君たちはどう生きるか 初見感想

初見と言いながら、2回目は多分無く、映画館で一回見て満足したので次見る時は金曜ロードショーだと思う。 少年の冒険活劇と銘打たれていたが、その通りで、セカイの話を書きながら、主人公周りの血縁でセカイを閉じて少年の成長物語に繋げる。東京から田舎(埼玉の真ん中くらい?)へ行き、東京へ帰ろうとするシーンで終わる。作中何回も「扉」というモチーフが出てきて、東京→地方→東京と物語を閉じるのは綺麗だと思う。「門」とか「窓」を出して少年の勇気とか成長を見せるオーソドックスな演出は少し陳腐だが、アニメーション表現のパイオニアである宮崎駿がやってしまうとアリに思えるし、感慨が湧く。ただ「扉」を扱うなら「何を閉じるか」を明確にする必要があり、「すずめの戸締まり」は過去のトラウマや震災といったモチーフと対峙した上で扉を閉めていたが、そういったバックグラウンドは無く、作劇上での大道具くらいの役割しかなかった。

改めてストーリーを見返すと、オーソドックスでありながらも時間配分は歪だ。まず眞人少年がどういう人物なのか、彼を取り巻く家族と住んでる場所はどんな所なのかをかなり時間をかけて描く。物語の肝である叔母との確執。父親との距離感。不思議なおばさま達。青鷺。と思いきや台詞の総数という物理的な点も含めイマイチ眞人少年の人物像は浮かんでこない。叔母が攫われ、冒険シークエンスへ。地獄?と思われる場所での生殺与奪を巡る問答、新たな生命への祈祷。続いてインコが支配する都市へ移行。叔母さんを取り返す為の奮闘と葛藤。流れるように、フック無く進むが作劇のスムースさに関しては一級品なので退屈はない。

作劇のピークは眞人少年に世界の命運が託される所に持って行きたかったのだろう。ナウシカもラピュタもこんな感じだったし、世界をを選ぶかミニマムな世界を救うかの流れは既視感に溢れていた。ただこの場において眞人少年の業を描いた点は監督本人の語りとしても意味があるものだったのではないか。物語冒頭で眞人少年は周囲の子に殴られたふりをして自傷的に頭に傷を付けた。周囲からの目線を集めるために自傷行為を行った穢れの描写ではじめて眞人少年のキャラクターとしての造形に陰影がついた。

これ以上物語は盛り上がることなく、先述した東京へ旅立つシーンで終わる。弟も生まれ、期待と希望を匂わす終わり方ではあるが、直接的な次世代へのメッセージは無く、拍子抜けではあった。メッセージとして読み取れるのは、膨大なセルフオマージュが示す「宮崎駿はできることは全部やり切ったからあとは任せたぞ」ということだろう。おそらく「君たちはどう生きるか」よりもストーリーがよく出来ていて、作画が綺麗で、情感に訴え、だれかの人生を変えてしまうような作品はあると思うが、その状況を作ったオリジネイターが出涸らしになるまで作品を作った、という事実は後世に残るのではないか。

最後に残念だった点を述べると、作品世界の「コード」が示されなかったことで、それが理由で「君たちはどう生きるか」という世界を好きになれなかったことは心残りだ。「ナウシカ」も「ラピュタ」も「千と千尋」も「もののけ姫」も、ここはどういう世界で、どういう人が共存していて、どう社会が成り立っているのかをビジュアルと言葉で説明し、その世界自体に惹かれていた。その世界の豊かさがアニメーション表現で補填されるところにジブリの本質があると思っている。ただ、「君たち〜」は閉じた家屋と塔と過去の栄光の継ぎ接ぎのようなファンタジーだけが残っていて、なんか寂しくなってしまった。

ただ、見たことがあるようなものだったとしても、昭和平成令和のどの時代でもファンタジーやロマンを描き続けてくれた宮崎駿は幸せだったのかな...などと考えると胸は熱くなってしまう。否応に。

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