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「華やかな舞台に立つより、僕は黙々と手を動かしたい」〜キャンドル作家・”lifart..”西牧と歩く松本〜

  野外音楽フェスなのに、「街」に近いフェス、りんご音楽祭。りんごをきっかけに松本を訪れる人たちに、松本の街をもっともっと楽しんでもらうための本連載「りんごよりみち」。松本在住のりんご音楽祭出演アーティストと一緒に街を歩きます。

  第三回のゲストは、松本出身のキャンドル作家、”handmade candle lifart…”の西牧隆行さん。一度上京し、2006年に松本に返ってきた西牧さんは、2008年から作家活動をはじめ、りんご音楽祭初期の頃からステージ装飾やキャンドルのブースで出演しています。

  現在は松本市内でセレクト雑貨のお店「TOCA by lifart…」と文房具店「ink stain」も営んでいる西牧さん。まずはご自身のお店から案内してもらいました。

1.西牧さんの拠点、キャンドルとセレクト雑貨のお店「TOCA by lifart...」

西牧さん 僕はキャンドルを作っていますが、セレクトアイテムが並ぶ中に自分のキャンドルが並ぶ雑貨屋を持ちたいと考えて「TOCA by lifart」を始めました。今年でオープン10周年になります。

ーー松本発の商品も扱っているんですか?

西牧さん はい。でも、松本のものを扱おうというよりは、面白いものを見つけてきたら、たまたま松本の作家さんやメーカーのものだった、という感じですね。松本はハンドクラフトを扱うお店が揃っているので、ハンドクラフトにこだわるのは僕の領分ではないなと思っています。

ーーどういう基準で商品をセレクトしているんですか?

西牧さん 「コンセプトがない」ように見えることを意識しています。自分がハンドメイドでキャンドルを作っている分、手作りに限定してしまうとつまらないなと思って。日本のもの、海外のもの、量産品に、一点もののクラフト作品、スタンダードなもの、ふざけたもの……、全部ありますね。なにか一つでも「これだ!」というおもしろいポイントがあるものを選んでいます。

ーー店内を見ていると、宝探し感があります。

西牧さん 有名すぎるものは避けるようにしています。それを目当てにお客さんが集まるような商品を扱うより、「ここにくれば面白いものがある」って思ってもらいたいんです。

ーーなんだか、りんご音楽祭のブッキングの仕方と似ていますね。

西牧さん たしかに。りんご音楽祭に出ているアーティストもそうだよね。主催のsleeperと、考え方が似ているかもしれないなぁ。既に人気の商品を目当てにお客さんが集まるより、うちで扱っているものが徐々に人気になっていくみたいな流れの方が僕はうれしいんです。

2.螺旋階段に惚れた!セレクト文房具のお店「ink stain」

西牧さん 二号店の「ink stain」は2020年にオープンしました。一階が文房具屋さん、二階がギャラリーになっていて、定期的にポップアップの展示会を開催しています。

ーー螺旋階段、インパクトがありますね。

西牧さん そうそう。この物件が貸しに出されるという話を聞いて、不動産情報をチェックしてみたら、ど真ん中に螺旋階段があったんですよ。「面白い!この物件、借りたい!」と思って、何の店にするか決めないまままず契約しちゃった(笑) それから、「TOCA」で扱っている商品の中から何かを別店舗に切り離そうと、文房具屋さんに決めました。

西牧さんのパートナーである、イラストレーターの風穂さんのポストカード。風穂さんは、りんご音楽祭2023のイラストも担当しています。

ーーこのあたりは学校が多いんですか?

西牧さん そうなんです。通学路になっているから、中高生がよく来てくれます。「TOCA」とはまた客層が違って面白いですね。最近だと、中学生男子が結構いい値段のペンを買っていってくれたりするんですよ。おもしろい消しゴムなんかも売ってるんだけど、「この品番のペンありますか?」って数千円するペンを買ってくんですよ。

ーー松本の男子中学生、洒落てる……!学校の近くにこんなおしゃれな文房具屋さんがあったら楽しいだろうな。

3.ヨーロッパのユニークな洋菓子を再発見「Chez Momo」

西牧さん 「Chez Momo」は「TOCA」からすぐ近くなのもあって、おやつを買いによく来るんです。ここは、普通のお店では見かけない焼き菓子を扱ってるんですよ。

ーーコンゴレ、ミルリトン……?どれも聞いたことがないお菓子です。でもおいしそう!

