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博物館へ行こう#5「埼玉県立近代美術館」(「横尾龍彦 瞑想の彼方」)

レンタル学芸員のはくらくです。一行にレンタル依頼が来ないため、ただの博物館オタクの雑文まとめになりつつあります。間違ってはいません。

今回来訪した館

名称:埼玉県立近代美術館
区別:公立・美術(近代)
住所:〒330-0061 埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1
アクセス:JR京浜東北線北浦和駅西口より徒歩3分(北浦和公園内)
ウェブサイト:https://pref.spec.ed.jp/momas/

「博物館へ行こう!なのに美術館?」と思われる方もいるかもしれませんが、日本の法律上、美術館はもちろん文学館も水族館も植物園も動物園も「博物館」だったりします。

閑話休題。

普段あまり美術館に行かないはくらくですが、先日大宮に行く用事があったので、足を延ばして埼玉県立近代美術館に行ってきました。覚えている限りでは、3回目の来館です。

外観

駅のすぐ近くにある公園の一角に館はあります。外観が非常に美しいのは、美術館らしいと思います。展示室は地上1・2階部分と地下の部分にあります。企画展は2階、コレクション展は1階、地下は民間の団体への貸展示室として利用されていました。

2階への導入バナー

今回は、企画展「横尾龍彦 瞑想の彼方」を中心にお話したいと思います。わたし自身、美術はまったくわからないため、展示技術に絞ったお話になりますが、ご容赦ください。横尾氏は、福岡市で生まれ、海外を経て、神奈川県や埼玉県にアトリエを構えた人物だそうです。今回の展示では4章に分けて、時代順に作風の変化を追いかけたものでした。

1章・2章では、「何か」を具体的に描こうとした作品群が展示されていました。幻想的な物語や神話、宗教的なモチーフが多かったように思います。第3章は「内なる青を見つめて」という章題がつけられていました。その時期は横尾氏が神奈川県逗子市に移住したそうで、おそらくその体験と無関係ではないでしょう。この展示のなかでもっとも印象的だったのは、第3章の冒頭でした。


画面右手前には第3章の解説パネル

第2章から第3章の間には、通路があります。その通路を抜けた先にこの展示で「内なる青」と呼称している時期の作品群が広がっています。展示を見学していて、ぞくぞくする体験というのもなかなかないのですが、この展示には鳥肌が立ちました。もちろん、横尾氏の作品自体が持っている魅力があることはいうまでもありません。ただわたしにとってはそれよりも、学芸員の展示技術の方に感動しました。

通路を抜けた先に広がる青い絵は、陳腐な表現ではありますが、トンネルを抜けた先に続く海を眺めているような気分にさせてくれました。わたしは神奈川県の湘南海岸沿いに住んでいたことがあります。湘南の海岸沿いには、防波堤の一部をくりぬいたトンネルを抜けて、住宅地から砂浜に至る地域があります。その短いトンネルを抜けた先に広がる海と重ねてみていたのかもしれません。作品の「青」を強く印象付けるこの展示方法に、わたしは非常に感動しました。わたしも一応見栄えを気にして展示を考える立場にあるわけですが、展示室の導線からみた時に、展示室全体がどう見えるか、何をアイキャッチにするか、その他いろいろなことを考えるんですが、展示資料自体をより魅力的に見せる方法では、逆立ちしてもかなわないと思いました。

第3章の「青の時代」から、第4章には禅から発想を得た作品が展示されています。ちょうど横尾氏が海外に居を移した時期と重なるため、「東と西のはざまで」という章題がついていました。この第3章から第4章に至る部分にも、面白い場面がありました。

青の時代との連続性がわかる構図

左手が「青の時代」の作品、右奥が禅の影響を受けたという作品です。ちょうど正面のパネルが、第4章の解説パネルになっています。この角度で2つの作品を見ると、素人ながらになんとなく連続性があることがうかがえました。正確にいうと、2つの絵に連続性を感じることができました。今回の展示はここまで紹介してきた通り、作家の人生にあわせて作品群を解釈していく、作家論的な解釈に基づく展示であり、章立てがそのまま作家の人生の転機になっています。

これは普段から考えていることなのですが、どうにもわたしたちはこのような歴史の区切り方をされてしまうと、ある時代から次の時代への変化を全面的なものとして捉えがちなのではないでしょうか。

大きなものでは江戸時代から明治時代、小さなものでは昭和・平成・令和という時代……区分されて目の前に提示されると、さまざまなものが大きく変化してしまったように感じます。実際に時代の移り変わりに伴う変化はあったのでしょうが、どうしても目につく変化の裏側には、変わりにくいこともあったはずです。ここには、作者の技法の移り変わりのうち、ゆるやかな部分、変わらなかった部分が展示されているように思いました。

先ほどの通路の使い方もそうですが、作品と展示構成、展示手法が一体となっている非常に高度で考え抜かれた展示だと思いました。本当に感動しました。会期は令和5年9月24日(日)までとなっていますので、もしお近くに行く機会があれば、ぜひ訪れることをおすすめします。

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