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営業は人の心を動かす仕事【実体験編】

営業の本質は人の心を動かすことであると言えます。
では、人はどういう時に心が動くのか?

わたしが思うに人の心が動くのは、そこにいる営業が放つ言動やそれによって起こる出来事に対して「小さな感動」を覚えたときではないだろうか。
営業マンに対して、あるいはその場で起きた出来事、状況に対しての「小さな感動」だ。

例えば演劇を観に行った時に、舞台俳優の迫真の演技によってエネルギーのようなものを感じることがある。

その俳優個人がもつエネルギーだ。
仕事に対する嘘偽りのない覚悟、そして勇気と意志だ。

わたしも飛込み営業をやってきた中で相手の心が動いたと感じたことが何度となくありますが、今回はその実例をご紹介していこうかなと思います。

わたしは営業の仕事を始めた頃、人の心を動かすには強い意志が必要だと強く感じていました。
使命感と言ってもいいと思います。
つまり、いかに人のためになれるか。

そういう気持ちになれた時、不思議に腹が座ります。
恐れというものがなくなる。

実例1.「訴えるから…!?」

ある会社の建物の前を通りかかったところ、またいつものように屋上を見上げ自分のアンテナが動き出すのを感じましたw

理屈抜きに屋上の状態が気になりました。
外壁は見るからに塗装してまだそんなに経っていません。

しかし、屋上の状態が気になるのです。

こういう時、わたしは迷わず飛込みます。
経験上、直観が当たる場合が多いからです。

一階はガラス張りで、中に人がいるのがわかります。
扉を開け中に入っていきました。

中に入り奥にいた女性の方にご挨拶しようと会社名を名乗った次の瞬間、相手の口から意外な言葉が出ました。

「えっ…!〇〇株式会社…!? そう!あなたの会社よ!ほんとにあなた訴えるわよ!」

わたし:「(訴える…!?)」

いきなりで、何が何だか意味が分かりません。

一からお話をお聞きしました。

その女性の方は社長様で、わたしが務めている会社で以前に工事をしたのですが、雨漏りがしてきて大変だとのこと。

外壁は塗装して間がないので、おそらく屋上からの水漏れであると状況を判断しました。
四階建ての建物でしたが、一階まで雨水が到達していました。
つまり、各階に雨漏りしているということです。

問題はその後の対応です。

その後補修に来たらしいのですが、雨漏りは止まらず、さらに連絡するうちにとうとう連絡が取れなくなったとのこと。

社長様は、かなりご立腹のご様子。

さらにその後、その経緯を知らない他の新人営業マンが新規訪問したらしく、話を聞いてまるでエビのように後ろずさりしながら逃げ帰って行ったそうです。
その後は、何の連絡もなかったそうです。

それじゃあ誰でも怒るよな…。
何やってんだよ、うちの会社はほんとに…。

わたしは経営者ではありません。
わたしが担当した工事でもありません。
しかし、うちの会社の責任ということは、目の前の相手からすればわたしの責任と同義です。

持ち帰ると言って逃げるのはNGですし、それじゃあ他の人間と同じです。
直ぐに気持ちが決まりました。

「お話よく分かりました。」
「社長、ほんとにご迷惑とご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。」
と深々と頭を下げました。

そして、こう言葉を続けました。

「わたしが直接担当させて頂いてないものですから、現状がよく理解できておりませんので、今から詳しく建物を拝見させて頂けないでしょうか?」

そして社長のご案内の元、建物の雨漏りがしている箇所に重点を置きながら屋上までのすべてを拝見させて頂きました。

一つ一つのお話を聞き洩らさず確認するように対処している内に、社長の溜飲が少しづつ下がっていくのがよく分かりました。

通常クレーム処理では、話を真剣に聞いていけば相手の怒りは半分になります。
要は、聞き方です。聞き方次第。場数を踏めばそれが分かってきます。
どれだけ真剣に聞いて、どれだけ相手の立場になっているかということです。

状況は理解できました。
本来なら屋上防水を完璧にしていれば雨漏りは起こっていないはずの建物の状況でした。

なのに、外壁の塗装を中心に工事を行い、屋上防水は補修的な工事で済ましている。
後で担当者が分かりましたが、他の物件でもクレームを起こしているいいかげんな人間でした。

この男はすでに退職しており、見込みのあった若い社員を勝手に引き抜き、二人で会社を興し同業者となりましたが、その後その若い子を置いて辞めてしまったらしいです。

さて、最後に屋上で社長と二人で真剣にお話をしました。
「社長、雨漏りの原因はこの排水溝周りを中心とした屋上からの雨水の侵入に間違いないと思います。」
「ほんとうに申し訳ありませんでした、確かに外壁の状態も良くなかったと思われますが、本来なら屋上から重点的に工事をさせていただくべきところを担当者の見込みが甘かったようです。」

