最近の記事

よしさま

その夜、私は寝つけずにもう何十回目になるであろう寝返りを何度も繰り返していた。 頭の中にぐるぐる回る悩みは自分の体の異変のこと。もしかしたらこの先、病気で職を続けられなくなるかもしれないこと。 夜というのは良くない考えが大きく膨らんでしまう。 意識を手放したのは朝方だろうか。 近くで川の流れる音がする。 時間はおそらく昼過ぎ頃。季節は秋。 私は馬を走らせていた。 どうやら戦国の世にいる。 「よりによって、よし様か」 「こりゃ、だめだろうな」 そんな声が聞こえてく

    • 森羅万象

      この世界にあるもの。 そんな果てしないことを考える時がよくあります。 この世界はきっと全て繋がっている。 木は地下部に張った根でお互いに情報をやり取りしていて、草や花は風に乗せて会話をしている。鉱石の声はとても小さいので静かな場所を選んで生まれるのかもしれない。海の中の生き物は水の中でも聞こえるようなヘルツを選ぶ。人は声をもち、水は流れ、鈴虫は羽根を鳴らし、鳥は飛ぶ。 全てに色がある。 お互いに識別できるように、ここにいることを証明するように。 蛍は光る。 まるで見つ

      • 今日もゆりかごの中で揺れる

        ”自然の懐の中にいる感覚” いったいどれだけの人に共感してもらえるだろうか。いったいどれだけの人が知っている感覚だろうか。 私は物心ついた時から自然のつくりだすものに魅せられた。 毎年、行く先々で必ずリュックの中を拾い集めた石でいっぱいにしては両親を困らせていた夏休み。その時のことを「まるで石と話をしているみたいだった」と母は言い、父はいつも穏やかに見守っていた。私があまりにも石に興味を持つので、兄と弟のお土産はチョコレートやTシャツなのに私には石を渡してくれるようになっ

        • 食事とは

          私は食への興味が薄いらしい。 休みの日は食べ忘れることがザラにある上、将来生きていくのに必要な栄養を補えるカプセルか何かが発明されたらそれでいいななんて思ってしまっている。 この考えはどこからきたのだろうか。 家族と食事とテレビ私たち兄弟は小学校に入学するまで、食事中にテレビを見ることを禁止されていた。それは食事は食卓を囲っているみんなで話しながらするものという母の教育方針だった。 その日なにをして遊んだのか、誰と何を話したのか、幼稚園では何をしたのか、テレビがなくて

        よしさま

          夢体験

          あなたはどんな夢をみますか? ”また明日ね”その日、私は中世ヨーロッパ時代のようなドレスを着てお店の場所が手書きで記された紙切れを手に持って昔のヨーロッパであろう街を一人歩いていました。 しばらく歩くと目的のお店を見つけました。木でできた重たい扉を開くとそこには、骨董品やらが並び、かと思えばジャムやコーヒー豆なんかも手に入るようなとても質の良いお店のようでした。さらにそのお店の半二階には髭の長い叔父様たちがヴァイオリン、チェロなどの弦楽器で演奏をしています。それもとても心

          夢体験

          そなたは美しい / デイダラボッチの正体

          私はジブリ世代である。 ジブリ映画を観て育ってきたと言っても過言はないと思う。何年経っても、何回観ても、宮崎駿の映画が好きで仕方ない。幼稚園の頃は、母が迎えに来るまでトトロを観て待っていたし、小学生の頃は、母にねだって飛行石そっくりの鉱石のネックレスを買ってもらって呪文の練習をしていた。中学生の頃の留学先では英語版のDVDを買っては観ていたお陰でよくホームシックになった。大学生の頃の授業の課題論文では、ジブリの映画について書いて指定文字数を遥かに超えてしまい困ったりもした。

          そなたは美しい / デイダラボッチの正体

          父へ

          この御時世、人が多く亡くなっているのを耳にすると私にはどうしても思い出してしまうことがあります。 ”パパと一緒に来るか?”3月11日は私の弟の誕生日。そして9年前に父の命日となりました。 私の父は、私が13歳の時に母と離婚しました。父は婿養子だったために父だけが家を出て行きました。私は兄弟の中でも父親っ子で父が大好きで、父もまた自分に似ている私のことがお気に入りでした。だから父は、家を出る時に私だけは連れて行きたいと母に頼み母は子供の幸せを考えるべきだと激怒しましたが、最

          父へ

          NYの電車でのお話[与えることを]

          "Excuse me everyone"電車で目的地まで向かう途中に男の子がグミの箱を持って乗ってきた。 ”Excuse me everyone”と、グミを買ってほしいと話しはじめた。 こんなことはこの街ではよくあること。 特に学校がないであろう土日には。 ベジタリアンの私にとって食べられるグミは限られている。 そのグミは食べられないものだった。 男の子が私の顔を覗き込んで買わないか?と聞いてくる。 買わないごめんねと私は言った。 けれど男の子の目を見てしまった私はもう一度

          NYの電車でのお話[与えることを]