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この世で一番笑った文

「水虫といえばたいがいオッサンの持病であり、それにかかると脂足に甚だしい異臭を放ち、その靴および靴下は、家族の間では汚物とみなされるという恐ろしい病気である。」

さくらももこさんのエッセイ、「もものかんづめ」冒頭の一文である。高校生で水虫に罹患した悲劇を綴った話なのだが、こんなにおもしろい書き出しがあるだろうか。小学5年生の私はこの一文で腹を抱えて笑い、そして衝撃を受けた。

「文字だけでこんなに笑えることってあるのか!」

それまで笑うコンテンツといえば、コロコロコミックのギャグ漫画か吉本新喜劇かTVの漫才しか知らなかった私にとって、活字だけで笑うというのは大きなカルチャーショックだった。
本といえばじっくり楽しむもの、もしくは勉強するものという認識が強く刷り込まれていたため、不意打ちで脳天を殴られたような衝撃を感じた。まさに革命。
そのままさくらももこさんのエッセイを全シリーズ読破するに至った。この上ない満足感を得ると同時に、苦手意識のあった作文が得意になったように思う。
「俺も文章で人を笑わせてぇ!」
という気持ちが抑えられず、小学校の卒業文集にはエッセイ風の文章を綴った。明らかに浮いていたが、自分としては満足だったし、10年以上経った今読み返しても、黒歴史を消し去りたいあの羞恥心が湧き出てくることは無かった。なんかおもろいこと書いてんなあ、このガキ。てなもんである。

「人生を変えた本」のようなタイトルで読者にオススメを紹介する記事や、YouTube動画はよく見かける。よく挙げられるのはやはり自己啓発本の類だ。
人生を変えた本といえば「嫌われる勇気」?NO!
それとも「夢を叶えるゾウ」?NO!
私の場合は間違いなく「もものかんづめ」だ。
私の中の文章感とでも言おうか、それに革命をもたらしたペレストロイカ的存在。
もし選考委員だったら、ゴルバチョフ2世としてさくらももこさんにノーベル賞を授与したい。もちろん文学賞だが、さくらさん亡き今、その夢が叶わないことをとても残念に思う。

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