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【番外編:わたしたちの「りんご音楽祭」vol.2】

「りんご音楽祭」は、スタッフ、アーティスト、そしてあなた、みんなで作る「祭り」です。参加者それぞれの視点から、「りんご音楽祭」について語ってもらいます。

「今週末、名古屋のハコでやってるライブをランダムに観に行こうよ」

・・・

付き合いだして何回めかのデートで、唐突に「今週末に名古屋のハコでやってるライブのチケット、ランダムに買って観に行こうよ」って誘われたの。名古屋には学生の時から住んでてね、ライブハウスがいくつかあるのは知ってたけど、どこにも行ったことがなかった。そもそも、知らないバンドのライブ行くってなに? って思ったけど、私じゃそんな遊び方思いつかないし、面白いかもと思ってオッケーした。候補がいくつか送られてきたんだけど、どれがいいのかさっぱりだったから彼に任せた。

見よう見まねでコートとマフラー、荷物をロッカーに預けて会場に入ったら、ステージが思ったより近くて! こんな至近距離で聴けるんだってびっくりした。ドリンクチケットが貰えたから、私はビールにしたんだけど、なんかそわそわしちゃってちびちび飲んだよ。彼は瓶のスミノフ飲んでたな。

ステージの近くではファンらしき人がわいわいしていて、一曲も聴いたことがないのにここにいてもいいのかなぁってちょっと肩身が狭い気がしたよ。でも、バンドがステージに上がって一曲めを演奏し初めた途端、居心地の悪さは吹き飛んだ! 自然と、曲にのって体が動くんだよね。周りの真似をして、腕をあげたり声をだしてみたら、「なんだこれ!楽しい!!」って。会場の空気がアツくなってくのが、肌でわかるの。空気がずっときらきらしてた。誘ってくれた彼を見上げたら、ほんとうに楽しそうな顔をしてたのを覚えてる。ライブ終わり、なんか気持ちがふわふわしてて、明日からまた仕事だなんて信じたくなかったなぁ。

それからすぐにコロナが流行りだして、ああいう街の遊び方はなかなかできなくなっちゃったね。あの時の彼とは別れたし、長野に引っ越してきて、当時と全然違う生活を送ってるよ。あれから、もう2年半も経ってるんだよね。あの夜、名古屋のハコで、飲んで、歌って、踊ったのもすっかり忘れてた。

でもね、この間、タイムラインに流れてきたりんご音楽祭のアーティスト発表を流し見ていたら、見覚えのある名前で目が止まったのTHREE1989。あの時、ライブに行ったバンドなんだ。今年のりんご音楽祭に出るんだよね。

うわ、どんな曲だっけ!懐かしい!と思って、ライブで聴いた曲をまた聴いてみたんだ。そしたら、イントロだけで、ぶわわっとあの日の空気が蘇ってきたの。ステージの紫がかったライト、ファンの人たちの熱気、ボーカルの人の額に汗がうかんでた。途中でアーティストたちがステージに降りてきて、観客とハイタッチをして周りはじめて驚いた。ぬるくなったビールの味。彼と繋いでいた手を離して、踊ってみたこと……。

私、フェス行ったことないんだけどさ、一人で行ってみようかなって思ってる。あの空気、もっかい味わってみたくなって。りんごって、結構一人で来る人多いんでしょう? あの頃の私は、毎日退屈してて、誰かにどこか遠くへ連れ出して欲しかったんだ。私を連れ出してくれた彼はもういないけど、今の私なら一人でも楽しいと思うの!


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