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買い溜めは、却って損をする?

兎にも角にも、在庫を持たない。

 以前から、戦争絡みの値上げラッシュは9月以降となる旨を記していたが、10月にあらゆる物価が一気に上がることもあって、スーパーなどで買い溜めする顧客が散見された。こう表現するのは、私は買い溜めやまとめ買いの類を行っていないからである。

 自身の自己管理能力を信用していないことから、無駄遣いをして却って高く付く結末となることが目に見えている。そのため、多少割高であっても在庫管理を外注化するためのコストだと割り切り、必要になった時に必要な分だけ購入するように努めて、在庫を管理しないようにしている。

 そのため、一般的な冷蔵庫は所有しておらず、ペルチェ式の小型冷温庫を夏場に残飯を翌日まで腐らせないための一時利用に限定しており、常時使用していない。冷蔵、冷凍が必要な食材を溜め込まないが故に、旅行や帰省などで、長期間留守にする際は、ブレーカーを落として家を出ても問題がない。

 これは極端な例かも知れないが、仮に甘いものやアルコール、タバコなどの、依存性のあるものをまとめ買いして、目の前に大量にストックがある状態を理性で節制できるとは思えない。少なくとも私はその場で欲求が満たされるその時まで、それらを摂取し続ける自信があるため、割高で面倒でもコンビニやスーパーで都度購入することを心掛けている。

 ごく稀に某ECサイトのタイムセールで食品を箱買いすることがあるが、これは発作的に食べたくなってしまった余計なものを、自身に短期間で爆食いさせて飽きさせることで、結果として習慣化を阻害する目的で購入していることが大半であるが、却って中毒になるリスクと表裏一体である点は補足させていただく。

 基本的にはストックしない方が、結果として経済的になることは、稲盛和夫さんや四隅大輔さんの書籍にも記されている。

”使う分だけを当座買いするから、高く買ったように見えるが、社員はあるものを大切に使うようになる。余分にないから、倉庫もいらない。倉庫が入らないから、在庫管理もいらないし、在庫金利もかからない。これらのコストを通算すれば、そのほうがはるかに経済的である。セラミックのように腐らないものならまだしも、腐るものを扱う場合には、気がついてみたら使えなくなっていたと言うことになりかねない。”

稲盛和夫の実学―経営と会計|稲盛和夫

 上記の必要な時に必要な分だけ供給することを徹底している代表例が、トヨタのジャストインタイム生産システムである。

需給バランスの歪みを狙う。

 それに、10月から値上げとニュースなどで周知されれば、月末に買い溜めをする客で賑わい、10月はその反動で値上げされる商品が売れなくなることを小売店は織り込んでいる。

 商品の価格というのは、需要と供給によって変動するのが経済学での基本的な考え方である。何もしなくても買い溜めで需要が高くなる時に、わざわざ値引きしてまで売る必要がないが、値上げ後に買い控えで需要が激減すると、在庫が捌けなくなるのは明白である。

 特に、食品は期間の長短はあるにせよ、腐る性質を持ち合わせており、期限を設けているため、在庫が流動的でなくなると、小売店側が根負けして在庫処分のために値引きする可能性は高くなる。

 私はこのようなタイミングを予測しながら、在庫が切れるギリギリまで消耗品を買わないでいることが多く、案外値上げ前と大差ない価格で買えた経験はいちいち覚えていないだけで何度もある。逆に、買い溜めしなくて損をした気分になったことはゼロでないにしても、こちらもよく憶えていない。

 得しようが損しようが、どうせ憶えていないのなら、明日から値上げだから、必要ないけど今買っておこうなどと購買行動を起こすこと自体が不毛ではないだろうか。

株式投資でも同じ。

 株式投資で、個別銘柄の取引をする際もこれに通じる部分がある。株価というのもある種の美人投票で、その銘柄が欲しい人が増えれば株価は上昇するし、要らないと思う人が増えれば株価は下落する。需給バランスは株価が決定される要因のひとつなのである。

 経済ニュースや決算を迎えて、新しい要因が加わると、需給バランスが変動するため、株価は大きく動く。この時に少数派側で振る舞えると、スーパーの在庫処分セールのように、大きく得をする局面を迎えることが多くある。

 私は年初に某ディスカウントストアの銘柄が、海外投資家の手仕舞い売りが、パニック売り誘発して、新規の悪材料が出た訳でもないのに、株価が低迷していたところに目を付け、透かさず買い注文を入れて、年初来安値に肉薄する価格で約定することができた。それが今、スタグフレーションに伴う消費者の低価格志向化が追い風となり、株価は短期で1,000円超の上昇をしている。

 反対に、元々割安感があって長期保有していた中古市場関連銘柄は、半導体不足による自動車や家電製品が供給不足のピークとなった夏場に、ニュースなどで中古市場の特集が組まれ始めた頃に、在庫状況などを推察した上で、株価的にもそろそろ天井だと判断して中古関連銘柄を全て売却した。

 中古車関連銘柄に関しては読み通り、決算短信でマイナスインパクトとなって大幅下落した。もうひとつの中古市場関連銘柄に関しては、売却してから2割強上昇したため、売り時を間違えた感が否めないが、こちらに合わせる形で保有していたら、中古車関連銘柄の下落幅の方が大きかったため、100点満点ではなかったものの、合格点は取れている。

 そして、ここの銘柄での成功経験や失敗経験が出てくるものの、勝敗は食品の値上げ同様、憶えないように心掛けている。ひとつの銘柄に思い入れを持ち、固執してしまうと合理的な判断を阻害する要因となってしまうからである。

 成功経験があれば、過去と同じように上手くいくことはないと思いながら分析するし、反対に失敗経験があっても、先入観に囚われなければ、日々成長しているのだから、冷静に利ざやが取れる可能性もある。現に大失敗した銘柄で勝機を見出し、読み通り実利を得ることに成功した。

 目まぐるしく変化する時代だからこそ、需給バランスの歪みが生じやすい。その時に踊らされるのではなく、一歩引いた目線で物事を捉えると、歪みに気付いて実利を得られるかも知れない。


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