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「細胞レベルで身体が喜ぶ街」りんご音楽祭初期から出演するヴィーナス・カワムラユキにかけられた「松本マジック」とは?【ココが変だよ!りんご音楽祭 vol.13】

長野県松本市で毎年開催される音楽フェス、「りんご音楽祭」。15年目となる今年は9月23日−24日に開催決定!

主催者のdj sleeperを中心に、運営メンバーや、出演者へのインタビューなどを通じて、りんご音楽祭について紐解いていくpodcast「ココが変だよ!りんご音楽祭」。お相手を務めるのは、2001年生まれのフェス初心者、長崎航平。根掘り葉掘り、りんごの魅力を探ります。

第十三回のゲストは、りんご音楽祭初期からりんご音楽祭に出演しており、主催者・dj sleeperの長年の友人であるヴィーナス・カワムラユキさん。手作り感溢れる初期のりんご音楽祭で受けた衝撃、お互い影響を与え合うsleeperさんとの友人関係、松本でのリフレッシュの仕方に、りんご音楽祭のおすすめポイントをじっくり聞きました。

「おもしろいフェスがある」友人・七尾旅人さんの紹介で、突然りんご音楽祭に出演が決定

長崎 今回は、松本市の瓦RECORDからお送りしています。早速、ゲストの方に自己紹介をお願いしたいと思います。
ヴィーナスさん どうも、ヴィーナス・カワムラユキでございます。渋谷の道玄坂で、「しぶや花魁」というウォームアップ・バーを運営しています。

長崎 ウォームアップ・バーというのは?

ヴィーナスさん クラブに行くと、音が大きかったり、音楽に夢中になってしまったりして喋れないじゃないですか。だから、クラブに行く前に集まっていろんな話をしたり、「今夜どこに行く?」みたいなウォームアップをする場所です。それから、昔はクラブで遊んでいたけれど、もうクラブに行くには体力的にきついから、クラブっぽい雰囲気でお酒を飲みたい人が来られる場所。そんな人たちが来れるような場所が渋谷に欲しくて、13年前に自分のお店を作りました。

長崎 ヴィーナスさんご自身も、DJをされていますよね?

ヴィーナスさん 私自身は、2000年ぐらいからDJをしたり、イベントのプロデュースをしたり、楽曲制作をしたりしていますね。舞台の裏と表を行き来する、表方のような裏方のような、そんな立場です。

長崎 普段は東京を拠点に活動されているヴィーナスさんが今回松本にきたのは、この収録の前日にりんご音楽祭主催のdj sleeperさんの40歳のバースデーパーティーが松本で開催されていたからということで。ヴィーナスさんはゲストDJとして出演されていましたね。sleeperさんとの付き合いは長いんですか?

ヴィーナスさん そうね、本当に公私ともに付き合いの長い友人です。最初に知り合ったのは、おなじく20年来の友人である、アーティストの七尾旅人がきっかけですね。まず、sleeperくんって、自分でアーティストのライブを生で観て、感銘を受けない限りは自分のパーティやりんごには絶対にブッキングしないらしいんです。

長崎 たしかに、その話は本人からもよく聞きますね。

ヴィーナスさん でも、私の場合は、七尾旅人と電話していた時に「最近松本の街がすごくいい。食べ物も美味しいし空気もきれいだし、音楽シーンも活発だ」という話を聞いて。「りんご音楽祭っていうおもしろいフェスがあるから、今度一緒に行かないか」って言われたんですよ。「そうなんだ、長野なら東京からも近いしね」なんて喋っていたら、旅人が「ちょっと待って」って電話を切ったんです。そうしたら、10分後ぐらいにもう1回電話がかかってきて、「今年のりんご、ヴィーナスのことブッキングしたから」って言われたんです。

長崎 えっ、そんなことあるんですか。

ヴィーナスさん そうなの、旅人がsleeperくんに直談判して、私をりんごに連れて行こうってことになったんです。その段階では、sleeperくんと私は会ったこともないし、彼は私のパフォーマンスを観たこともなかったんですよ。それなのに、まずブッキングが決まっちゃった。これは結構異例なことらしくて。そのまま当日を迎えたんです。2010年くらいの話ですね。

ホームパーティーの延長だった、「とりあえずやっちゃお!」感溢れる初期のりんご音楽祭

2022年度のりんご音楽祭でパフォーマンスをするdj sleeper。

長崎 りんご初出演の印象はいかがでしたか?

