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プリズムの断片。

 下書きだけ一丁前に溜め込んで、結果いつもと変わらない2月が終わった。閏年だからって特別なことは起こらない。息を吸って吐いて、自分から目を逸らしてたら簡単にひと月消える。それでいいか、でいつも片付いてしまう。

 今日は湿っぽい朝だった。小雨の粒が目に入るのが嫌で俯いて歩いていたけれど、少し考えたら晴れの日でも大して目線は変わってないと気付いてしまった。通勤路はまだ肌寒くて、少し暗くて、一層気が滅入る。

 途端。右を通り抜けた自転車の後ろの方。小さめのボリュームで聞こえている Shape of You が一瞬聞こえなくなるほどの元気な声がした。

 「ママ!虹だね!綺麗だね!」

 純粋さに首でも掴まれたようだった。自然と上を向いてしまうと、ぼんやりとした虹がそこにあった。近付いたら消えてしまいそうな薄い虹。短く溶けていくような虹。空模様も合わさって儚さすら覚えるのに。
 その女の子はそんな不完全さすら輝いて見えて、眩しい愛を大きな声に乗せたのだ。その瞬間の景色は、なんだか美しいと思った。

 虹の根元には幸せが埋まっているという御伽噺を思い出した。
 その方向へとゆっくり向かう自転車。いつかその親子が思い出して笑えるような、宝物に変わっていく時間のカケラみたいだった。

 短い映画を見たような爽快感を飲み込んで、私はまた歩き出した。



 一人の肌寒さが余計に際立った。あの虹の根元に会社が見える。私の幸せはそこに無いし、不完全さを許してはくれない仕事が待っている。人間続けるのも楽じゃないよな、やれやれ。

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