「ベーシックインカムを配ったら働かなくなる」という俗論のウソ~働かなくなるか否かは給付金額で決定される~

 今回は先日公開された加谷珪一氏に反論する動画の中でも少し取り上げた、ベーシックインカムに関する「誤解」について、解いで行こうと思う。
 積極財政派の方々であれば、ほとんどの人は消費税廃止には賛成する一方で、毎月一定金額を全国民に給付するという、ベーシックインカムに関しては、かなり反対の声が根強い。私の肌感覚では積極財政派でも7~8割方の人々が反対しているかのような印象を受ける。
 代表的な論拠としては、ベーシックインカムを配ったら社会保障費が削減されるとか、竹中平蔵(パソナグループ取締役会長)氏が賛成しているから危険な政策だ!などといったものもある。それに対しては、以前、平蔵式BIと万作式BIの違いについて、私が解説した動画があるので、コチラをご参照頂ければ幸いである。
 今回、取り上げるベーシックインカムに関しては、社会保障費を削減しない、ただ万札を作って配るだけの万作式BIを指していることを念頭において読んで欲しいと思う。言うなれば、2年前に行われた10万円の特別定額給付金を毎月行い続けるようなイメージである。

 ベーシックインカムを配ったら働かなくなる論は、いわゆる定性的な話になる。これは私からすれば、財政出動を行ったらハイパーインフレになる論と同一のものだと捉えている。コチラの批判論も財政出動の金額規模という定量的な話になっておらず、定性的にただ財政出動に反発しているだけであるからだ。
 ベーシックインカムを配ったら働かなくなる論も、一体その給付金額がいくらならば働かなくなるかを最重要論点とすべきなのだが、普段は積極財政を主張している人達であっても、何故かベーシックインカムのことになると、リアクションが財政破綻論者のそれと同じになってしまうのである。これは誠に不思議な現象と言えよう。ベーシックインカムに対する生理的な拒否反応、いわゆる「センメルヴェイス反射」を積極財政派であっても引き起こしているのである。

 財政出動したらハイパーインフレになる論に対しては、私は「確かに全国民に毎月10億円を配り続けたらなるね。」と言って、あえてその極論を一旦受け止める論法を使っている。その上で、「ただ、毎月10万円給付であれば大したインフレにはならない。実際に、2020年に10万円の一律定額給付金を配った際には、ほとんどインフレにはならなかった。」と返す。
 財政出動とインフレの関係性については、定性的な議論ではなく、こうした具体的な金額を示した定量的な議論を行えば、最適な財政出動の規模というものが導き出されるであろう。そのために計量シミュレーションを使用して参考にすべきというのが、私が幹事を務める日本経済復活の会の趣旨でもある。

 ベーシックインカムを配ったら働かなくなるという俗論も、この財政出動の議論と全く同じ性質のものになる。例えば、ベーシックインカム推進派の私であっても、さすがに毎月100万円が給付されたら働かなくなる人はかなり大勢になるだろうとは思うので、一旦はその議論を受け止める。
 しかし、ベーシックインカム賛成論者で毎月100万円を給付せよと金額設定をしている人間など皆無だ。概ね毎月5万円~10万円がその提唱金額となっている。私自身は一律定額給付金を配ってもほとんどインフレにならなかった実証結果を受けて、毎月10万円給付でも問題ないのではないかと考えるが、一方で日本ベーシックインカム学会の副会長でもある駒澤大学の井上智洋准教授は毎月7万円給付を勧める。井上准教授曰く、毎月10万円給付だと、4人家族で40万円となるので、さすがにこの金額は少し多い、だから毎月7万円で28万円とするのが妥当ではないかという考え方を持っている。
 こうした議論こそ、本来あるべきベーシックインカムの建設的な議論であると私は考える。積極財政派であっても、ベーシックインカム反対派とは、こうした議論にならないのが誠に残念である。
 では、実際にどの程度の金額までであれば人は働き続け、どの金額ラインを超えれば働かなくなる人が増えるのだろうか。私のツイッター上でアンケート調査(サンプル数1500票超)を行ってみた。無論、私のツイッターフォロワーは30代~40代の男性が主体なので、属性的には偏った調査にはなっているが、1つの参考にはなればと思う。是非、年齢や性別ごとに偏りがない、万遍なく行った調査も実施して欲しいものではある。

