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幼い頃のモヤモヤは意外と憶えてる

 20年ぐらい経ってもどうでもいい会話の妙な一言を覚えていたりする。そんなお話。

 舞台は中学2年生の春。我がクラスは混迷を極めていた。その原因は職業体験にあった。

 職場体験といえば、多くの公立学校が取り入れている郊外学習カリキュラムだ。1週間だか2週間だか、近隣の飲食店やスーパー、農園へ赴き、職業を体験する授業。ボノボと同程度の知能しかもたない中坊共を受け入れたところでなんの役にも立たないが、受け入れてくれるローカル企業たち。フランチャイズのコンビニで品出しをする子どもなんてのはこの時期の風物詩だ、春の季語にも採用されている。

 そんなほのぼのとした(ここ、ボノボとか掛けてるんだよ、面白いでしょ?)行事が混沌を引き起こすトリガーとなっていた。

 決まらないのだ。誰がどこの職場へ参加するのかが決まらない。

 そもそもスムーズに決まるわけがないのだ。ケーキ屋さんとかそういうキラキラした職場に集中する。農家とかデイサービスみたいな地味なところは埋まらない、収拾なんてつかない。そりゃそうよ。

 第一希望はジャンケンというある意味最も平等な決闘流儀により決まったが、問題は第二志望だ。

 この第二希望の募集がchaosの根源。

 第一希望の枠からあぶれた生徒達へ、第二から第四希望あたりまでのアンケートを提出させた教師。このデータを根拠にあぶれた生徒をうまーい感じに割り振ろうとしたのだろう。しかしこのアンケートが腹の虫を刺激した。

 放課後呼び出される暫定無職たち。彼らへ投じられた怒りの一言。

 「みんなのアンケートを見たけど一貫性が全然ない。本当に将来のことを考えて選んでる?真剣に答えたらこんな結果にならないはずだよ!!」

 意味がわからなかった。

 この行事と将来、なんの関わりがあるのかさっぱり理解ができなかった。そもそも一貫性がある方がおかしい。あるわけがない。そもそも回答した職場を希望していないんだから。

 この時思った。俺の将来がこんな狭い町に収まるわけがないだろうがと。こんなどうでもいい行事に左右されてたまるか、こんなしょぼい世界からとっとと抜け出してやるとね。

 こういう細かい閉塞感や反発みたいなのは案外よく憶えているものだ。当時の同級生にも覚えてる人はいるんじゃないかな? 当時からの友人なんて一人もいないから確かめようがないがな!!

 ……

 なんて反骨心を育てつつも、現在はなんだかんだでさらに狭くて苦しいところに落ち着いてしまっている。

 案外教師の言ったことはリアリティがあったのかもしれない。おそらく同級生も体験したようなことをしてる人も多いだろうし、自分も今はせっまいせっまい世界を生きている。

 今からでもあの説教を的外れにしてやりたい。せまーい世界に混沌を引き起こせ。

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