公共と風

風という言葉は、風は大気の温度変化から生じ、空気の移動に影響を与える現象です。この風によって、自然と地上の生命が支えられています。一方で日本語では、「風通しの良い社会」といった日常会話にも風という言葉は使われます。環境に引きおこる風という現象を公共性と結び付けて考えてみます。

自然現象に置ける風は地上の生命を支える上でも重要な役割があり、様々な草木の花粉や種は風に運ばれ、渡り鳥は風に乗って大陸を横断します。
空気の巡りが悪い森林は不健康であると考えられています。森林での枝打ちという作業は風通す意味もあり、庭師の刈り込みも造形以上に木の中に風を通すようにする意味があります。
室内でも、寒気が悪いとカビが生えてきて、不衛生と感がられており、建築設計においても空気の循環は大きな課題になっています。このように生命と風は密接に関係しており環境デザインというものは風のデザインとも言えるでしょう。

一方、日本語に置いて風という字は良いものも悪いものも色々なものを遠くまで運び広げるものと考えられており、「凡」という字は、風があちこち草の種を運ぶことで、何処にでもあるという意味があります。病気の名前に風邪、風疹、痛風と風という字が多く使われるのも、悪い病は悪い風が運んでくると考えられてきたからです。現代では風は大気現象に過ぎないが、311の際の福島からの風のシミュレーションの画像は記憶に新しいですが、天気予報の予想率が完ぺきではないように、現代の科学をもってしても風の流れはいまだに分からないことが多いようです。

人体での風の役割は呼吸です。呼吸は空気中の酸素を取り込み、肺を通じて血液に流す役割があります。呼吸をとめてしまうと死んでしまいます。呼吸と血液は密接に関係し、東洋医学では「気血水きけつすい」という概念があります。気、血、水のバランスが整っていれば健康であり、滞れば病気になるとされます。空気という言葉に気という文字が含まれるように、気は空気だけでなくエネルギーのようなものだと考えられており、呼吸は気の循環をさせる重要な運動です。風水でも気の流れを重視することからもわかるように、風(呼吸)は気を運んで調和させるものだと考えられています。

風の意味をおっざっぱではありますが、マクロからミクロまで述べましたので、次に本題の公共性と風についての考察に入ります。
多くの公共的な施設は、OOセンターという名前がついていますが「センター」つまり中心から外に向かってサービスなり何かが発信されている状態を想定しています。これは循環的な視点では、そのサービスなり情報は全力で発信しなくてはならず、そのエネルギーは枯渇しかねない設計とは言えないでしょうか。

建物に風を入れようとするときは、窓を開けると思います。一か所空けるだけではだめで、抜けている方の窓も開けなければ風は通りません。循環的で健康な環境を作る際にも同じ図式が考えられます。つまり、開かれた公共と行った際に、ただ開くだけでいいのでしょうか?「入り口をだけではだめで、出ていく方もデザインも行う必要がある」ということです。
環境を作るという際は、自然でも人間関係でも、人体でも、同じように入り口と出口をデザインする必要があり、その巡りについて設計する必要があります。

次に、風の観測と風をうける当事者について考えてみましょう。
実際に団扇を使ってカーテンをなびかせてみましょう。すると一振りではあまり動きません。連続的に送ってやるとワンテンポ遅れて揺れだすはずです。流れとは微風であればあるほどワンテンポずれるものです。これは風がボールが飛んで行って何かにぶつかるようなものではなく、風を送る運動によって周りの空気が順々に追随して動くため、風として立ち現れるためには少し時間がかかるということです。
風は目に見えないもので、今現在厳密にどのように風が動いているか、現在の科学を持ってもとらえることが大変難しい。風が引き起こす現象を観測するということ、風の吹いている中で体験するということは経験としては異なる体験です。ですから設計する際におおよそは計算できますが、実際どの様な強さ、暖かさ、匂いといった性質は風を通して体験しないと分からないということです。

これらの考え方を公共にあてはめて考えると様々な問題が見えて来ると思います。
公共の設計において、建築設計やイベント設計では、周囲の環境から人やニーズを当事者目線で循環を円滑にする。使用者、利用者達が、風の流れを肌で感じながら創像的にシステムを改変していくこと。その上で、元々ある流れを円滑に促すことこそが公共の役割ではないでしょうか。
風というキーワードで解釈するにはやや曲解ではないかという意見もあるとは思いますが、古来から巡りの問題に取り組むうえで考えられた言葉として「気」という文字があるように、聞きものがいるところに風の源はあり、これらを促し循環させる人間の営みを考えると有効なキーワードではないでしょうか。

この考察は、妻が調べた環境循環の新しい試みとして始まっている「風の芝刈り」からヒントをえて、「風」をテーマにダンス作品を制作し、こと制作の際の妻との対話の内容の一部を書き出しメモのようなものです。環境を考えるうえでミクロにもマクロに使える有用なツールだと自負しています。

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