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さよならピエロ。

暖かいようで、そっけない。感じたことのあるような、無いような。少しだけ既視感を装って秋はやってきた。

空気の澄んだ輝くような朝が眩しくてうっとうしくなったのはいつからだろう。今年の夏は暑すぎたせいか紅葉になる前に駆け抜けたあの少女は今にも壊れそうなくらい脆くて、私はベッドの中で焦燥感を加速させる。

49kgを差した体重計、浅くなる呼吸、記憶を剥がすかのように聞こえる幻聴。織り姫と彦星が会える確率で目の焦点は合わさり、ベートーヴェン-月光ソナタ第3楽章を垂れ流しながら迫ってくる胸のざわざわ感を押さえながら浅い呼吸の後に真っ白な天井をなんとなく見上げた。

テレビを付けたらピエロが笑っていた。あのピエロはなんで平気な顔して懸命に笑ってるんだろう?ぼくには叫びたくて懸命に微笑んでいるようでしかたがなかった。なんで皆はそれを見て笑って楽しんでいる。無様で滑稽で皆を楽しませるエンターテイナーは魂を売った奴隷にも見えた。

ぼくは虚無感と共に黙ったまま席についてクロワッサンを頬張り無感情でコードを押さえてギターを弾いている。そう、毎日同じ構成で。構図で。毎日同じフォームで。綺麗なフォームでオナニーのように上下ストロークを繰り返す。
これはGコード、それはCコード、覚束ないバレエコード、、、GCDFGCDFGCDFGCDFGCDFGCDFGCDFGCDFGCDFGCDFGCDFGCDFGCDF
繰り返している内に自分が何をしているか分からなくなって崩れていくのが分かる。優しい人は壊される。

そうだ。ぼくも君もピエロだったんだ。またひとつと尊い命が透明な加害性によって殺されていくことについて何も思わないぼくは殺人犯のひとりだという気持ちにさせられる。ねえ。皆もそうなんでしょう。
嘘で狂わされたインフルエンサーが真実を受け止められないように今まで起きた全てを嘘や間違いだと教えて欲しい。ピエロは僕たちが日々感じている憎しみや妬みその他諸々の感情を君にかぶせて消化してるんだよね。
ひとたび人気が無くなれば使い捨ての雑巾に成り下がる。全部、全部狂っている。

水道から同じリズムで落ちる水の音の数を数えながらふと君を思い出した。
ぼくのこと、消えて泡になる最後の一滴まで私だけのことを考えていっぱいにしてよ。せめてそれからいなくなって。ピエロさん。

さよならピエロ。ぼくのピエロ。

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