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よしさま

その夜、私は寝つけずにもう何十回目になるであろう寝返りを何度も繰り返していた。

頭の中にぐるぐる回る悩みは自分の体の異変のこと。もしかしたらこの先、病気で職を続けられなくなるかもしれないこと。

夜というのは良くない考えが大きく膨らんでしまう。

意識を手放したのは朝方だろうか。


近くで川の流れる音がする。
時間はおそらく昼過ぎ頃。季節は秋。
私は馬を走らせていた。

どうやら戦国の世にいる。

「よりによって、よし様か」
「こりゃ、だめだろうな」

そんな声が聞こえてくる味方の中を走り抜けて、その〝よし様〟のもとへ私は急いでいるらしい。

坂を駆け上がりある古い寺のような建物に着く。
護衛もなにも、味方の兵は誰もいない静まり方だった。

すると、ちょうどその建物から出てきた人物と目が合う。

その一瞬。ピリッとというかゾッとというかなにかものすごくおそろしいものを、不気味なものを目にしてしまった時のような感覚が自分の中で警報を鳴らす。

その人が〝よし様〟であることがその一瞬ですぐにわかる。そして味方が噂をしていたような人物ではないということも。

とても身なりが良いからではなく、纏っている雰囲気が並みではなかった。誰もが諦めているこの人物の命。それをきっと本人も知っているはずなのに、落ち着きというのか何か一点を見つめているような揺るぎのない精神が身から溢れている。

よし様は、私に声をかけるでもなくまた建物の中に戻っていく。ただ、横開きのドアをそのままにしていくのは来ても良いということだろう。

私もその古い建物の中へはいることにした。

私が駆けつけたことから何かを悟ったのか、部屋の中にいた女性は慌て怯える。よし様の奥様だろう。若く美しく、何より、死を目前にするとどうなるかを体現しているような様子だった。

その女性を連れて部屋に向かうよし様に私も続く。

「こうしていれば、お前も立派に戦ったということになるぞ」

よし様が女性に声をかける。

よし様と女性の入った部屋は、隠れ部屋などではなく建物の戸を入ってすぐのところにある、いわゆる敵に一番最初に見つかる場所だった。

その部屋には窓がある。それに背を向け正座をし背筋を伸ばしたよし様は、はじめて私に声をかけた。

「ただ流れのままに」

その言葉に私は震えていた。
今、自分の目の前にいる人は静かに死を見つめている。その様が悲しいほど美しかった。

「それが仏の教えでしょうか」

そう震えながら問う私に、よし様は静かに頷く。

もうあと少しで敵に殺されるこの人のことを伝えねばならない。その思いに駆られ、私はその部屋のたった一つの窓から飛び出した。

敵の馬の音がもう近くまで聞こえていた。

私はこの建物まで来た道を引き返し、林に身を潜める。敵が過ぎ去るのを待つために。

幾分もしないうちに、足音が近くに聞こえてきた。

「恐ろしかった」

そんな敵の声とともに。


目が覚めまだ夢現の状態で、ただ夢の記憶を残さなければならないと私は久しぶりにnoteを開いた。

あまりにもできすぎた夢。本当に実在し、会ったことのあるような強烈な印象を残しているよし様。誰も護衛をしないのにその人物に会いに走った〝私〟は、きっと無意識のうちに夢の中でも悩みからの解放を求めた。その答えがどこにあるのかわかっていながらに。

ただ流れのままに生きて死ぬのなら、目前の悩みではなくもう少し先を見てみる。

病などはどうしようもないこと。
どうしようもないことはどうしようもない。
それなら自分で変えられることについて考えを巡らせる方がよっぽど良い。

覚悟という美しさを私ももちたいものです。


2022.4.24.Rin

#振り返りnote #夢

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