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LRT―舌の位置をめぐる話(薄っぺらいもの・03)

 シリーズ「薄っぺらいもの」の三回目です。前回に引きつづき、ぺらぺらして薄っぺらいけどしたたかな存在である――「伝えたい」=「(相手と)つながりたい」というヒトの欲求と欲望(私は欲求と欲望を区別したことがないのでこのように表記します)においてきわめて大切な役割を果たしている「器官=象徴」――舌についての話をします。

「薄っぺらいもの・01」
「ぺらぺら(薄っぺらいもの・02)」

 今回は、アート・ガーファンクルの舌の動きを動画で見ていただくことになりますが、ミック・ジャガーの舌の動きについて書いた記事「『コインロッカー・ベイビーズ』その2(好きな文章・03)」がありますので、興味のある方はぜひご覧ください。

  なお、この記事には以下の動画が入っています。舌の動きに注目してください。


◆ウラジーミル・ナボコフ作『ロリータ』


 今回のタイトルは「LRT―舌の位置をめぐる話」です。

 何の話をするのかと言いますと、英語でLとRとTを発音するさいの舌の位置をめぐっての話なのです。

 Lについては拙文「音の名前、文字の名前、捨てられた名前たち」でも扱いましたが、その記事ではウラジーミル・ナボコフの『ロリータ』を題材にしました。

 大切な部分を以下に引用します。

     *

 ウラジーミル・ナボコフは、Lに誘惑され取り憑かれた人のように感じられます。Lolita という名前より、Lに取り憑かれている気がします。あの小説の冒頭のように、 l をばらばらしているからです。

 つまり、Lolita を解(ほど)き、ばらばらにするのです。名前を身体の比喩と見なすとすれば、この行為は猟奇的だと言わざるをえません。

 名前=身体を口の中に入れ、舌で転がしながら、解(と)き、解(ほど)き、解体し、解帯させるのです。

「Lolita ⇒ Lo-lee-ta ⇒  Lo . Lee. Ta.」
・「ロリータ ⇒ ロ・リー・タ。 ⇒ ロ。リー。タ。」
((『ロリータ』ウラジーミル・ナボコフ著・若島正訳・新潮文庫)より)、

というふうに。

     *

 このように、考えようによっては、いささかいやらしいというかエロチックな話にならざるをえないのです。

 率直に申しますが、舌は「生」だけでなく(物を食するときに重要な役割をします)、「性」(赤ちゃんがらみの口と唇と舌をめぐってのお話はジークムント・フロイトの得意とするテーマでした)とも深くかかわっています。

 なんて、私がフロイト先生を引き合いに出してわざわざ説明しなくても、みなさんが日々実感なさっているはずの感覚をめぐっての話なのです。

 いずれにせよ、そんなわけで、この記事のタイトルを付けるに当たって迷っていました。自己分析すると、過度にエロチックな印象を与えたくないという心理が働いていたようです。柄にもなく自意識過剰というやつですね。

 本題に入ります。

 英語のLの発音については、やはり『ロリータ』にまさる教材はないと思いますので、さらに「音の名前、文字の名前、捨てられた名前たち」から引用させていただきます。

    *

 ウラジーミル・ナボコフの小説『ロリータ』の冒頭です。

 Lolita, light of my life, fire in my loins. My sin, my soul. Lo-lee-ta: the tip of the tongue taking a trip of three steps down the palate to tap, at three, on the teeth. Lo . Lee. Ta.
(太文字は引用者による)

 このLの多さは尋常ではありません。さらには、Lとほぼ同じく、舌の先を上の歯の後ろにくっつけるTの多さ

 これは、もはやLという音を賛美した詩ではないでしょうか。

 ゆっくりと、できればねちっこく声に出して読んでみてください。LとTの音への偏愛を味わってみましょう。さあ、ごいっしょに、どうぞ――。

     *

 邦訳では、以下のようになります。素晴らしい翻訳です。お薦めします。

 当然のことながら、日本語訳でLは消えます。そもそも、日本語の「ら行」の子音と英語のLの発音の仕方は異なります。

 ロリータ、我が命の光、我が腰の炎。我が罪、我が魂。ロ・リー・タ。舌の先が口蓋を三歩下がって、三歩めにそっと歯を叩く。ロ。リー。タ。
(『ロリータ』ウラジーミル・ナボコフ著・若島正訳・新潮文庫)

