初めての傍聴

どこまで書いていいのか迷うけれど、こういうことがすぐ隣にあるということをちょっとでも知って欲しいと思う。

昨日は、あるご縁から誘われて初めて裁判の傍聴に行ってきた。部屋に入るまで全く白紙で、どんな事件かも知らなかった。

法服を纏った事務官が中央に、検事とおぼしき3名が下手に、その後ろにあまりにも場違いな服装の人物とその付添人、上手側に弁護士とおぼしき2名。最後に裁判官3名、裁判長は女性。そして両側に裁判員が3名ずつ計6名。後ろに準裁判員が2名。

そして被告の入廷。
管理官に腰縄でつながれ、手錠をかけられて登場したのは、白髪の老人だった。

その老人は精神を患う実子に暴言や暴力で脅かされ、自殺をしようとまで思い詰めたのだけれど、自分の疾病のために自死すらもできない。思い余って実子に対して切りつけ、殺人未遂として逮捕、起訴となった。

そして検察側証人として着席していた場違い服〜上下純白のふんわり素材、金色の入ったサッシュベルト〜の人物こそがその実子。同行した弁護士によると「こんな被害者参画はごく稀なケースだね」とのこと。

検察側冒頭陳述、弁護側冒陳述、休憩を挟んで検察側証拠説明、弁護側証拠説明(含被告の反省文)入院歴、服薬歴も説明される。そして証人尋問。

実子はそれは流暢に検事からの質問に回答していく。親には飲酒癖があるので、台所によく酔って倒れており、意識を確認するために頬を軽く叩いたことはある、持病のリューマチのリハビリのために関節を伸ばしてやったことがある、親は自分から別居を提案し、不動産屋まで呼んで施設入居を検討していたのに自分から断った。親は介護保険のサービスを受けていたが、療養に専念して欲しかったので自分がそれを断った…等々。

ところが休憩を挟んだ被告人尋問では

殺意の動機は全ての自由を奪われたこと。馬乗りになられて往復ビンタをされた、暴力については警察にも訴えたけれど「民事不介入」を理由に、何もしてもらえなかった。介護サービスも使いたかったのに、無理やり止められた。生前贈与に渡した金額は子どもの方から「縁切り代」として要求されたもの。別居をしたいと言い出したのは子どもの方だった。誰かに相談したくとも、もう1人の子どもは被害者の子が原因で縁切り状態。自分のきょうだいは高齢なので負担になってしまう。行政は親身になってはくれない。追い詰められて他に選択肢は無かった、という。
そして、弁護士から亡くなった配偶者に対しての質問がなされたとき「(配偶者は)うつ病になって自殺しました。うつ病になった原因は(被害者が)精神を病んでしまったからです。そしてうつ病患者には『頑張って』という言葉は禁句だからそれを言わないように何度も(被害者に)言って聞かせていたのに(被害者は)『わざと』配偶者にその言葉をかけていた。自死したのはそのせいだと思っている。」と。

この人は病んだ実子ひとりのために、もうひとりの子と配偶者を失い、自分は法廷に被告として晒される立場になった。そしてその実子は検察側の証人となって、自分の罪を訴求する立場にいる。

でもこの人は言う。

自分がもっと大人になればいいのだ。結局は実子に頼るしか術はないのだから
(検察官)それではまたストレスが溜まるのではありませんか→わからない
(検察官)そうなった場合の対処法は?→その時に考える
(検察官)誰かに相談するなどは?→そのつもりはない
そして
「罪を犯した人はまた罪を犯すと考えているのか、そのへんをあたたかい目で見てはもらえないのか」と絶叫に近い口調で言い放った。
裁判長が割って入り(これも稀なことだと後から聞いた)
我慢するだけが解決法ではないのですよ。本心を語って欲しいのです。被害者の前では言いにくいかもしれませんが…

その後も
(弁護士)拘置所には誰が面会に来ましたか?→(被害者の)実子、姉、姉の子
(弁護士)地域包括からは?→一度だけ来た
(弁護士)包括から、退所したら施設入居などへの提案はありましたか→考えてみると答えた。彼らはどうせ目先の…
(弁護士)(遮って)心配しているんですよ。心配してなきゃ拘置所までなんか行きませんよ。行政や警察の対応に不満なのか?→不満なわけではない。ただ信用できなくなった。
(弁護士)ではどうして欲しかったのか?→自分でどうしようもないことを他人さまに頼ったことはない。行政や警察が何をしようと(被害者実子の)行動は変わらない。

そして最後に被害者の意見陳述があった
流麗至極。自分は暴言も暴力も行なっていない。疾病はあるが自制がきかなくなることはない。親はなんでも(きょうだいの家出、配偶者の自死)を人のせいにしている。自分の罪に向き合わない親が悲しい。

統合失調だった(らしい)従兄とその母親がずっとだぶって見えていた。従兄も他者の介入を許さず、伯母は医者に行くことも禁じられていた。家は片付けもできず(物を動かすのを従兄が嫌がったため)ゴミ屋敷となり、伯母は白内障の手術さえ嘘をついてやっと出かけた。私にはこの被害者が自分の親に対してやったことがよく「見える。」
伯母は身内以外の周囲に対し、従兄は「知恵遅れなので働けないため家にいる」と語っていたらしい、と後から聞いた。彼女にとっては「精神を病む」というより「知的障害」の方が世間体が「マシ」だったのだろうか。あるいはそう信じたかったのだろうか。

この母親が第三者の介入を拒む以上、執行猶予はつきにくいように思う。
精神の病は、家族全員を覆う。でも縦割り福祉のシステムはそれをサポートするようにはできていない。包括だけが動けば済む問題ではないのに。

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