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ワクワクする家って、なんだろう?

「日本は、食べるものも着るものも自由になったけど…」。
株式会社横濱快適住環境研究所、PRIMA FACTORY株式会社の代表取締役社長を務める石川龍明さんは、自身がリノベーションプロジェクトのプロデュースを手がけた横浜市のヴィンテージマンションに住んでいる。リビングには、高校時代から愛するギターやジョン・レノンのTシャツ、尊敬する坂本龍馬の写真、江ノ島の仲間からもらった海のパステル画、娘さんが幼い頃に作った粘土作品などの品がずらり。その奥の大きなワークデスクの上には、モニター2台と立派なマイク。光差し込む窓際にはたくさんの植物が息をしている。雑多、とも言えなくもないけれど、そのどれもに血が通っているような感じ。人間味に溢れた居心地のいい部屋だ。
これまで数々の住宅を手がけてきた石川さんは、部屋や暮らしにどんな価値観を持っているんだろう。自身の暮らし、そして、これからの「家」について話を訊いた。

●暮らしのこだわりは、仕事のしやすさ

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「朝5、6時くらいから、会社に行く前の時間は仕事が一番捗るんだ」(石川さん、以下同)

部屋のテーマみたいなものは特にないけど、仕事のしやすさは大事だね。生活の中心が仕事。この歳だから、もうお姉ちゃんと飲み行ったりしないし(笑)。会社に行くのが好きじゃないから、家で仕事をすることが多いんだけど、前の家は少し狭くて、それがストレスになっちゃった。ここは64平米くらいあって、ちょっと大きいの。一人暮らしで、別に料理とかもしないんだけど、帰ってきた時にパッと仕事に切り替えられるのがいいかなって。

暮らしで一番大切なのは、健康だな。若い時は、深酒したり、タバコ吸ったりもしたけど、今は朝起きてすぐ仕事のことを考えられないとやだね。となると、やっぱり睡眠が大事。休日も、これまでは出張の移動に当てたりしてたけど、今は必ず土日に休んでる。前に住んでいた人が置いてってくれた庭のソファーで、本を読んだりして過ごしてるよ。

●変わり者が集まる楽しいマンション

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棚の上に並ぶのは娘さんが保育園で作ったという粘土作品。「4歳ぐらいの時かなあ。真ん中の鳥は賞を獲ってたよ。今は小遣いの連絡しか来ないけどね(笑)」

もともとこのマンションは、取り壊して新築を建てる予定だったの。でも、建築基準法が変わって、高い建物を建てられなくなっていた。4階建で19戸あるのに、建て直すと、2階建で12戸ぐらいになってしまう。だから、リノベーションに変更したのね。そうなるとただキレイにするだけじゃ厳しいから、内装にもこだわって、子供部屋や仕事部屋にもできるようなDENを作った。近所の小学校がわりと有名だったり、1階の庭が確保できたこともあって、「子育てを楽しむクリエイター夫婦」に住んでもらうような住宅を目指したの。びっくりしたんだけど、工事中に19戸中10戸決まって、35日で満室。成功事例だよ。

入居者は、アパレル関連の夫婦や設計士、全国を回っているイベンターとか、「普通がやだ」っていう、おもしろい人が集まったの 。変わり者・こだわり者が多くてなんか海外の人達と住んでいるような感じがするよ。賃貸だと、そういう感覚の近い人が気軽に集まるのもおもしろいよね。仲もいいよ。今度、屋上バーベキューを企画しててさ。子育てしていると、どうしても篭っちゃうじゃない。「お宅どうしてる?」みたいに連携をとれるのはすごくいいよね。

●好きな家に好きなように暮らそう

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石川さんは趣味にどっぷりハマるタイプ。「ギターは高校から続けてる。ジョン・レノンが大好きなんだよね。魚釣りに凝ってたこともあったんだけど、一回ハマるとなかなか出て来れなくて、当時は毎週ブラックバス釣り。 やっと抜け出せたよ(笑)」

若い頃、コッツウォルズとかブルックリンとか、とにかくいろんなところを巡って建築をいろいろ見てさ。やっぱり、決められたものに決められたように住むんじゃなくて、住む人が自由に選んで自由に住むほうがいいと思ったの。日本は食べるものも着るものも自由になったけど、住むところは18平米のワンルーム、とかザラでしょ。(金銭的に)なかなか引っ越せないっていう状況も多くある。そもそも住む人にこだわらせないような形になっているよね。プレハブリックって言うんだけど、工場で同じ部材を製作して持ってきた大量生産みたいな家ばかり。でも、良く考えたら、隣の家と間取りが全く同じってなんか気持ち悪くない? このマンションは19戸あるけど、間取りは全部変えてるんです。

家って、もっとこだわっていいと思うんだよね。賃貸だからこそできることもあると思う。例えばペットを飼うとき、家賃を1、2ヶ月分多くもらって清掃に当てるだけじゃなくて、清掃予算内で入居者に好きなクロス(壁や天井等に張る内装材)を選んでもらうとかね。どうせ張り替えるなら、その人が好きなものを選んでもらったほうが楽しいじゃない。入居者もオーナーも僕たちも、みんながワクワクできる家を作っていきたいよね。

今、階段の壁が真っ白なんだよ。あそこに美大の生徒にキリンの絵とか書いてもらってさ、入居してる子ども達の身長を刻めるようにしたいなって思ってるの。昔、柱に刻んだでしょ。子ども達がここで成長して、それが思い出になったらいいなーとか、そういうことを考えて、家を作ってるんだ。

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食べ物や衣服のように、家にももっと「好き」や「楽しい」を求めること。毎日過ごす場所に心からワクワクできたら、人生ちょっと変わってきそうだ。石川さん、貴重なお話をありがとうございました。