     *

 拙文からの引用はここまでにして、LとRとTの発音の仕方について最適な教材として、前回の「ぺらぺら(薄っぺらいもの・02)」の最後に紹介したサイモンとガーファンクルによる、「Bridge over Troubled Water (明日に架ける橋)」をここでも使わせてもらいます。

 数ある動画の中で、1981年にニューヨークのセントラルパークで行われたコンサート(Live at Central Park, New York, NY - September 19, 1981)の映像が、いちばん舌の位置とその動きが分かりやすいので、ここでも利用することにしました。

◆Bridge over Troubled Water

*アート・ガーファンクルの舌

 アート・ガーファンクルは歌う時に大きな口を開けます。そもそも口が大きい人なのに、舌の動きまでがよく分かるほど大きく開けるのです。

 見ないわけにはいきません。私なんか、歌そっちのけで唇、舌、歯、そして口蓋に見入ってしまうことがあります。

 口蓋と書きましたが、「こうがい」と読みますね。ふだんはあまり見かけない言葉だと思います。中にはこの言葉を使わずに一生を終える方もいらっしゃるにちがいありません。

 ちなみに、私はこの言葉を鉛筆やペンで書いたことはありません。書かずに一生を終えるという予感があります。

 口を大きく開けると奥にのどちんこ――ごめんなさい、どきっとする言葉ですね、ウィキペディアの「口蓋」の解説に使ってあるので使いました、写真も載っていますよ――が見えますが、上の歯とのどちんこまでの辺りのことです。つまり舌の上の部分です。

     *

 サイモンとガーファンクルによる、「Bridge over Troubled Water (明日に架ける橋)」では、1981年にニューヨークのセントラルパークで行われたコンサート(Live at Central Park, New York, NY - September 19, 1981)の動画がいちばん好きです。

 口の動きに見とれることができるし、特にこの野外コンサートでは何曲も歌う間にだんだん日が暮れていき、観客たちの顔も次第に見えなくなり、ガーファンクルは球場のマウンドにひとり立たされた投手のような孤独を味わっているにちがいない、なんて想像してしまいます。

 ひとりでスポットライトを浴びているガーファンクルの目の表情も見逃せません。ライトを反射して瞳が光っているのですが、大会場でビビっているような不安そうな色が、その目に浮かぶ瞬間があります。

 大観衆を前にした緊張と孤独感から来るのでしょうか。ときおり目線が泳ぐところも素の感情が漏れ出たように感じられ、ぞくっと来ます。

     *

 また、若いがゆえの表情を楽しめます。不安を打ち消そうとするような、不敵な笑み(1:37あたりに注目)――。こうなるともう妄想ですね。おまえ、勝手に妄想していろ、という感じでしょうが、お付き合いください。 

 見どころおよび聞きどころは、

・Like a bridge over troubled water I will lay me down (1:05 あたり)と
・Like a bridge over troubled water I will ease your mind ( 2:25 と 3:48 あたり)

というサビの部分の口の動きです。


 では、細かく見ていきましょう。

     *

*Like a :

  L の舌先が口蓋に触れます。学校で習ったとおりです。i (アイ)ははっきり発音されます。

 little を正確に発音すると分かりますが、単語の冒頭に来る l と最後に来る l は微妙に(いや、かなりでしょうか)異なり、冒頭の l は舌先を上の歯の後ろにくっつけるように、最後や途中に来る l では舌先が口蓋の真ん中あたりに来ます。後者の場合には、口蓋にガムが張りついていて、それを剥がそうとする感じで息を吐くと「おー」みたいな深くこもった音になります。

 したがって、little は「リロ」みたいに発音されます。apple が「アポ」に聞こえるのと同じです。「リトル」でも「アプル」でもありません。また、アルファベットのLは「エル」ではぜんぜんなくて「エオ」みたいに響きますね。要は舌先が口蓋の歯の近くではなく真ん中についていればいいのです。

