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『ランチタイムの教室』  (学年だよりから) 

毎月の「学年だより」に載せていた学校の様子です。このときは教室の昼食風景をスケッチしました。1990年代の学校です。

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午前中の授業が終わりに近づくとケンタはもう落ち着いていられません。お弁当の時間が待ち遠しいからです。シンヤも何だかそわそわしています。みんなチャイムが鳴るのを今か今かと待っています。我慢できなくなったケンタは先生の口調をまねて「ではちょっと早いですが…」と言って授業を終わらせようとします。先生は苦笑いをしながら2分早く授業を終えました。ケンタの作戦は大成功です、

「キン、コーン!」チャイムが鳴りました。楽しい時間の始まりです。牛乳係のタカとカズが牛乳を取りに教室から駆け出します。他の人たちは班ごとに机を移動させます。みんんな廊下の水道に手を洗いに行き、ロッカーからお弁当を取り出し、自分の席に持ってきます。そしてお弁当を机の上に置きます。でもまだ食べられません。牛乳が運ばれ、日直が号令をかけるまで食べてはいけないことになっているからです。「おあずけ」された犬の気持ちがわかります。今日のおかずは何だろうという顔でじっと弁当箱を見つめて待ちます。

スピーカーからお昼の放送が流れ始めたところで牛乳係の二人が戻ってきました。手慣れた様子で各班に牛乳を配ります。アッと言う間に配り終えました。日直が号令をかけようとしますが、ロッカーのところでシゲくんが一人何やらごそごそやっています。お弁当をカバンから取り出しているのです。動作がゆっくりのしげくんはいつもみんなから数テンポ遅れます。日直は全員が席に着いてから号令をかけるという約束があります。「シゲ、早くしろ!」「ひとまず座れ!」みんな空腹なので気が立っています。「シゲくん早く座って!」女子も空腹に耐えられない様子です。

シゲくんがやっと席に着きました。「いただきまーす!」日直が号令をかけます。「いたまーす!」「ま~す!」「~す!」空腹なのでみんなの「いただきます」は省略形になり勝ちです。タニくんはごはんに「おとなのふりかけ」を2袋かけました。「卵焼き、失敗しちゃった」と嘆くマミちゃん。自分で作ったようです。ハルちゃんはご飯を一粒一粒口に入れています。お弁当箱を左手に持ってお行儀よく食べているのはミッチ。反対にお行儀の悪いのは向いの席のオザキくん。隣の席のヤスオの方に足をニュッと投げ出して寝そべるような格好で食べています。消化に悪いよ。オザキくんはいつもこの姿勢ですが、ヤスオは別段気にする様子もありません。ヤスオといえば入学以来欠かさずクマちゃんのタッパーにデザートが入っています。お母さんが入れてくれるようですが、今日は何が入っているのでしょう?シュウくんは食べるときも背筋をピンと伸ばしています。

あちらの班では「教授」と呼ばれている秀才のカイズくんがすました顔でごはんを口に入れています。米の自由化問題でも考えているのでしょうか。歴史の得意なイトウくんはチキンの唐揚げを食べながら江戸時代の農民の暮らしについて語っています。唐揚げは江戸時代にもあったのでしょうか? キミちゃんとアヤちゃんはおかずを取り換えています。サトイモとウインナがトレードされました。ケンタの今日のお弁当は経木に包まれたおにぎり。なんか粋でいいね~。ナギちゃんのお弁当箱はシックなデザイン。ユキエは食べながら髪をくるくる丸めています。授業中もよくやってるけど癖なのでしょう。

1班では3人の女子がタカをからかって楽しんでいます。かわれるタカも何だか嬉しそう。相手になってしゃべってばかりいるからタカは食べ終わるのがいつもビリ。食べるのが早いフクジュンはもう食べ終わっています。2班と3班にまたがって食べているのはカズくん。最近は「うさぎりんご」がよく入っているね。おばあちゃんの温かさを感じます。カズくんのお母さんはカズくんが小さいときに亡くなり、おばあちゃんずっとお母さん代わりをしてきました。授業参観も欠かさず来てくれるやさしいおばあちゃんです。「あっ!」 サンちゃんがブロッコリーを残そうとしている! ちゃんと食べなさい! シンヤがおかずを班員に配っています。何と気前のいいこと!それとも食べたくないから? カナちゃんは飲み終わった牛乳のストローを牛乳パックに立て、ストローの袋を丸めて巻き付けています。何かのおまじないかな?

そろそろ食べ終わる人が増え始めます。昼休みに外で遊ぼうとする男子はもう準備態勢に入っています。教室がざわついてきました。そんな中でも4班のお姉さま方3人はペースを崩さずゆっくり食べています。カヨッコはフォーク派、ロコちゃんはスプーン派です。しっかり者でクラスのお母さんのようなアーちゃんは食べながらお弁当を作ってくれたお母さに感謝しているように見えます。そんなお姉様たちの前で4班の男子オオコとシゲくんはちょっぴり小さくなっているように見えます。「あれっ、4班の男子が一人足りない。ヨッチくんはどこ?」と思ったら、「これできょうのお昼の放送を終わります」とスピーカーからよっちくんの声が流れてきました。あっ、そうか。放送当番だったのね。

ランチタイム終了のチャイムが鳴り始めました。ごちそうさまでした!



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