ヴィーナスさん 今のりんごって、とっても立派なステージがちゃんと整備されていて、段取りもしっかり成立していると思うんですけど、当時は、本当に……、なんて表現すればいいんだろう(笑)。持ち寄りのホームパーティーの延長みたいなものを、アルプス公園でしているみたいな感じだったんです。当時、他の音楽イベントでは、最新型のスピーカーやDJブースを準備するのがのが当たり前みたいな風潮だったんですよ。でも、初期のりんごは、見たことがないような2チャンネルだけのミキサーと、時々調子が悪くなるDJ機材しかなくて。

長崎 ここ数年のりんごからは想像がつかないですね……。

ヴィーナスさん しかも、私の出番になるころには片方のスピーカーが飛んでしまっていて、音が鳴らなかったんですよ。私はそれにすごく面食らいまして、私の中で、その年のりんごが2010年代の幕開けでした。とにかくギャルマインドで「とりあえずやっちゃお!」みたいなフェスだったんですよ。私は1990年代ごろからDJとして活動を始めて、2000年代には音楽のお仕事をしてきたんですが、当時はいろんなお膳立てがあった時期だったと思うんです。DIYで音楽をやっている人っていうのは本当に珍しかった。びっくりしましたね。

長崎 それはいい意味でですか?

ヴィーナスさん いい意味じゃないよ(笑)。でも、お客さんの熱量がすごく高かったの。やっぱり東京とかだと、クラブではかっこつけて雰囲気を含めて遊んでいる人の方が多かったと思うんだけど、りんごは100%音楽とパーティを楽しみに来た人しかいなくて、スピーカーが片方飛んでいても何も関係なく盛り上がってるんだよね。これをさらに盛り上げるか、維持するか。ここから下げたら自分も終わりだなと思って、全神経を使ってパフォーマンスをしましたね。旅人も応援に来てサイドMCをしてくれて、結果最高のDJができたんですが……。それがはじめてのりんごでした。

長崎 おぉ、それはアツい展開……!

ヴィーナスさん 基本的に、当時普通に感じていた「パーティーのインフラ」みたいなものが、皆無だったんですよ。例えば、友達が機材を持ってきて、音を出しました、みたいなステージがいくつかあった。「とりあえずやってます!」って感じ。途上国に旅行に来たみたいな感じだね。だんだんインフラが整って、完成したのが最近のりんご。ここ数年で参加するようになったアーティストは、あの時代を知らないからある意味ラッキーだと思いますよ。

りんご音楽祭には、東京では会えない各地のDJやアーティストが集まってくる

長崎 ヴィーナスさんは、東京をはじめ国内外のイベントに出演されているとは思うんですが、他のフェスと比べたりんごの特徴はどういうところにあると感じますか?

ヴィーナスさん 東京で会えない友達に会えるフェスですね。沖縄や東北、名古屋なんかに行くと、東京には絶対来ない友達がいるんですよ。そういう友達たちに、りんごだと会える。日本中のローカルの現場が、りんごで繋がっている感じ。なんていうか、地元のお祭りみたいな感じがするね。東京という街は、ものすごく整理整頓されていて、無駄がないんだよね。余剰を受け入れるようなムードがあんまり感じられないから、そこにちょっと居心地の悪さを感じているのか、東京には来ない素晴らしいDJやアーティストが結構いる。そういう人たちが、りんごには集まってくるんですよ。

長崎 ヴィーナスさん的に、これだけは押さえておけ!ってアーティストはいますか?

ヴィーナスさん DJの花形ハヤシはやばいですよ!長野以外のどこでも見れないんですけど、とにかくすごいので、ぜひ彼のパフォーマンスを観てみてください。アーティストの他にも、いろんな面白いお店が出店しているので、そこで友達を作ると楽しいと思います。沖縄から出店している人と仲良くなって、それがきっかけで沖縄に遊びに行くとかね。もちろん、フェスに来てただ音楽を聴くっていう楽しみ方もあるけど、友達を作ったりとか、そういうコミュニティを広げたりするきっかけにりんごを使うっていう楽しみ方もありなんじゃないかな。

長崎 逆に、りんごはここがいまいちだなとか、もっと何か変えたら面白そうなのにと思う部分はありますか?

