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投資単位引き下げ要請に思うこと。

1単元100株の見直しが先では…

 先日、日本取引所グループが投資単位が100万円超の銘柄、いわゆる値嵩株に対して株式分割を実施する形で投資単位の引き下げを要請した。少額投資家の心理的障壁を和らげると、投資機会を損なわないことで市場参加者が増加し、国策でもある「貯蓄から投資へ」に応えたい思惑が感じられる。

 確かにユニクロが主軸のファーストリテイリング(9983)は、2022年10月時点で8万円前後で推移していることもあり、1単元が100株なのだから通常の買い注文を出すのに800万円前後の資金が必要となっている。

 ディズニーランドの株主優待で人気のオリエンタルランド(4661)も2万円前後で推移しており、ワンデーパスポート欲しさに投資しようにも200万円前後の資金が必要となり、敷居が高いのは明らかである。

 どれほど会社のビジネスモデルが優れていたり、企業を応援したい気持ちで株を買おうとしても、100万円以上の大金を投じなければならないと思うと、せっかくの投資熱も興醒めである。

 つい先日、任天堂(7974)が2022年10月1日付けで10分割したばかりであるが、元々が6万円台で推移していたこともあって、600万円が60万円になり、買いやすくなったとはいえ、大金であることに変わりはなく、投資初心者の敷居は高いままである。

 上場企業は3800社ちょっとあるが、そのうち1単元の投資金額が50万円を超えるのは200銘柄程度、100万円を超えるものは40銘柄程度となっており、先ほどの任天堂みたく、元々売買単位が数百万円だった銘柄が10分割したところで、日本取引所グループが投資単位の引き下げ要請をしている50万円以上の銘柄であることに変わりはなく、そもそも100株1単元の取引システムが、少数とはいえ機能不全を起こしている感は否めない。

1株取引が基本の米国株式。

 これでも投資単位が1~2,000株と8種類も乱立していた時代から、2014年に100株と1,000株のふたつだけになり、更に2018年に投資単位を100株で統一した分だけ、一昔前よりは最低投資金額がいくらなのか把握しやすくはなった。

 しかし、米国株はそもそも売買単位が1株であり、メガテックのGAFAなどは100ドル以上の値が付いているが、日本株と異なり100株に束ねる必要がないため、純粋に150ドルでアップルの株が1株から買えると言った具合である。

 一応、日本株でも証券会社が単元未満株取引のオプションを用意しているため、1株単位での取引が、実質的に無手数料に近い形で売買できるようになってはいるものの、システムの関係上、成行注文のみで指値では売買できないなど制約もあり、単元株と全く同じ条件では売買できないのが現状である。

 そもそもなぜ日本株が100株単位となっているのかといえば、単元株制度と言って、100株以上保有していなければ、議決権が付与されず、株主総会に参加する権利すらないためである。

 しかも、わざわざ100株だけ持っている株主に対しても、大して意味を成さない議決権行使書や株主総会招集通知、事業報告書などを半年毎に郵送する手間やコストは結構なもので、1株単位売買をデフォルトにしてしまうと、議決権行使や株主総会はないにしても、株主向け書類の郵送自体は発生するため、企業のIR担当者からしても、単純計算で株主数が100倍に膨れ上がっても嬉しくないのは容易に想像がつく。

 その点、米国企業は1株だけの株主であっても、議決権を含めて対応していることから、如何に株主が有利な立場なのかは想像に難くない。実際、スティーブ・ジョブズさんは一度アップルを追い出された際に、保有していたアップル株を事業報告書を受け取るために1株だけ残して残りは全て売り払った逸話がある。

流動性か、希少性か。

 ここまで散々、日本株の単元株制度はクソだ。米国株を見習えとこき下ろして来たが、誰もが全ての銘柄を気軽には買えない仕組みというのは、裏を返すと市場に流通している値嵩株に対して、希少性という名の付加価値が付いている部分もある。

 私は値嵩株を保有しており、ポジショントークにもなってしまうため、中立性を保つために具体的な銘柄名は伏せるが、ある値嵩株は発行株式数がビットコインの発行枚数と似たり寄ったりで、しかも売買単位が100株なのだから、理論値で株主数が20万人を超えることがなく、大株主や自社でロックしている分を除いた、浮動株で考えると、実際には半分そこらしか市場に流通していないと思われる。

 実際の株主数は1万人台と少なく、どれだけ多く見積もっても、日本人の1万人にひとり程度しかその値嵩株を持っていないことになり、その株を保有するだけで出現率0.01%の超レアキャラになることが出来る。

 当然、その銘柄が何かの拍子に価値が見直され、多くの人が欲しいと思うようになっても、市場に流通している分が少ないのだから需要過多となり、いくらでも出すから欲しい人が出てくることで、価格が釣り上がる側面がある。10分割前の任天堂がまさにこの状態であった。

 発行株式数が膨大で、かつ購入しやすい価格帯の銘柄ではこうはならなず、これが分割して市場参加者が増えるとボラティリティが低下して、利ざやが取りづらくなる所以である。

 単元株制度そのものは一長一短あるものの、日本人は投資とギャンブルを混同している側面があるから、金融教育と両輪で投資しやすい環境は必要だと感じているため、個人的には取引システムのデフォルトは1株から、議決権などは現行の単元株制度を踏襲する形で改修すると、気軽に1株買ってみて、気に入れば100株になるまでコツコツ集めようとする国民性から、相性が良いのではないだろうか。


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