工場の金属の音…って、なんだか聴いていてここちよい。以前から気になっていたASMRと、それにからめた工場の音の話です。

ASMRって、なに？

みなさんは、ASMR（エーエスエムアール、アスマー）を知っているだろうか？焚き火の音、葉擦れの音、スライムのぐにぐにした音、他人の咀嚼音まで…そんな音がなぜだかずっと聴いていたくなるということで、愛好している人の多い「音」たちだ。数年前から一般的にも認知度が高まってきた。

まったく聞いたことがないなら、この動画がわかりやすい

とは言いつつ、けっこう定義があいまいで、つかみどころのないコンテンツだなぁ…とも思う。

工場の音もASMRになる

2016年に工場音楽レーベル「 INDUSTRIAL JP 」の活動では、工場の音を使った楽曲を発表していたが、ついに工場の音そのものに迫る活動が始まった。サブレーベル「 INDUSTRIAL JP ASMR 」である。ナマの工場の音を真剣に録音、配信するレーベルだ。工場の機械の金属音は聴いていて心地よい。例えば、こんな感じ。

ゴゴン…ゴゴゴゴン…

カツンカツーン

ゴゴゴ…ゴワンゴワン

音を採取する制作チームの、録音、マスタリングにおける職人技と、フェチズムは本当にすごい。自分は、視覚に関わる表現が専門なので、このプロジェクトでは補助的な立場で関わらせてもらった（結局なにもせず、ほぼできあがるのを見てるだけだった）。

全国の工場から音を集める

工場ではいろいろな音が鳴っている。カツンカツーンという音や、シャリシャリした音、ゴロゴロゴロゴロ…という音。製造過程やできあがった製品が違えば、音も違う。それぞれに特徴がある。

チキーンチキーンチキーン
プレスされた金属板がぶつかり合う音

カッチャチャチャッチャチャン
ばねを曲げる機械のアームが小刻みに動く音

ゴーーーーー…
大量のせっけんの液体がまざっていく音

料理する前の音が聴ける

工場音楽レーベルであるINDUSTRIAL JPから配信される楽曲は、工場で鳴っている音を混ぜて楽曲を作ってもらっている。楽曲にするためには、バスドラムなどの音を使いながら4つ打ちのリズムへと加工したり、楽器の音を混ぜてメロディを加えたりして完成する。

一方、ASMRのプロジェクトでは無加工のナマの工場の音が主役だ。工場音楽レーベルで配信している楽曲が焼き魚なら、ASMRは寿司ネタそのもの。ネタとなるそのままの音をこだわって採取するなら、録音方法が大事、ということで、音に精通したメンバーが現場で録音している。（自分は全く専門ではないのでお留守番）新鮮なネタをそのまま生捕りにする職人たちだ。じっくり調理した楽曲も最高だけど、ネタをそのままASMRとして楽しむのもまたよい。

音の視覚化が、ここちよい

お寿司のシャリ（つまり引き立て役）に徹する部分は、音に連動して動く奇妙な物体。主役である工場音の感覚を視覚的に増幅するようなかたち、動き、質感…が追求されている。金属なのに、グニャリ。音に反応して金属らしからぬ動きをする不思議な物体。フェチズム全開の機械音が耳から入ると同時に、この映像が視覚的に入ってきて脳内で電気信号としてミックスされれば、得も言われぬ快感が生まれるはず。

ぐにゃり

物体のデザインとモデリングがすばらしい（ここでもまた自分は何もしていない）。音に反応して動くようにプログラミングされているそうだ。

集めた音がならぶ

ASMRのウェブサイトには、YouTube動画がそのまま小さく並んでいる。このページでは、気に入った工場を繰り返し無限に再生することができる。好きな音を選んで好きなときに楽しむことができる。全国各地の工場で機械音を集め、コレクションされていくのは、鉱物を標本のよう。

INDUSTRIAL JP ASMR Website
好きな工場音を選んで聴き続けることができる

YouTube 再生リスト
ひとつひとつ順番に工場音を楽しむことができる

仕事も遠隔が普通になってしまった今、自宅の作業環境もたまには変化させてみたい。そんなときに、おうちでの作業のBGMにASMR、けっこうおすすめ。家に工場音が鳴っている状態なんて、おとなりが町工場みたいな状態にになるのでは…？いえ、大丈夫。ヘッドフォンを使って高音質で聴けば、いつのまにかすっかり集中してるはず！

その（2）に続きます