ショートショート: 立方体の思い出
気がつくと、暗い草っぱらに転がっていた。体中が痛い。裸の上半身に草がはりつく。喉が乾いた。
ここはどこだ。
高速に近いのか、車の走る音が風に乗って聞こえる。辺りには電灯一本だけ、人影はない。
何があったか思い出せない。ああ水が飲みたい。
ブーンと音がし、トラックが猛スピードで近づいて来る。待ってくれ、待って!だがうめき声にしかならない。
そのとき窓が開き、運転手が何かを放り投げた。きらきら光る立方体が、カシャンと草むらに転がり落ちる。
近づくとそれはペットボトルだった。茶色がかった液体がほのかに温かい。お茶だ。
神はいた。私は涙を流さんばかりの勢いで、ボトルの蓋を開けようとし、止まった。
待てよ。
これは本当にお茶だろうか。四角いし。長距離の運転手は、車内で用を足すこともあると聞く。いや、まさか。
だが乾いた体は待てなかった。蓋を回し、私は生温かい液体を一気に喉に注ぎ込んだ。
あれはお茶だったのか。もうどうでもいい。私は今日まで、確かに生き延びたのだから。
※たはらかにさんの企画に参加します
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?