ヴィーナスさん りんごは、いまいちなことだらけだと思うよ(笑)。でも、いまいちなのが癖になる。どうしても、東京のハコだと、システマティックできっちりかっちりしていることが多いから、悪く言えばルーズ、よく言えばマイペースなのがほっこりしていて魅力になるのかな。

長崎 いまいちなところすら魅力に感じられると。

ヴィーナスさん それから、sleeperくんのコミュ力というか、交渉能力が自分の常識から大きく外れていて、それにいつもびっくりさせられますね。

長崎 例えばどういう点ですか?

ヴィーナスさん 要は、出演者と友人関係を築いていくんですよね。だから、何でも言える関係になっていく。単に、ブッキングする人と出演者っていう関係性以上だから、良くも悪くも甘えが出てくる。例えば、ある年は、「会場までどうやって行ったらいいかな?」ってsleeperくんに言ったら、そのときすごく仲の良かったDJが車を持ってて、その年のりんごも出るからって、「最近〇〇さんと仲いいでしょう。その人も出るから一緒に車に乗ってきて」とか言うんですよ!

長崎 (笑)。

ヴィーナスさん そういうのって、普通こっちから言い出すものじゃない?主催者側から言われるとは思わないよね。でも、そういうのを悪びれもなくできちゃう。でも、それはフェスを成功させることにのみに気を使っているから、空気の読み合いとか探り合いみたいな、そういう些細なことには気を使わないんだよね。

「誇りを持って遊びましょう」ーお互いに影響を与え合う、dj sleeperとの友人関係

ヴィーナスさん それから、コロナ中に発表された、「誇りを持って遊びましょう」っていうりんご音楽祭のポスターは私がディレクションをしたんですが、本当はあれを作ったのは2015年くらいなんです。

長崎 えっ、あのマスクをしているポスターですよね?

ヴィーナスさん そうそう。私のラジオで、いつも最後に「誇りを持って遊びましょう」って言い続けているんだけど、sleeperくんがその言葉をすごく気に入ってくれて、ポスターを作ってくださいっていう話になったんです。それであのポスターを提出したら、「ポップじゃない」って、制作費だけ支払われてボツにされたんですよ。

その時はすごくムカついたんですけど、それから数年が経ってコロナが流行りだして、「あのポスター、今っぽくない?」と思ってまたsleeperに連絡したんです。「誇りを持って遊びましょう」というメッセージも、時を経てさらに意味を持つものになってるんじゃない?って。sleeperも6年越しに気に入ってくれて、ついに発表されたんだよね。

長崎 主催者と出演者の枠組みを超えて、思想的な部分でも影響を受け合っているんですね。

ヴィーナスさん そうだね。彼は、自分や周りの人が持っている思想やメッセージを拡張して、パーティの中にスピリットを入れていく。逆に私も、彼と関わることで常識をぶっ壊されるというか、ルールが壊れていくこともありました。

私はもともと、極度の潔癖症だったんですよ。例えば、雑魚寝なんて絶対できなかったんです。それから、予定していない行動をとれなかった。旅に行くときは、事前に3泊4日分の洋服をきっちりパッキングして、スケジュール通りに行動するタイプ。でも、あるときsleeperくんに瓦REDORDにDJとして呼んでもらって、気がついたらそのまま5日間くらい寝泊まりしていたときがあったんです。

長崎 5日間も……!

ヴィーナスさん 当時、仕事がいっぱいいっぱいでめちゃくちゃ忙しくて、東京だと全然休まらなかったのに、瓦RECORDの二階ではなぜか深く眠れたんですよ。

長崎 なるほどなぁ。影響を与えあう、持ちつ持たれつみたいな関係なんですね。

ヴィーナスさん そうなんだけど、普通そういう関係になると馴れ合いになったり、阿吽の呼吸みたいになるじゃない? sleeperくんとは、それはないの。毎回、何かしらスリリングな出来事や、新しいお題みたいなことが勃発するから、緊張感のある関係を保ちつつ、でも安心できる部分もある。人間関係としては、ある意味理想的なのかもしれないね。

おいしい水と空気と食事。松本は、細胞レベルで身体が喜ぶ街

ヴィーナスさん sleeperくんとは食の趣味も合うしね! 最終的にsleeperくんを信用したポイントは、食の趣味なんですよ。

長崎 松本のお店も結構紹介されたんですか?

