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新築をリノベーション

タブーへの挑戦

1年を代表するリノベーション作品を選出するリノベーション・オブ・ザ・イヤー2018において、新築戸建のリノベーションが1000万円未満部門で最優秀賞をとった。新築を買ったら手を加えずに、そのまま住むというのは疑いようのない常識。新築をリノベーションなんて誰もが口には出さないけど、きっとそんなことありえないと思い込んでいる。その常識を疑い「理想の暮らしを実現するため」という明確な目的のもと、導き出した最適解が新築をリノベーションという答え。新築を買うのが当たり前の時代に、中古を買ってリノベーションするが新しいともてはやされていた時代はとっくに終わり、全く違うステージに来ているということを予感した。

広さ  > 立地

これは、誰にでも当てはまるものではないと思う。リノベーションするなら、当然中古物件の方が得にきまっている。新築ほど資産価値が目減りしないし、リフォーム前のボロボロ物件であれば、新築時の価格の半分以下で買えることも珍しくない。わざわざ高いお金を出して新築を買うのは本質ではない。では、どんな人に向いているのか。新築マンションの高騰によって郊建売戸建に割安感が出てきているという背景に注目したい。都心や駅近にこだわらず、どちらかというと広い空間を求めているユーザーには良いかもしれない。「新築戸建×リノベーション」であれば、住みたい立地で、自分らしい空間が手に入る。まずは自分の住みたいエリアにどれくらい中古物件があるのかを知ることから。もし全然選択の余地がなければ、この事例はぶっ刺さる。

コンセプト

これがこのリノベーションプロジェクトのコンセプト。

閑静な住宅街に建つ、木造2階建の戸建住居。
以前から住み慣れた立地で新築の戸建を購入し、リノベーションの選択をしました。
決められたプランから、暮らしに合わせたオリジナルの間取りに変更。

贅沢な吹き抜け、見上げるとロフトの小さい小窓。
ロフトから顔を出せば、料理をしながら会話も。
細部にまで拘った機能とデザインを満たしたキッチン。
好きな素材や色に囲まれたLDK。

テーマは「MANISH」
無駄を削ぎ落とし、シンプルに構成されたプランに
男性的な力強いシックなトーンの中に女性的な柔らかいカラーや
曲線を空間に取り込んだ。

参考:ブルースタジオ事例ページ

男性的なものの中にある女性的な側面

削ぎ落としたシンプルな空間は男性が好む傾向にある。しかしストイックになりすぎ生活感がなくなりがち。この事例のように優しい色味や曲線を少し入れていくことによって、洗練された中にも温かみのある空間を実現している。キッチン横の半アーチ、内側をスモークがかったピンクに、ここがとても良いと思う。また、テレビがかけてある壁の絶妙な曲線。デザイン的にも美しいし、その横に配置されている書斎からテレビの画面が見えないようになっているのも良い。おそらく集中できるようにあえてそういう配置にしたものと思われる。ストイックなデザインの追求の中に、随所に心地よく暮らす工夫が盛り込まれている。これが画一的な新築建売住宅では絶対に叶わない。

デザインの哲学

このリノベーションを手がけたのがブルースタジオ。日本のリノベーション業界の草分け的な存在。個人居住用だけでなく、団地一棟まるごと、店舗、まちづくりなど多岐にわたる。

あなたでなければ、ここでなければ、いまでなければ

ブルースタジオの事例は単にデザインがカッコイイだけでなく、何かぐっとくる理由はこの言葉に凝縮されている。あなたじゃないといけない理由、ここでないとダメなワケ、なんで今やるのか、という点において顧客自身が気づいてないところまで深く掘り下げ、整理し、編集し、物語に仕立て上げている。デザインはその表面的なものの一部で、そこに至るまでに(あくまで僕の予想だけど)長い間葛藤し、ときに絶望しながら、コンセプトを練っているに違いない。その上で、そのコンセプトを尖ったものを残したまま形にする知識と力がある。いい意味で顧客をナナメ上から見続けている。言い方が乱暴かもしれないけれど、顧客のいうことをそのまま形にしていれば、ダサい顧客からはダサい空間しか生まれない。ブルースタジオはその人が持つ良さを最大限引き出した上で、センス良く仕立ててくれる気がする。そこには表面的なデザイン思考ではなく、「あなた・ここ・いま」という強い哲学があるからだ。

見るだけでセンスが上がる

良い空間をたくさん見るということは、目が養われる。どんな哲学からこの空間が生まれたのか。顧客の潜在ニーズは何なのか。細部の宿る美意識はどんなものがあるか。という視点で見ると色んな発見があるかもしれない。日本にリノベーションを持ってきた老舗の、新しい挑戦。


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