 単語の最初に来る l を意識的にゆっくり発音すると、ウラジーミル・ナボコフの小説『ロリータ』の冒頭を思い出さずにはいられません。

 Lolita, light of my life, fire in my loins. My sin, my soul. Lo-lee-ta: the tip of the tongue taking a trip of three steps down the palate to tap, at three, on the teeth. Lo . Lee. Ta.
(太文字は引用者による)

 ロリータ、我が命の光、我が腰の炎。我が罪、我が魂。ロ・リー・タ。舌の先が口蓋を三歩下がって、三歩めにそっと歯を叩く。ロ。リー。タ。
(『ロリータ』ウラジーミル・ナボコフ著・若島正訳・新潮文庫)

 上で引用した原文に施した太文字の L と T をご覧ください(原文に太文字はありません)。やたら目につきますね。作者のナボコフが作品の冒頭で書いた部分ですから、選び抜いた語が並べられているにちがいありません。

 これは、もはやLという音を賛美した詩ではないでしょうか。

 身も蓋もない言い方になって恐縮ですが、こういう緻密かつ繊細な「音の芸術」は翻訳不可能だと思います。

 小説は散文と言われますが、ここなんかはもう詩だと言いたいところです。また、詩、とくに韻律のある詩を別の言語に翻訳すると別の詩になると言われますけど、分かる気がします。

 小説の言葉は目で見る文字としてだけではなく、朗読して味わうことができます。この部分は、特にそうです。ぜひ音読してみてください。上の引用では、(私が原文にほどこした)太文字の T と L に注意しましょう。

 L と T は基本的に舌先が同じ位置にあり、T では上の歯のすぐ後ろにある口蓋を舌先が叩くというか弾くようにして発音されます。舌打ちにも近いです。ナボコフはそれを十分に意識しています。

 ナボコフの Lという子音に対する入れこみようは尋常でありません。L フェチと言ってもお墓の下のナボコフさんは腹を立てないのではないでしょうか。

     *

 LとTは英語の単語では子音として発音されますが、この子音についての私見を述べた記事があるので、引用します。

 体の内部から出てくる感のある母音とくらべると、そもそも子音は歯や唇や舌や喉という体の出口に近い――外に近い――部分で、母音につっかかってくるわけです。
 外に近いというのは異物を感じさせるという意味です。咳やくしゃみや鼻水や吐き気や嘔吐を思いだしてください。生理現象や発作は異物を体外に出そうとする行為なのです。
 子音は擦ったり(s・z)、絞めたり(m・n)、引っ掛かったり(k・g)、かすれたり(h)、叩いたり(t・d)、なでたり(r・l)、ぶつかったり(b)、はじけたり(p)します。なお、私には w と y は母音、つまり u と i に近い感じがします。
(拙文「きらきら星(反復とずれ・04)」より)

     *

 では、話を戻します。

*bridge :

 b で一瞬唇が閉じます。r の発音では l のように、舌の先が上の歯の後ろにくっつかないように気をつけましょう。「ブウィッチ」みたいに発音するのがコツですね。

*over:

 v の音では、ちゃんと下唇が上の歯に触れます。f もそうですね。学校で習ったとおりです。ガーファンクルが教科書どおりの口の動きを見せてくれるとうれしくなります。ほー、やっぱりね、なんて。

*troubled:

 ここにも r があるので、「トラ」というより「トワ」と発音すると舌の先が上の歯の後ろにくっつきません。この l は子音ですが語の最初ではなく途中に来るので、「お」という母音に近いです。

 ややこしいので、さきほどの説明を以下に引用します。

”little を正確に発音すると分かりますが、単語の冒頭に来る l と最後に来る l は微妙に(いや、かなりでしょうか)異なり、冒頭の l は舌先を上の歯の後ろにくっつけるように、最後や途中に来る l では舌先が口蓋の真ん中あたりに来ます。後者の場合には、口蓋にガムが張りついていて、それを剥がそうとする感じで息を吐くと「おー」みたいな深くこもった音になります。