Chez Momo 蒔田さん うちは、ヨーロッパを中心とした地域の伝統的な焼き菓子を掘り下げているんです。たとえば、「ミルリトン」はフランス・ノルマンディー地方のお菓子。アーモンドクリームとジャムをパイ生地で包んで焼いてあります。埋もれているおいしいお菓子って、案外たくさんあるんです。

ーーどういう経緯で松本でお店を持つことになったんですか?

Chez Momo 蒔田さん 松本は地元なんです。一度上京し、焼き菓子の勉強をしながら働いてお金を貯めて、フランスにワーキングホリデーに行ってさらに現地の焼き菓子を掘り下げました。松本に帰ってきて、自分のお店を持ちたいなと思っていた頃に、母がこの建物の二階で洋裁屋を始めたので、僕が一階でお店をやることに。

ーーここは観光エリアの縄手からも近いですが、どういうお客さんがきますか?

Chez Momo 蒔田さん 観光エリアの縄手がすぐそこだから、よく来ますね。でも、うちに来るお客さんはごちゃごちゃ!ありとあらゆる人が来ます。女鳥羽川沿いだから、西牧さんみたいに散歩がてら来る地元の人もいるし、地元を離れた人が、帰省のタイミングで毎回立ち寄ってくれることもありますね。

西牧さん ここは、僕が「TOCA」を始めるきっかけになったお店なんです。松本に帰ってきた頃からよく通っていて。「自分のお店を持とうかと考えている」って話をしたら「あの建物、もうすぐ空くみたいだよ」と教えてくれたんですよ。

Chez Momo 蒔田さん 今はもう喫茶営業はしていないんだけど、西牧くんは「TOCA」がオープンする前からよくコーヒーを飲みにきてくれていたよね。またいつでも遊びにおいで!

4.松本の街を見渡せる穴場展望スポット「松本イオンの三階・アルプテラス」

西牧さん 次に紹介したい場所、松本イオンの3階なんだけどいいかな?

ーーセレクト雑貨屋を経営されている方のお気に入りの場所がイオンなのは、ちょっと意外です。よく来るんですか?

西牧さん 僕は子供がいるから、子供を連れてきやすいっていうのもあるけど……、ショッピングモールみたいな何でもないところが好きなんですよね。自分がお店をしているのもあって、いわゆるおしゃれなお店だと「これどこで仕入れてきたのかな?」とか気になっちゃって素直に商品を見られないんですよ。

ーーなるほど、イオンなら気を張らずにいられるんですね。

西牧さん そうそう。それに、このイオンはドトールの隣にテラスがあってね。コーヒーを買って、景色を見ながらぼーっとするのが好きなんです。

ーーイオンなのに、市街地が一望できるんですね!

西牧さん アルプス山脈があって、松本城があって、うちの店も見渡せる。でも目の前には墓場もあるっていう。「絶好の眺め!」までいかない感じがいいですよね。隣にあるのがスタバじゃなくてドトールっていうのもいい。僕、スタバだと、頼む時ドキドキしちゃうんです。高校生くらいからずっとドトール派だなぁ。

ーー高校時代の西牧さんは、どんなタイプだったんですか?

西牧さん 当時から洋服とか雑貨が好きだったから、街の服屋で知り合った友達はいたんだけど、学校では部活をしていなかったからあんまり友達ができなくて。学校って、みんな部活単位で行動したりお昼食べたりするでしょう? 僕は別に一人でもよかったんだけど、「あいつ一人で弁当食ってるのかわいそう」って気を使った子に「一緒に食べようよ」って言われるのがいやで、一人で体育館裏に行ってお弁当を食べていました。

ーーここは、当時の体育館裏みたいに落ち着ける場所なんですね。

西牧さん りんご音楽祭に関わってる人たちって、案外僕みたいなタイプが多い気がします。フェスやってる人たちって、陽キャの集まりだと思われがちなんだけど、中高生の頃に一人で黙々と何か作ってたり、クラスメートとは話せないけど頭の中ではいろいろ考えてたり、体育館裏にいたような人たちが、寄せ集まってみんなでりんご音楽祭を作ってるのかもしれないなぁ。

5.夏の味、レモンコーヒーが絶品!「High-Five COFFEE STAND」

西牧さん 「High-Five COFFEE STAND」は「ink stain」の向かいにあるからよく来るんだけど、お店をオープンする前からずっと通っています。街中のスタンプラリーとか、イベント出店で一緒になることが多くて仲良くなって。コーヒー屋さんなんだけど、自作のルアーも売ってるんですよ。

High-Five COFFEE STANDの店主さん うちはオープンして7年目で、松本、旭、辰野に店舗があります。オリジナルグッズもいろいろ作ってますが、ルアーは自分の趣味ですね。僕、釣りが好きなんですよ。

ーー松本では業種は違えどお店同士仲がいいことが多いんでしょうか。街中のイベントが活発だから?

