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学振特別研究員が産休とってみた

看護学専攻者は少ない? 特別研究員

この記事を読んでくださっている方はみなさんご存知かもしれませんが。
日本学術振興会の特別研究員(Research fellowship for young scientists)制度は、「若手研究者に対して、自由な発想のもとに主体的に研究課題等を選びながら研究に専念する機会を与え、研究者の養成・確保を図る制度」とされています。

研究員にはいくつかの種類がありますが、私が採用されたDC2を例にとると、令和4年度の採用率が18.8%(1094/5833人)とのこと。なかなかの狭き門です。さらに看護学は医歯薬学に含まれているのですが、医歯薬学での採用者149人のうち、看護と名の付く小区分での採用は3人。
看護学を専攻する人の中には、社会学系の研究課題で応募する人もいるので一概には言えませんが、看護学でこの制度を利用している人はわずかでしょう。
そんな中で運よく採用に至り、おまけに産休や女性のためのキャリア継続支援事業も活用している経験を紹介します。ちょっと特殊な看護学の大学院生の事情と特別研究員制度との相性はいかに。

看護学の大学院生=(ほぼ)看護師

看護学専攻の大学院生は、ほとんどの人が看護師免許をもっています。
つまり、少なくとも看護師、専門によっては保健師or助産師の有資格者であり、場所を選ばなければ働く場所に困りません。
看護師バイトの求人は常に売り手市場。アルバイトの時給は、全国平均で1500円超。関東圏だと1600~1800円、ところによって2000~2500円もあります。(仕事内容に照らすと、もっと賃金含む処遇は改善されてほしいですが、それはまた別の話)
看護師が一人前に働くには卒後トレーニング必須なので、新卒臨床経験ゼロでのアルバイトは相当職場環境が整わないと難しいです。でも、大学院進学者の9割(私の体感で)は、既卒で臨床経験を経た人です。そのため大学院の授業料分、貯金やアルバイトの計画など資金面での用意がある人が多いです。常勤の職場(病院や保健センター、訪問看護ステーションなどなど)で休業制度などをうまく使いながら、大学院にも通っている社会人学生も少なくありません。
こうした背景から、看護学の大学院生は博士課程在籍中はすでに常勤相当職を得ており、そもそも特別研究員制度への応募を視野に入れていない人も多いと思われます。

研究者キャリアとライフイベントと研究費

研究者としてのキャリアとライフイベントの一例として、私の経歴をご紹介します。看護学の大学院生の経歴としては、少数派です。

大学看護学部卒業
⇒同大学看護学研究科 博士前期課程(修士号取得)
⇒大学病院 病棟看護師勤務(3年)
⇒古巣の大学看護学部 助教(6年)※5年目の年度から若手研究採択
⇒同大学看護学研究科 博士後期課程(在籍中)※D2年度からDC2採用

学部⇒大学院のストレート進学者は、私の学年では編入生1名と私だけでした。そういうと、相当優秀だったのかと思われるかもしれませんが、決してそうではありません。主席の子は立派な看護師として専門病院に就職していきました。看護学部に入学する人は「看護師になる」志の高い人であって、必ずしも看護を学問として探求したいとは考えていません。すんなり看護師になれないと思ったから、私は看護学を志し始めたのだと思います。
ストレート進学中の経済状況については、また別の機会に。

病棟看護師経験を経て、助教として研究活動を再開しましたが、研究費は悉くはずしました。文科省科学研究費の研究活動スタート支援、若手はもちろん、民間助成金も毎年申請しました。今振り返れば、知識も能力もまだまだ未熟で、伝わる研究計画には程遠かったとわかります。
ようやく実を結んだのが教員5年目の年度開始で採択された若手研究でした。この研究を進めて、そろそろ博士号取得を目指したいところ。
そんなとき、プライベートでは結婚も。3年間計画の若手研究の途中で、第一子を授かり、産休・育休を取得して研究費も1年間延長しました。

さて、この先助教を続けながら博士号取得?常勤+初育児+論文は必死…常勤職を辞めて博士課程?辞めたらせっかく採択された科研費は廃止!?もうしばらくは子育てに専念するか…?
アラサー女子の前に出現する、キャリアとライフの別れ道。

出産しても育児してても研究者を続けていいと思える環境

私が出した結論は、常勤としての助教は辞めて博士課程に進学することでした。今のところはよい選択だったと考えています。なぜよい選択だと考えるか、それは結果として出産してても育児してても研究者を続けていいと思える環境に恵まれたからです。(逆に言えば、ここまで恵まれなければ、やさぐれていたと思います)具体的には、次のようなよい環境が整いました。

