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路地の向こうの古い村

パリ市内のマレ地区には、サンポール村という名の古い村がありました。

古い村と言っても、田舎の古びた村ではなく、アンティークショップやカフェが点在する、中庭のような街ですが、

その街の名を『ヴィラージュ・サンポール』と言い、賑やかなパリの表通りから少し隠れた場所にある、文字通り、パリの隠れた名所です。

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傷だらけの古い扉をそっと開けると、陽の当たらない路地があり、その路地の向こうには、以前どこかで見たような、明るい光が差していました。

そんな物語の書き出しが(あるいはラストシーンが)、ふいに浮かんで来るぐらい、その時僕は、物語の中に迷い込んだ主人公になっていました。

その村は、迷路のような石畳の村で、人の気配がほとんどなくて、何十年も前から時が止まった、ノスタルジックなワンダーランドのようでした。

気になるお店もありましたが、どのお店も閉まっていて、中に入ることは出来ず、それでも僕は、ひとしきり、散策を楽しむことが出来たのです。

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それは一体どこだったのか?何ひとつ、思い出せない僕でしたが、それでも唯一覚えているのは、僕は以前もこの村を、散策したということです。

そんな古い村から、仄暗い路地を潜り抜けて表通りへ出ると、真昼の眩しい日差しと共に、賑やかなパリの喧騒が、僕を現実に引き戻しましたが、

その現実もまた僕にとっては、パリという名のワンダーランドに他ならず、更なる別の何かを探して散策したのは、今更言うまでもありません。


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