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この本が図書館で借りられますように

『本当の貧困の話をしよう 未来を変える方程式』 石井光太
読了レビューです。

文字数:約1,300文字
ネタバレ:一部あり


 これから日本は少子高齢化がさらに進み、人口が減少していくことが確実とされている。

 政府は少子化対策をしているように見えるけれど、私にはそもそも「対策」と称しているのが疑問だ。

 子供が増えない理由は本書にある貧困も無関係ではないし、価値観の変化や教育費の増大など、複合的な要因が絡んでいる。

 将来に希望を持てない10代が「死にたい」とSNSでつぶやいたら、それに悪い大人が寄ってくる社会もまた、要員の1つに違いない。

 死にたいと願う理由も複数あれど、両親の不和のちに離婚、1人親への偏見、虐待、家出などといったすべてに貧困は関わっている。

 本書は渦中の10代向けに書かれたもので、叶うなら私のような斜陽の人ではなく、未来ある中高生あたりに読んで欲しい。

 ◇

 本書の副題にある「未来を変える方程式」には、残念ながら本人だけの努力では足りないことを示しており、周囲からのサポートが必須とされている。

 それを「運の良い人しか救われない」とするのは早計で、そもそも世界の仕組みが運任せなのだと思う。

 著者は冒頭で次のように書いている。

 17歳である君たちの多くは、親に養ってもらいながら生活をしているはずだ。裕福な家に住んでいるのか、そうでないのかは、たまたま君がその家に生まれたという「運」でしかない。

 その運によって、君は親に学費を払ってもらって大学へ行くか、進学をあきらめて仕事をするか、道が分かれることになる。

はじめに 17歳の君たちへ 1頁

 こうしてnoteにレビューを書く、あるいは読むためにPCやスマートフォンといった電子機器が必要だ。

 そうしたものを持っていない10代は少ないかもしれないけれど、もしも本書に興味を持った場合、書籍であれば図書館で借りることもできる。

 本書の価格、税込1,650円は人により高い安いが変わる。ただ、すくなくとも気軽に出せる金額ではないと思う。

 仮に図書館がなければ本書を手に取れる機会は失われ、何かしらの糸口を掴めたかもしれない誰かは、そのまま沈んでいくかもしれない。

 そうしたものも周囲からのサポートと同じく、心を蝕み、再生産されていく貧困を取り除くことができるかもしれない。

 ◇

 本書の中で特筆すべき、というかキツい部分として、貧困に陥った10代の男女がどのようになるかを示した部分だ。

 端的に書いてしまうなら、男が暴力によって脱しようとする中で、女は食い物にされる場合が多いとしている。

 私は以前、家に帰りたくないと話す女性と出会った。

 帰りたくない理由はともかく、そうした女性が善意の人に会うとは限らない。

 また、川崎で起きた中1男子生徒殺害事件について書かれた部分には、近隣地区に住む人間として、溜め息をつくしかなかった。

 そうした国内の話以外にも、外国のストリートチルドレンについて取り上げていたりして、読み終えたときには世界がすこし嫌いになっているかもしれない。

 でも、どうか気にしないで欲しい。

 たいがいの人は好き嫌い両方の感情を持っているから、あなたはきっと1人じゃない。

 目を背け、耳をふさぎ、口を閉ざす人がいるのは、ここに書いておかねばならないけれど。



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