ヴィーナスさん sleeperくんの薦めてくれるお店は絶対に美味しい!まず、りんごにも出店してるエスニックカレー屋の「メーヤウ」。それから、タイ料理屋の「ほたる」でしょ、あとはお寿司屋さんの「三重鮨」も絶対に行きます。飲食店じゃないけど、「枇杷の湯」って温泉も最高で、いつもあのお湯が恋しくなるんです。

長崎 「メーヤウ」さんは、りんご音楽祭にも毎年出店されていますよね。

ヴィーナスさん そうそう!私のりんごでの「メーヤウ」の楽しみ方は、まず午前中に行って、ランチタイム前の煮詰まる前のカレーを一回食べるの。それから、小腹が空いたおやつ時に、ちょっと煮詰まった二回目のカレーを食べる!これがおすすめです!それから、お店の方に行くと焼き飯があるの。メーヤウといえばカレーなんだけど、焼き飯もスパイシーでおいしくて。皆さんぜひ、騙されたと思って一回食べてみてください。

長崎 すっかりメーヤウの大ファンですね!普段は東京にいるヴィーナスさんからみて、松本の街はどういうふうに見えますか?

ヴィーナスさん やっぱり、水と空気が綺麗で美味しいから、細胞レベルで身体が喜ぶ街ですね。だから、経済的なステータスとか知名度で計られがちな都市のムードとはちょっと違うエリアだと思います。東京でする深呼吸と、松本でする深呼吸は違うんです。吸い込む空気が綺麗だから、自分の中の怒りもちょっと緩和される。私含め、みんながsleeperくんに緩くなりがちなのは、もしかしたら松本マジックなのかも……。

一度は捨てかけた「ヴィーナス」の名をりんご音楽祭に預かってもらった

長崎 たしかに、最初にお話されていた、スピーカーが壊れていてもりんごのお客さんが楽しそうなのは、松本の空気や水で身体が元気になっているからかもしれないですね。他にも、まだ話していないりんごの裏話はありますか?

ヴィーナスさん 実は、私が「ヴィーナス・カワムラユキ」って名乗るのは、りんご音楽祭だけなんですよ。

長崎 えっ、それはどうしてですか?

ヴィーナスさん 「ヴィーナス」は、元々私のあだ名だったんです。昔、東京でクラブとかに行くと、みんな本名じゃなくて、ニックネームで呼び合っていて。私が19歳ぐらいのときに、クラブのトイレで見知らぬ欧米人の女性に「あなたはヴィーナスね!」って言われて、そのままその名前を使っていたんです。でも、「ヴィーナス」を「ビーナス」って書く人があまりにも多くて鬱陶しくなっちゃって。ある日、「もうヴィーナスは捨てて、カワムラユキに統一します」ってSNSに書いたら、sleeperくんからすぐに「捨てちゃだめだよ!その名前、俺が預かるよ!」って連絡がきたんです。

長崎 千と千尋みたいな話ですね……。

ヴィーナスさん だから、今でもりんご音楽祭のときだけ「ヴィーナス」がつくんです。でも、最近になって、もう1回名前を戻してもいいかなと思い始めてきて。「カワムラユキ」の時はチルアウト系の音楽をしているから、すごくダンサブルだとかアバンギャルドなときは、「ヴィーナス」ってつけてやろうかな、なんていうふうに思ったり。そういう風に思えたのも、あのときsleeperくんが名前を取っておいてくれたからかもしれないですね。大事なものだから、そんな些細なことで捨てちゃいけないって言ってくれたんですよ。

長崎 「名前を預かっておく」って、すごいことですね。関係性の深さというか、信頼関係が伺えます。

ヴィーナスさん 毎年、りんごが終わるたびに、「もうこれで最後」とか、「ちょっとsleeperくんとは距離を置こうかな」って思うんですよ。でも、結局トムとジェリーみたいなことをずっと繰り返していますね。どうしても、切っても切れない縁みたいな運命レベルななにかが巡ってきてしまっているんだと思う。だからもう、sleeperくんもりんごも、末永くよろしくお願いしますって感じ。皆さんも、今年はぜひりんごで会いましょうね!

長崎 ヴィーナスさん、今日はありがとうございました!




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