西牧さん 仲の良さはすごく感じます。僕は自分のお店を持ってもう10年になりますが、「あの店はライバル」みたいなお店が一軒もないんですよ。お店としての先輩後輩はもちろんあるけど、上下関係って感じもない。業種問わず、イベント出店を通して仲良くなったお店はかなり多いなぁ。

High-Five COFFEE STANDの店主さん 今日は何を飲んできます?

西牧さん 僕のおすすめはレモンコーヒー!この時期はずっとこれですね。

ーーじゃあ私もレモンコーヒーを。西牧さん、「Chez Momo」でもコーヒーのお話してましたし、イオンの3階でもコーヒーだし、コーヒーがお好きなんですね。

西牧さん 好きです。自分でこだわって淹れる、とかはまったくしないんだけど、松本はおいしいコーヒー屋さんがたくさんあるからよく飲みに出かけてます。テイクアウトして散歩することもあるし、店主としゃべってくこともあるし。

りんご音楽祭では、ハンドメイドのキャンドル作家”handmade candle lifart…”としてキャンドルのブースを出している西牧さん。作家活動の経歴や、りんご音楽祭・松本の街との関わり方を聞きました。

りんご音楽祭は半分仕事で半分遊び。知る人ぞ知るキャンドルブース

2022年の”handmade candle lifart…”のブース。

ーー西牧さんは、りんご音楽祭初期の頃からアーティスト枠で参加されていますよね。

西牧さん りんご音楽祭一年目の時は、普通にお客さんとして行ったんです。「松本でこんなの始まったんだ、全然お客さんいないけど大丈夫か?」って思いましたね(笑)。二年目に主催のsleeperと知り合って、「舞台装飾で参加してくれないか」って頼まれて、そこからはほぼずっと毎年参加しています。

ーーてっきり、キャンドルの販売をしていると思っていたのですが、出演者の枠なんですよね。

西牧さん そうそう。最初の頃は、りんごステージやそばステージの装飾をしていたんだけど、だんだん会場の奥でひっそり展示をするスタイルに落ち着きました。来場者の100分の1くらいの人しかみていないだろうに、sleeperは毎年呼んでくれて、あのブースをどーんと置いてくれる。あれが彼の心意気ですね。

ーーキャンドルや「TOCA」の雑貨の販売をしようとは思わないんですか?

西牧さん それは仕事っぽくなるからいやなんです。りんごは、半分仕事で半分遊びみたいな気持ちですね。りんごは、キャンドルを作り始めたばかりの頃からずっと出演しているので、一年に一度、好きなことをバーンと発散するお祭りみたいな感覚です。自分の中の一つの節目ですね。りんごがきっかけでイベント装飾の仕事は増えたけど、最近はかなり減らしていて。

「東京の街が面白いだけで、僕自身が面白いんじゃない」リセットするために松本へ帰ってきた

ーー西牧さんがキャンドル作家になった経緯も知りたいです。もともと松本で活動したいという気持ちはあったんですか?

西牧さん 戻って来る気は全然なかったです。高校卒業後にファッションの専門学校に入って、卒業後は東京でずっとフリーターをしていました。上京当時は夢があったはずなんだけど、7年くらいフラフラしていたら自分が何をしたいのかわからなくなっちゃって。そのタイミングで、姉に子供が生まれたから顔を見に一回松本に戻ってきたんですが、松本から東京に帰る電車の窓から新宿のビル街を見て、「違う!」って思って帰ってきました。

ーー「違う」というのは、どういう気持ちだったんですか?

