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「見えないを見る」を終えて: Ome Farm 太田太さん

2020年2月に、当時在学していた国際基督教大学で開催したイベント「見えないを見る〜衣・食・住・エネルギーから探る、これからの暮らし」。イベント後に参加者から寄せられた質問を中心に、4人の登壇者に事後インタビューを実施しました。
3人目は、「食」の分野でご登壇いただいたOme Farm代表の太田太さんです。

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ニューヨークでの活動

--先日はありがとうございました。トークイベントの話の前に、ニューヨークではどのような活動をされていたのですか?

太田:「ムダ」と思えることをたくさんやって、自分の肥やしをたくさん増やしてたよ。21歳の時に1年半のビザを申請したら、5年間の滞在許可が下りて・・・ニューヨーク着いた時には、帰る気はなくなったね。

音楽の機材の勉強をして、ファッションショーの裏側で働こうと思ってたんだけど、音楽の方にのめり込んでDJもやって、新聞配達やって、体も鍛えてたからジムのコーチもやって。英語だけじゃなくてスペイン語を一から勉強したことも「ムダ」のひとつ。

1年半の予定が5年(結局6年)になったから、生きるために、できることをなんでもやっていたら、気付いたら周りに友達がいっぱいいて、今Ome Farmで一緒に仕事しているヒデとも出会ったんだよ。

何かひとつだけやり続けるんじゃなくて、幅のある活動をしてきた。
それによってたくさん「ムダ」の肥やしができたから、タネが蒔かれた時に成長できたんだよ。


ストーリーを持ち、小さく強くある。

--さて、トークで「小さく始めたものを、大きく拡げる必要なんてない」というお話がありましたが、太田さんにとって「小さく強く」あることのメリットやデメリットはなんですか?

太田:まず、メリットは・・・。事業を起こす時にはヒト・モノ・カネが必要になってくるけど、うちは小さいから8人のスタッフで十分ってことかな。本当に人手が必要な時は、仲間たちに助けに来てもらえばいいんです。畑には俺たちの人生がそのまま反映されているから、助けてくれる仲間にはお金の代わりにその経験値を共有できるんだよね。
来てくれるみんなに何をすれば喜んでくれるか、彼らに提供する時間の内容にはストーリー性が無いといけない。

--例えば、どういうストーリーですか。

太田:俺たちの循環型農業の中で、循環できないものはプラスチックであることは明らかに分かっていたんだけど、今年プラスチックのマルチシート*を使わずに玉ねぎを蒔いてみる取り組みを始めた。みんなにも手伝ってもらったよね。

(*マルチシートとは、畑の土の上に張って雑草などを防止するシートのこと。イベント開催前、企画運営メンバー4人がOme Farmにお邪魔して玉ねぎの定植のお手伝いをしました)

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1人でやったら到底終わらない作業だけど、みんなでやったらすぐに終わるよね。40人ぐらいが手伝いに来てくれたんだけど、そのうち10%でも興味持ち続けてくれたら、4人が「もっかい手伝いに行こうかな」って思うようになる。「自分が植えた玉ねぎ、どうなってるかな、世話したいな」って気になっちゃうから。生き物をかわいがるのと同じ原理でね。そして次の段階として、その玉ねぎの生育を妨害する雑草を抜くお手伝いを募集するんです。

その次はもう収穫。手伝ったみんなにとって、自分が蒔いた種を刈り取る責任と喜びがあるじゃないですか。その種や苗の結末を見届けてもらうっていうのは、1個のストーリーだと思うんだよね。定植を手伝ってくれた人の心の中に、もう玉ねぎが刺さってるから。心の中で玉ねぎがどんどん大きくなって、収穫したくなっちゃうんですよ。

--なるほど、面白いですね!逆に、デメリットはありますか?

太田:多額のお金を動かせない状況になりやすいのが、デメリットの1つ。
例えば、独立して2年目に近所のブルーベリー農家が引退することになったんだ。「無農薬で育てられてきたブルーベリーの苗木をムダにするのはもったいない」って農場のみんなで話していたけど、俺は経営者としてプレッシャーを感じたの。独立したばかりで、できれば5000円でも出費したくないような状況なのに、ブルーベリーの苗木を買うなら数十万かかるし資材も必要になる。そのブルーベリーが、何年かかってどれだけの収益になるかも考えなければならなかった。

でも、SNSで事情を説明して、ブルーベリーを一緒に救ってくれる人を1口1万円で募集したら、170口ぐらい集まったんだよ。170万円集まったおかげで、ブルーベリーを買い取って、みんなで植え替えることができた。

