連作短編|揺られて(前編)⑤|桜子
急に強く腕を掴まれ一緒に死のうと言われた時は、あまりの驚きと腕を振りほどく勢いでベッドから転げ落ちてしまった。
この若さでどうしてあんなオジサンとの死を選ばなければならないの。
冗談じゃない
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ごく一般的な家庭の我が家では大学生になったら小遣いは自分で稼ぐルールだ。彩乃からマッチングアプリを教えてもらってから楽に稼げるようになり、大学生活を楽しむ遊ぶ金も時間も増えて満足している。
そのマッチングアプリで知り合ったアキラくんは今一番の推しだ。自称フリーターは怪しいけれど、外見Aランクのイケボ(※1)だから嘘も許してあげる。
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今日は休講だしアルバイトもパパからの連絡もない。アキラくんに逢いたいなぁと思っていたら目の前をアキラくんが通り過ぎた。
え…
振り返り、少し早歩きのその背中を目で追うと、姿はホテルの玄関へ消えた。
どんな女性がアキラくんを呼ぶのだろう…
スマートフォンの充電はたっぷりあるから、あの公園のベンチで見張ることにした。
刑事ドラマみたい…
隣のベンチに座っている老人がパン屑を撒くので、鳩が集まりすぎてこちらの足元まで来て鬱陶しいけれど、空いているベンチは他にはなかった。
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アキラくんがホテルからひとりで出てきた。
真っ直ぐ駅へ向かうようだ。
この後、時間を置いて出てくる女性がアキラくんのお相手だと考えていいはずだ。
15分後、ホテルから出てきたとても美しい女性に目を奪われた。
絶対にあのひとだ…
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老人と鳩たちに小さく別れを告げて、女性の後を追うため駅へ向かった。刑事の気分のまま尾行することにしたけれど少し怖い。
彼女の生活を知ってどうするの?
しかし恐怖心より好奇心が勝り尾行を続けることにした。相手はこちらを知らないのだから、顔を隠したりすることもなく上り電車へ乗り込んだ。
地味な格好でよかった…
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辿り着いたその大きな家は最寄駅から近く、人通りも多かったので怪しまれずにここまで来ることができた。
ふ〜ん
やり場のない怒りがふつふつと湧いてきた。
私の家はあの1/5もない小さい家なのに、なんでこんな立派な家の奥さんがアキラくんを買うのだろう。
旦那の顔も見てやろう…
知らない土地の知らない家の、だいたいそこに住んでいるかどうかもわからないご主人様を待つなんて正気の沙汰ではないけれど、この衝動を止めることはできなかった。
◈
家の防犯カメラに映らないくらい離れたところで立っていたが、さすがに脚が疲れてきた。もう暗いし諦めようかな…と思っていたその時、見覚えのある男性が目の前を通り過ぎた。
あ!彩乃の!
ふ〜ん
私の中の悪魔が囁いた。
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※1 イケボ : イケメン又はイケてるボイスの略
(素敵な男性の素敵な声のこと)
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はじめて小説を一から書いてみました。
全六話です。
けそさんのイラストを使用させていただきました。
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