西牧さん 「今、東京にいるのは違う」って漠然と思ったんです。やりたいことがあるならまだしも、このまま東京でだらだらしていたらただのプータローになってしまう。当時は、ただ生きるためにバイトをする毎日でした。それでも、東京にいれば日々刺激があるから、楽しいし満たされている気がしていたけれど、街が面白いだけで僕がおもしろいんじゃないじゃんって気づいて。何のあてもなかったけれど、一度リセットしようと松本に帰ってきました。

ーー帰ってきてからは何をしていたんですか?

西牧さん 当時は何したらいいかわからなくて、しばらく親の脛をかじって生きていましたね……。このままじゃまずいと考えすぎて頭が変になり、なぜか「自分で何か作らなきゃ!!」と思ったんです。当時僕は25歳で、そこから誰かに弟子入りして修行する余裕はなかった。すぐに始められて、かつ自分が作りたいのは何だろうって思いついたのが、スノードーム、万華鏡、キャンドルだったんです。

知り合いのお店から、さらにその先へ。評判が評判を呼び”handmade candle lifart…”のキャンドルは全国へ

ーーなんともいえないラインナップ……!

西牧さん (笑)。それぞれの作り方を調べてみたら、万華鏡は数学の知識がいるから無理、スノードームは材料をどこで手に入れたらいいかわからなかった。でも、キャンドルはキャンドルの材料屋さんが長野県内にあったんです。よし、キャンドルだ!って。もちろん、いきなりキャンドルでは食えなかったから、松本市内でアパレルの仕事をしつつ、ちょっとずつキャンドルを置いてくれるお店を探していきました。

ーーまず作り始めて、徐々に取引先を増やしたんですね。

西牧さん ありがたいことに、自分から特別営業をかけることはしないまま、顔見知りの古着屋さんや洋服屋さんに取り扱ってもらったところから、だんだん長野の新聞やメディアに取り上げられる機会が増えて、置いてくれるお店が増えていったんです。運良く、有名なスタイリストさんが雑誌で紹介してくれて、そこから一気に”lifart..”は全国に広がりました。

ーー副業的にキャンドル作りをしていたところから、本業にしたのはその頃ですか?

西牧さん そうですね。キャンドル一本では食えないけど、副業でするにはちょうどいいくらいだったんですが、働いていたお店が松本から撤退することになって。頑張って本業にするか、また別の仕事を探すか選ばなきゃいけなくなったんです。

華やかな舞台で人から注目されるより、今は黙々と手を動かしていいものを作り続けたい

ーーそこから実店舗の「TOCA」を持つことにしたのはどうしてですか?

西牧さん 当時は実家の一部を工房にしていたんですが、ほぼ家から出ない生活をしていて。取引先も県外が多かったし、発注のやりとりもメールで終わるから、ひたすらキャンドルを作って、たまに資材を買いに行って、発送のためにヤマトにいく。ヤマトのおばちゃんとしかしゃべらないような日々の中で、「この暮らしはなんなんだ?」と思ってしまって。どんな人が僕のキャンドルを買っていってくれるのか、自分の目で見てみたくなったんです。

ーー今でこそ、街のいろんなお店の人と立ち話をしているけど、当時はこもりきりだったんですね。お店を持ってから、松本の街との関わり方は変わりましたか?

西牧さん 変わりました。キャンドルだけ作っていた頃は、街との関係が希薄でした。今は街の人に「TOCAの人」として認識されています。でも、僕が店の顔として直接キャンドルを売りたいというわけでもないんですよ。自分は、「作る側」でいいなと思っていて。僕がお店に立って、お客さんと仲がいいから売れるのではなくて、シンプルに物がいいから選んでほしいです。

ーー先ほど、りんご音楽祭以外のイベント装飾の仕事は減らしているとお話していましたね。改めて、今の作家活動に対する想いを教えてください。

西牧さん お店の運営以外は、自分の工房でキャンドルを作って、全国に出荷するのがメインの仕事なんですが、自分は意外とそっちの方がやりがいがあったんです。華やかな舞台で人から注目されるより、黙々と手を動かしている方が楽しい。今は、それがずっと続けられたらいいなと思っています。

ーー西牧さん、今日はありがとうございました。また松本の街で会いましょう!

西牧さんのおすすめスポット
・TOCA by lifart..
・ink stain
・Chez Momo
・松本イオン3F Alp teracce
・High-five COFFEE STAND 
▽「りんごよりみち」オススメマップはこちら!https://goo.gl/maps/9mZRSz8qCBxFL9SHA

取材・執筆:風音
撮影:Naka Hashimoto

「TOCA」のWEBサイト:


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