それで、またストーリーの話に戻るんだけど、この170口を出してくれた人たちはとてもブルーベリーを気にしてくれるの。心にブルーベリーが移植されているんだよ。
今年は鳥獣害を防ぐためにネットを張ることにしたから、ブルーベリー基金に参加してくれた人もそうでない人も集まってみんなで作業する予定なんだけど、そういうストーリー性を大事にしてる。

そのネットも、捨てられるものを再活用したくて。引退する農家さんに譲ってもらったパイプとか、捨てられそうだったネットを使って、俺たちが植えたブルーベリーの周りに張ってやろうと思ってるの。

俺たちの畑は東京だから会いに行きやすいし、ブルーベリーとか玉ねぎとか、そういった体験することで自分たちの経験値や強みを増やしてもらうんだ。俺たち自身も大規模農業じゃないから、小さくて強くある必要があるんだよね。

みんなにこの間植えてもらった玉ねぎも、まさに俺たちのことを象徴していて。俺たちの玉ねぎは、小さくても美味しければいいの。牛糞や化学肥料を入れて大きくする必要はなくて、爽やかでフルーティーな甘みがするものに仕上げるにはどう育てるべきかを考えながらやってる。

(玉ねぎはしっかり成長し、美味しくいただきました!)

--いい話ですね。とはいえ、まだ世間では、スーパーで売られているような「大きくてキレイ」な野菜が選ばれる傾向が強くて、そうでない野菜はデメリットになることもあるのでは?

太田:1人だったら無理かもしれないけど、仲間になってくれるシェフがいっぱいいるし、うちのお客さんに値段やサイズに対して文句を言われることはほとんどないよ。美味しいからね。それが俺たちの強さだね。

--まさに、小さくて強いですね。農協の分野に対しては何かアプローチしていきたいと思いますか?

太田:既存の農協にアプローチするというよりは、小さいネットワークで農業者同士の協力体制は必要なんじゃないかなと思う。俺たちは俺たちの輪を拡げていくよ。

--なるほど。では、企業がOme Farmのように小さくて強いあり方を目指すためには、どうすべきなのでしょうか。
トークの最後でも少し話したけど、「思考回路が停止している」質問だね。自分で時代を読む力を養わないといけないよ。それと同時に、自分の引き出しを増やすことが大事。

太田:俺は小学生の頃から語学や歴史の本をたくさん読んできたんだけど、今の若者にも、ムダと思わずに色んなことをやってみてほしい。20代のうちは、ムダと思える全てのことがムダじゃないから。30代になった時に厚みが出るよ、絶対。


「金は時なり」

--話は変わりますが、太田さんにとって「お金を稼ぐ」とはどんな意味がありますか?

太田:今の世の中のほとんどは”誰かに何かを売る”ことで成立していて、お金はモノやサービスを交換するためのチケットのような役割にしか過ぎないよね。

--太田さんは野菜を売ってお金を得ているわけですが、それはどのように消化するのですか?

太田:まず、俺は物欲がないのね。欲しいものはすでに手に入れていて、あとはそれをどう磨くかなんだ。
磨かなきゃいけないものは娘と息子でもあって、その責任も感じている。稼いだお金は子どもたちと遊ぶために使って、あまりは妻へのプレゼントになるから、自分に何か買うことは滅多にないね。元から新しいものを欲しがるタイプではなかったけど、農業を始めて価値観がさらに変わったよ。

お酒は好きだけど、お酒も何も、経験値を高める時間の過ごし方のサブアイテムでしかないからさ。どういう時間を過ごすか、ということに尽きるね。金を時間に変える。
「時は金なり」って言うけど、「金は時なり」でもあるんだよ。お金は時間のために使うんだよ。


Ome Farmが仕掛ける「ハッピーテロ」

--深いですね。では最後に、Ome Farmの"ゴール"を教えてください。

太田:最終的な”ゴール”はないけど、中間目標は「東京で農業を行うことで、みんなが土に触れるカルチャーをつくる」ことだね。都会にいる人間を土に触れさせたい。
昔、典型的なシティボーイだった頃は、土いじりなんて田舎もんのやることで都会には必要ないと思ってた。だけど、ニューヨーク行ってから変わったな。

他業種の人が集まって、シェフ同士が出会って、まかないのカレーを「うまい」と言って一緒に食べながら意見交換をして。それがオフィスじゃなくて畑で起こっているっていうのがすごくクリエイティブで、ゾクゾクするよ。

俺たちがやってることは「ハッピーテロ」。周りの人たちのことをハッピーにする時限爆弾みたいなことを、自分たちの野菜やはちみつを通してやってるんだ。

ー-「ハッピーテロ」!私たちもたくさん仕掛けていただきました。
太田さん、今日はありがとうございました!

(インタビュー:大塚桃奈、松丸里歩)

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