15年前の未来予測と今

引越で荷物の片づけをしていたら、2012年に修了した大学院博士前期課程時代の授業資料が出てきた。野村総合研究所が2008年12月の状況に基づいて作成した未来予想年表である。

■2013年 高病原性鳥インフルエンザの人への感染予防・治療法開発
■2014年 HIV感染を根治させる治療法が開発される
■2019年 アルツハイマー病の根治療技術が開発される

残念ながら、これらは叶わなかった。

高病原性鳥インフルエンザはアジアを中心に人への感染例が報告されている。今でも人への感染予防は、鳥インフルエンザに感染したであろう死んだ野鳥や家禽に近づかないこと。単純な話だ。結局私たちは鳥インフルエンザのヒト感染よりも、COVID-19という世界的パンデミックを引き起こすウイルス感染に脅かされた。2019年12月から世界の多くの人々の社会生活が一変するような出来事に遭遇した。

HIV感染は、カクテル療法で命を落とすことなくコントロール下に置くことができるようになった。ただし、今でも薬を飲み続けなければ体内のウイルス量は増加し、再燃する状況で、根治療法はまだ確立されていない。ゲノム編集技術は一つの鍵であるようだが、人間に適用できるまでまだ時間がかかりそうだ。同じ性感染症のくくりでいえば、日本では梅毒の感染者が2010年以降増加の一途をたどっている。感染早期であれば完治可能で、比較的早くから治療が確立された感染症だが、私たちは克服どころか苦しむ人たちを増やし続けてしまっている。

アルツハイマー病治療薬は、やはり今のところ根治療法に至る技術はない。薬物治療の主流は、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬、NMDA受容体拮抗薬であり、神経伝達物質の量をコントロールすることで症状の進行を遅らせたり、緩和するものだ。長くこれ以外の機序で作用する、特にアルツハイマー病の病態に影響する薬剤や技術はなかった。しかし、アミロイド斑(老人斑)を減らす働きをする抗体医療、アデュカヌマブなどが2021年から米国で承認されてきた。自ずとアルツハイマー病根治に期待がかかるが、現実的にはまだ効果が著しいとは言い難い状況にある。

人の一生も、社会も、思いがけない出来事に突然見舞われて、予想をはるかに超えていく。15年先、私たちはどんな社会で何をしているだろうか。

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