 したがって、little は「リロ」みたいに発音されます。apple が「アポ」に聞こえるのと同じです。「リトル」でも「アプル」でもありません。”

 つまり、「とわぼ」みたいに発音されるわけですね。最後の d は t と同じく舌先が l のように上の歯の後ろに来ますが、その位置に舌先が来て軽く叩くというか弾くだけで、ほとんど聞こえないはずです。無理に音を出さなくてもいいということですね。

*water:

 この water では、ter の部分にいわゆる曖昧母音(シュワ・schwa)がありまずが、 2:27あたりから over と water というふうに er が連続して出てくるので( over troubled water )口の開け具合が観察できます。私はこうした細部に、いい意味でぞくっとします。

 w は母音の u と同様に、英語では深く喉の奥から出す音になります。何しろ、「ダブリュー」は「ダブル・ユー」ですから、本来は同じ音みたいです。

 ちなみに、フランス語でWは「ドゥブルヴェ」みたいに発音して、Vがダブル、つまり二つあるという意味になります。英語ではいま説明したように「ダブリュー」は「ダブル・ユー」でUが二つという意味です。で、UとVは昔々同じだったらしいのです。

 U(母音)とV(子音)がむかしむかしに同じだったの? なんて不思議な感じがしますが、おそらく言葉上の辻褄が合っていない(分けても分からないの好例です)だけです。そもそも言葉を言葉で辻褄合わせしようとするのが不自然なのでしょう。きっと言葉を弄しても辻褄や帳尻が合わないのが言葉なのです。

 したがって、例のBVLGARI(ブルガリ)はBULGARIであり、その表記に矛盾はないということになります。脱線して、ごめんなさい。

     *

 話をもどします。

 日本語では口をあまり開けずにしゃべりますが、英語の w や u では、日本語の「う」よりは思い切り唇をすぼめて上下に引っ張るようにするとうまく音が出るようです。

 ガーファンクルの口の動きを真似ましょう。発音練習には最高の先生だと思います。口が大きいのがこの人の取り柄です。

     *

*I will lay me down:

 この三つの単語は意識的に連続して発音するように心がけるときれいに音が出るのではないでしょうか。I'll lay という具合に、w は省いてもいいように思います。me では口を左右に思い切り引いて「イー」と、そして down の「アウ」もめりはりをつけて、母音を強く発音するのがコツみたいです。n では、日本語の口を閉じた「ん」にならないように、舌先を上の歯のちょっと奥の口蓋につけて口を閉じないように締めくくりましょう。

*I will ease your mind:

 最後の声を上げて熱唱する部分では ease の「イー」ではうんと口を左右に引き、 mind の「アイ」では大きく口を開け、ガーファンクル先生の口の動きそっくりに真似て発音してみましょう。will と your は弱く発音されるので注意してください。

「あい、うぃ、リージョ、まい、n d」という感じでしょうか。典型的な英詩の強弱強弱っぽいリズムですね。n と d は舌先の位置だけ正確にして構えて、音は出さないほうが自然に聞こえると思います。

 以上は、難聴者の私が、昔聞いた曲の記憶をたどり、勘を働かせながら必死に動画を見た結果ですので、間違っていたらごめんなさい。あくまでも、個人の感想であり意見です。

*口は楽器である


 アート・ガーファンクルの歌い方を見ていると、つくづく口は楽器だと思います。

 上下の唇、舌、口蓋、歯に注目し観察しながら、ぜひ動画を見てみてください。いちばんいいのは、口の動きを真似ながら歌うことです。自分が口になったような気分が味わえますよ。

 映る、写る、移る、です。つまり、画面にっている表情や動きが、自分の中で転されて、「何か」がってくる(わってくる)のです。表情と動きは、話し言葉(音声)や書き言葉(文字)と同じく言葉だと言えます。

 唇、舌、口蓋、歯の動きや位置を意識して真似るのです。何だかエロいことをしているような感覚になればしめたものです。そうなのです。口は楽器だけでなく性器でもあるのです。