 私のツイッターアンケート調査においては、上記のような結果となった。毎月7万円で怠けると回答した人が1511票中6.9%で、毎月10万円ならば+3.6%で、合わせて10.5%となる。毎月20万円にもなれば、全体の1/3強の37.3%が加わり、合計47.8%である。それ以上の金額や怠けないと回答した人は全体の半数以上の52.2%であった。
 この調査結果をどのように考えるかが1つの議論となるであろう。この結果を受けると、さすがにベーシックインカム推進派の私であっても毎月20万円給付は、ちと金額が多いとは感じる。一方で毎月10万円給付であれば1割程度しか怠けないので、ベーシックインカムを貰ったら、皆が働かなくなるとは言い難い結果ではあると思う。なので、私自身は給付金額の最適解はこの毎月10万円~20万円の間にあると考えるのであるが、読者の皆さんは如何であろうか。

 怠ける人が1割程度であれば、まだ供給能力などの社会生活の維持には支障をきたさないレベルであるようには私は思う。無論、1割でも多いと感じる読者もいるかもしれないが、毎月7万円まで給付金額を下げれば、全体の7%程度に留まることにはなる。
 いずれにせよ、毎月10万円程度の給付金額では、9割近くの人が怠けないと回答しているのだから、ベーシックインカムを配ったら働かなくなるとは言い難いことが分かった。あとは、年齢や性別、職種や雇用形態別に調査を行えば、より精密な調査結果は出て来るであろう。それによって、適正な給付金額をより突き詰めることが出来るようになる。先ほど述べた財政出動の議論と同様に、ベーシックインカムに関する議論においても、こうした具体的な金額を提示した上での定量的な議論を行って欲しいものである。

 最後に毎月7万円でも怠ける人が7%もいるので、それでも多いのではないかと思った方々に対して、最良なベーシックインカムの導入方法に関しても言及しておこう。その方法に関しては、もう既に3年前に結論が出ていて、wezzyという媒体に私が記事を書いている。
4.レインメーカー、イケド・マンサクによる「日本に金の雨を降らせる方法」
 要は毎月1万円からベーシックインカムをスタートして、インフレ率が2%を超えなければ、次の年は1万円増やして毎月2万円、その次の年は毎月3万円として、1万円ずつ徐々に金額を増やして行くタイプのベーシックインカムの給付手法である。インフレ率が2%超えた地点で金額の増額はストップ。次の年も引き続き、同じ給付金額にすることである。一切給付を止めることはしない。増額しないだけでも、インフレ率の上昇は抑制することが出来るのである(供給能力は技術進歩率により毎年1~2%程度、上昇するものだと考えられているためである)。

 このような手法を取れば、ベーシックインカムを貰ったからと言って、急激に働かなくなる人が続出するわけでもなく、社会的な混乱を引き起こさずにして、ベーシックインカムを導入することが出来るのである。これが最良の導入方法として、もはやベーシックインカムは結論付いているのである。  
 であるならば、1日も早く、日本国においてもベーシックインカムを導入して、全ての国民がお金に困ることがなく、貯蓄もでき、安定的な生活を送れるような社会に変えて欲しいものだ。
 以上が、ベーシックインカムを配ったら働かなくなる論への反論である。この論稿を機に、こうした俗論が無くなることを願いたい。そして、具体的に給付金額はいくらが最適額なのか、ベーシックインカムの学会内でもアンケート調査が行われて、議論が活発化されることを期待したい。
 AIやロボット化の発達により世界的な供給能力の過剰が近い将来には起こり得ると考えられている。そうした世界では大量の失業者が生み出されるわけであるから、やがて人類は現在のように働いてお金を得るということが出来かねる状況に陥るのである。そうなった時には、世界各国でベーシックインカムが導入されて行くことは必然であろう。
 いずれ、世界各国でベーシックインカムが導入されることを鑑みれば、1日も早く、我が国・日本でもベーシックインカムが導入されることを望みたい限りである。

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