窒息(50首)

窒息 芒川良





縁のない暮らしの想像の葬列がイヤホン越しに始まる気がした

ミニマリスト 名前をつける習慣がないから透明な部屋の息

その頃に過ごした日々の雲として写真アプリのスライド機能

姓名も手相も興味ない 花を毟れば雨か/雪かわかった

クレジットカードで支払います 王の命に従います 椅子の音

清潔感、と口にするとき想起する病室の果てしない凪、っぽさ・・・

敗戦の結果に僕は生まれたけど感謝も後ろめたさもないな

どうしても家を出るとき必要になるドアノブと扉と左足

香水の軋みできみを記憶する、として傷つくのは誰になる?

退屈な話は信じられるからそれは誠意だ 皿を洗った

二年前の僕はウォーターサーバーの、あなたは魔法少女の契約

指輪のようにAirPodsをとりだしていくのは凍る蜜の洞窟

機械音ばかりで嫌になる夢の振る舞いをいくつか覚えたら

夕景の隅では何が起きている-川みたいに崩れる色の空

必要がないなら僕は挨拶をしない 迷信なら足りている

鏡だらけの場所で写真を撮るひとの背後を映らないよう進む

望まない時間が続いていくことをどこか望んでいる 笑えない

えっ、コインパーキングになってる、ってきみのすぐ傍にある花 おぼえてる、

プレイアブル・ライフ 選択権を委ねられ直面する二つの箇条書き

僕の住む家ではないところの窓に反射する簡単な言葉が

洋服をカーテンレールに引っ掛けて、童話ならアリスが好きでしょう?

本を読むそばであなたが笑うから殺人の現場に笑い声

操作して叙景を生で見てみたい 僕はからだを拭くのが下手だ

冷蔵庫の上にパックが置いてあり手に取れば湿った四角錐

remote past. 撃たれる鳥がいたことで豊かなおもしろくない文明

眠る場所にいまは座っている やがて愛憎の愚かさもわかるよ

電飾に指をかざして輪郭が倒れていく数秒の撮影

想像の中で抱いていて触れない どうぶつにフラッシュはだめでしょう

ロフトへとのぼる階段(ゆるやかであればあるほどその意味がない)

窓に触れる 思うより冷えているのなら休養が必要になってくる

長針の響きによれば三時頃。日常がループしていくように

生活感がないから観たいのは他人の記録した生活 想像の

雑に火をつけて煙草を口にして吸うのは僕だけの甘い記憶

意識したこともないのに好きになるのは僕のせいではない アルペジオ

ゆびさきを常夜灯がひどく曖昧に絆してあなただけを映した

架空の人間を架空の街に住まわせるゲームはつまらなくて素晴らしい

何もないように見えても空き缶は溜まって 37.4°Cは微熱

コンセントに火花が咲いて溢れ出す………僕はそれを歌にしてどうする?

でたらめがあなたを巣喰いはじめるのを予期してどんな暮らしなんだろう

腕時計を舐めれば腕を舐めたのと同じで整備する腕時計

電柱に名前をつける深夜にはいつも迷子に影も寄り添う

順接の自炊に意味は倒錯し冷房には輪廻が似合うかも

本棚に住むなら人形のあたりがいいです ねむれそう

『殊勝』まではあなたの語彙でなげやりな日常にワープしますように

窒息をすごくしたいよ シャワーの温度調整ばかり得意で

そうなる、と知りながら灯りを消せば浮き上がる埃の獣道

ロボットに掃除をさせるためにする初めのことが掃除だなんて

傍受する脈拍の機微に注意してその繰り返しでしかないことも

花火石菖 ノイズキャンセリングのせいで言語はあなたにしかきこえない

なめらかに息をもらして出力する苦しみのなんたるおもしろさ

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