 変なことを言ってごめんなさい。でも、けっして冗談ではないのです。

 空間的にも時間的にも、そして時空を超えて「伝えたい」=「(相手と)つながりたい」――ヒトのこの欲求や欲望のあらわれが「ぺらぺら」という形態であり、その欲望や欲求の具現化された「器官=象徴」が舌だという気がします。舌は性器に匹敵する重要な「器官=象徴」ではないでしょうか。
(拙文「ぺらぺら(薄っぺらいもの・02)」より)

 ジークムント・フロイトとかジャック・ラカンとか精神分析学とかジル・ドゥルーズについての本をちらりとご覧になると、人が性器だけで性行為をするものでもないことや、性と生が密接に結びついていることや、全身が性感帯であり生感帯であることが分かるし、生まれたばかりの赤ん坊が唇や舌で世界を感知し触れ合う行為の深い意味について学べるでしょう。

     *

 簡単な例を挙げます。

 赤ちゃんのおしゃぶり、赤ちゃんをふくむ老若男女の唇に触れる癖、思わず唇を噛む仕草、無意識あるいは意識的に唇を舐める仕草、広告写真における唇の氾濫、軽く口を開けている人間の無防備な魅力、歯医者で欲情するという告白、女性の口紅、男女を問わず存在する喫煙という風習、特に男性に見られるパイプへの偏愛……。

 こう列挙すると何かいやらしくないですか?

 上述の小難しいそうな固有名詞を出さなくても、意識的にゆっくり言葉を音として発することで、ぞくぞくわくわくどきどきを楽しむことができるし、たとえばその行為によって発汗や赤面や動悸や息切れをはじめとする生理現象が起こることを確認できるのです。

*Lの誘惑

 Lolita, light of my life, fire in my loins. My sin, my soul. Lo-lee-ta: the tip of the tongue taking a trip of three steps down the palate to tap, at three, on the teeth. Lo . Lee. Ta.
(太文字は引用者による)

 ロリータ、我が命の光、我が腰の炎。我が罪、我が魂。ロ・リー・タ。舌の先が口蓋を三歩下がって、三歩めにそっと歯を叩く。ロ。リー。タ。
(『ロリータ』ウラジーミル・ナボコフ著・若島正訳・新潮文庫)

 この種の原文を日本語に移しかえることは不可能だと思いませんか? あの L と、Lのきょうだいみたいな Tの連続のエロさ。

 上で説明した、唇、舌、口蓋、歯の動きと位置を思い浮かべて、ご自分でも、ナボコフの Lolita という小説の冒頭を音読してみてください。

 ゆっくりと(slowly)、唇(lips)、舌(tongue)、口蓋(palate)、歯(teeth)の動き(movement)と位置(position)を意識しながら……。

 英語では tongue(舌)と言語(language)はきょうだいなのです。

 両方とも、舌という意味の古い言葉から出てきた単語で、tongue には言語という意味もあります。「母語」は英語では mother tongue とか native tongue とか native language と言いますね。

 Lと T は音的に近いのです。lot と tot を発音してみましょう。L も T も、発音する時には、舌先が上の歯の後ろの口蓋に来ますよね。発音の要領を確認したところで、Lolita と発音してみましょう。

 繰り返しになりますが、Lと T は基本的に舌先が同じ位置にあり、T では上の歯のすぐ後ろにある口蓋を舌先が叩くというか弾くようにして発音されます。舌打ちにも近いです。ナボコフはそれを十分に意識しています。

 ナボコフの L という子音に対する入れこみようは尋常でありません。Lフェチと言ってもお墓の下のナボコフさんは腹を立てないのではないでしょうか。

 Lの誘惑。これです。

     *

 なんだか、Rをそっちのけにして、LとTをめぐる、ガーファンクルとナボコフを素材しての舌談義になってしまいました。

 くり返します。舌は「伝えたい」=「(相手と)つながりたい」という、ヒトの欲求と欲望(知ろうとしない素人の私にとって欲求と欲望の違いはどうでもいいことです)においてきわめて大切な役割を果たしているのです。

 英語では tongue(舌)と言語(language)はきょうだい――。ということで、今回のまとめとさせていただきます。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。どうか舌をお休めになってください。


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