣していました。当時のALPには、そんなカザフスタンからの留学生がたくさんいたのです。

彼らは、ALPで数ヶ月英語を学んだ後、自力で米国の大学へと進学していきましたが、学費や生活費は全て国が負担していました。

米国の大学を卒業した後、母国カザフスタンへと戻ったRさんは、いくつかの会社でのエンジニアの経験を経た後に独立し、現在は、米国に拠点を置くスタートアップと大手日系企業の米国子会社からの仕事を請け負っています。Rさんが働いているスタートアップの会社は、世界中から優秀なエンジニアに仕事をまかせるために、米国内にオフィスを設けず、フリーランスの人たちのほとんどが米国外に居住しているそうです。

保守的なカザフスタンを離れて、また米国へ戻ってこれたらと、エンジニアとしての技術に磨きをかけながら、その機会をうかがっていると話していました。

インド在住のAさん:米国に拠点を置く会社の会計担当

Aさんとは、当時私が経理マネージャーを担当していた米国のある会社が、米国で経理スタッフを採用せずに、インドのある会社へ経理スタッフ業務を外注していた時に知り合いました。

英語で授業が行われるというインドの大学を卒業していたこともあって、海外留学を一切したことがないのに、流暢な英語を話し、抜群の仕事ぶり。会計のスキルは、仕事を通じて身に付けたそうです。

米国の仕事を請け負うインドの会社にいる状態では待遇の改善や自分がやりたい仕事ができないからと、昨年、一念発起してフリーランスとなりました。現在は、友人が請け負っている米国の会社の仕事をサポートしています。

こうして見てみると、英語と別のスキル(ITや会計など)のかけ合わせで自らの市場価値を高め、先進国ではない母国で暮らしながら、米国の仕事を請け負っている人たちは、思いのほか多いことでしょう。

コミュニケーションをとれるレベルの英語力があれば、こうしたことが可能となるのです。パンデミックの時に一時的に日本で暮らし始め、日本から米国の仕事を行っているという私の友人も、給与が米ドルでの支払いのため、昨今の円安でかなりの恩恵を受けていて、ごはんも美味しい日本を離れられなくなってしまい、もう3年も日本から米国の仕事を行っているそうです。

ガラパゴス化が進む日本?!

かたや日本はどうでしょうか。英語で指示を出したり、簡単なコミュニケーションをとることができれば、現在日本国内で行われている日本の仕事を、より物価水準の低い国へと外注することができます。これにより、企業は費用を削減でき、企業の国際競争力は間違いなく高まることでしょう。

しかし、英語の壁によってこうしたことができず、しまいには、ITの分野では、日本は米国の下請けという状態にもなってしまっていると聞きます。

日本国内で働く日本人と、かつては日本よりはるかに国力が低いと言われていた国々で高い意識を持って働く人たちとの力の差はもはや逆転してしまっているのではないかと思います。

日本で暮らしている限り、こうした現実は見えてこないと思いますが、まずは、リモートワークの発達によって今世界で起こっていることを知ることから始める必要があるかと思っています。その上で、日本企業として、そして、日本人として、どうしていく必要があるかを考えて行動に移していかないと、日本が後進国へと転落してしまうのではないかと危惧しています。


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2009年に単身NYへ渡り、語学学校から就労ビザ、グリーンカードを取得したアメリカでのサバイバル体験や米国人と上手に働くためのヒントをまとめた「ニューヨークで学んだ人生の拓き方 」がキンドルから発売中です。渡米したい方、日本で欧米企業で働いている方に読んでいただけたら嬉しいです。