「しかし、現状としてしっかりとした屋上の工事をしませんと、雨漏りを止めることは出来ないと思います。」(真剣な顔で相手の目をしっかりと見ながら伝えました)

「工事なのでどうしても費用は掛かってしまいますが、ご迷惑もお掛けしましたので、ぎりぎりまで工事代金を頑張ってお出ししてみますので、社長わたしに任せて頂けませんか?雨漏りは止めます。」

会社がというよりも、わたしが何とかしますという強い意志を込めて言っています。

そしてここで、明らかに相手の顔つきが変わりました。

社長:「またお金がかかるじゃない(苦笑い)。」
社長:「わかりました、見積してみて。」

わたし:「ありがとうございます!」

さっきまで「訴える」と言っていた人が「見積してみて」と言ってくれました。

社に戻って社長に一部始終を報告した時の驚きの表情が忘れられません。
驚きの顔の後に私の顔を見ながら嬉しそうに笑っていました。

正直、わたしの気持ちは晴れませんでした。
そして、その何とも言えない気持ちは予感となってしまいました。

いざ見積書を持って商談に行った時に、商談の席に見知らぬ女性が同席しました。
経理の責任者だということなのですが、実は社長の妹さんでした。

明らかにこちらに不信感を持っています。
社長は乗り気だったのですが、妹さんからストップのサインが出ました。

「そんなに簡単に信用してはいけない。」と妹さんに言われたようです。
前回同席していなかったのも原因しています。
断りの電話が入らないので、社長は私を信用しようとしてくださっているようですが、どうしても妹さんの顔つきが変わりません。

その後何度か妹さんがおられる時に再訪したのですが、結局工事は先送り状態のままです。
最初のクレームの時点で的確な判断と対応をしていれば、追加工事をさせて頂き何の問題も起きなかったと想像できます。

人の気持ちが二転三転したという苦い経験でした。


実例2.「大丈夫だから」という反応

ある工場の前を通りかかった時のことです。
建物外壁に大きなひび割れが見られ、該当箇所からの雨水の侵入が確実な状態でした。

一階奥は工場の作業場で左側に事務所らしき部屋がありました。
大きく声を掛けながら中に入りました。

奥の席にこちらを向きながら座っている男性がいました。
おそらく社長だと判断しました。

余談ですが、会社訪問を長く続けていると経営者が放つオーラのようなものが分かるようになってきます。

以前夏の暑い日に、ある大きな会社の入り口で、麦藁帽にタオルを首から掛け座って門の周りの草むしりをしている男性が目に入り、体から発するその雰囲気に、迷わず「社長さんでございますよね?」と声をかけたところ、「そうですが、何か?」との返事。やっぱり…。

経営者として重ねてきた人生経験と、自分の肩にかかる大きな責任がこの人を形作っているんだなと感じました。

話を戻します。

事務所奥の席の社長に向けてわたしはこう言いました。
わたし:「工事会社の者なんですけれども、社長さんでございますよね?」

社長:「そうですが、何か…?」

わたし:「大変失礼なんですけど、この建物の一階向かって右側にある大きなひび割れがものすごく気になりまして、あれを放っておかれると大変なことになるんで、そこだけお伝えしようと思ってお邪魔させていただきました。」

社長:「あ~あれね。あれは大丈夫だから…。」
その言葉と相手の表情に、よく同業者が来ているんだなあ、と感じました。

そこでわたしは、険しくも真剣な表情で社長の目を見ながらこう言いました。

わたし:「社長、あれはまずいです(この言葉に力を込めて全神経を傾けました)。放っておくと大変なことになります。」(事実なので仕方ありません)

すると、社長の顔つきが明らかに不安な表情に変わりだしました。
そして、腕組みをしだして小さくため息をひとつつかれました。

社長:「そんなに悪いの?」

わたし:「あのまま放っておかれるのはほんとにまずいです。」
「社長、そこだけご説明させて頂きますので、ちょっとよろしいですか?」
と、すかさずそのまま事務所から社長を連れ出して、当該外壁箇所に一緒に行き状況を説明しました。

まず当該箇所に主権者を連れて行くのが先決です。

結局そのひび割れ箇所だけではなく、工場の外壁四面全部の塗装工事のご成約を頂きました。
大きな工場だったので、それ相応な工事代金になりました。

人の気持ちを変えるには、強い意志と言葉の言い切りが必要です。
建物を自分事のように考え心配し本気で現状を伝えるだけ。

売りに行くのではなく正確な現状を理解してもらい、建物にとっての工事の必要性を真剣に伝えるのが仕事です。
それがちゃんと伝われば成約は後から必ず付いてきます。


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