1.博士課程の学生として研究に注力する時間を確保できた
2.非常勤職として科研費も継続できた
3.常勤相当職ではないので特別研究員に応募できた&採用された
4.「女性研究者の出産に伴うキャリア継続支援事業」を活用できた

1.博士課程の学生として研究に注力する時間を確保できた
とにかく、大学看護学部の常勤教員は多忙でした。研究はもちろん、助教の教育活動のメインは看護実習指導。実習地は病院や施設などで、実際の患者さんや利用者さん、住民をはじめ、実習地で働く専門職、そして学生、どの人にも迷惑がかからないよう安全に円滑に実習が進むよう調整するため、心身共に緊張します。実習前後の調整やフォローも相当な労力がかかります。慣れても疲労は避けられず、実習期間は研究活動に費やすエネルギーは残りませんでした。
常勤職を辞め、課程に在籍したことで、頭や体を研究に使えるようになりました。常勤を先に経験した私にとって、博士課程の学生として研究に注力できることは、とても贅沢に感じます。自分にとってのご褒美と思えるくらいです。社畜マインドが過ぎるでしょうか…

2.非常勤職として科研費も継続できた
常勤は辞めましたが、特任助教として指導教員の大型研究費で非常勤雇用してもらうことができました。研究機関で研究者番号を登録していないと科研費は継続できないのですが、特任助教として資格継続ができ、若手研究をそのままに研究費をもって博士課程に在籍できました。これはひとえに、上司であり指導教員でもある先生のおかげです。

3.常勤相当職ではないので特別研究員に応募できた&採用された
常勤を辞めたことで、特別研究員に応募するチャンスができました。自分の研究室からはこれまで採用者なし。業績はそこまで華々しいものもなく、正直自信はありませんでした。結果は採用。D2の4月から特別研究員-DC2として常勤職のように月々安定した収入を得て、研究費ももらいながら研究が続けられています。
特別研究員と科研費の研究代表者は重複できないので、あと1年残っていた若手研究を廃止、特別研究員奨励費に切り替えました。切れ目なく研究費を活用することができました。

4.「女性研究者の出産に伴うキャリア継続支援事業」を活用できた
特別研究員に採用された令和4年度、第2子を妊娠・出産しました。妊娠は望んでいましたし、とてもうれしかったのですが、同時に特別研究員は継続できないのではと不安になりました。制度上は産休・育休制度があることはすぐにわかりましたが、採用者数も少ないこの制度にせっかく採用されたのに、出産で研究活動を中断することにうしろめたさも感じました。お金をもらっているのに研究への専念義務を果たせない、研究者として継続する資格がないのではないか。
そんな気持ちにもなりながら、出産に伴い4か月の研究中断、続けて4か月は研究再開準備期間とすることに。そんな折に偶然にも、学振から「女性研究者の出産に伴うキャリア継続支援事業」という新規事業の案内がありました。研究中断期間はもちろん、DC2としての月20万の収入はなかったわけですが、この分が支援金でカバーされ、経済的にも心理的にもとても助かりました。何より、出産に伴って研究を中断していたも、特別研究員を継続することが認められていると思えたことが一番の支えでした。

この経験を通して

博士号を取得するまでの道のりは、誰にとっても平坦なものではないでしょう。心身ともに無事に目的を達成するには、純粋な研究力だけでなくそれを支える研究環境が必要です。
私個人は、理解ある指導教員と院生仲間、やむを得ない研究中断をしていても研究者キャリアの継続を認めてもらえるという心理的な安心感、経済的・制度的な保障の重要性を身に染みて感じました。
同時に、こんな疑問も生まれました。
>自分が男性で、夫側の立場だったら?育休はとれるの?
>住宅ローンは組める(家を購入することはできる)の?
私の場合、出産に伴い収入がなくなり、さらに夫にも育休を取得してもらっても、雇用保険でカバーされるので世帯収入はゼロにはなりません。では、私が男性(夫)の立場だとすると、妻は出産に伴い収入がゼロか2/3に、夫である自分が特別研究員の身分で育休をとろうとしたら、収入はゼロになってしまいます。子どもが増えて支出も増えるのに、これでは生計が立てられません。夜中も頻回に子どもに起こされる日々、産む性でなくても研究活動がフルでできるとは思えません。
家族構成が変わると同時に、住宅問題も出てきます。子どもが増え、広い家にと思ったところで、特別研究員は住宅ローンが組めるのでしょうか。

研究者としてのキャリアの継続と人生設計。日々のライフワークバランス。これからもリアルな日常を記事に残していきたいと思います。







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