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人材開発は行動開発:理解すべき前提と行動に影響を与える要素を紹介

目次 

  • 1そもそも人材開発とは

  • 2人材開発とは行動開発である

  • 3理解すべき前提:開発しやすい行動・開発しにくい行動

    • 3.1「コンピテンシー」企業改革|会社を変える36のコンピテンシーによる考え方

    • 3.2DDIによる考え方

  • 4行動に影響を与える要素

    • 4.1個人の要因(氷山モデル)

      • 4.1.1氷山モデルの各要素

      • 4.1.2氷山モデルを用いた育成体系の検討

      • 4.1.3資質とコンピテンシー(行動)の関係性

    • 4.2環境要因

  • 5まとめ

「人材開発を自社で取り組むことになったが、着実に進めていきたい」
「人材開発を成功に導くために本質を理解しておきたい」

近年、人的資本開示の必要性や、人材開発助成金などの影響を受け、人材開発に力を入れる企業が増えていることから、こうした考えをお持ちの方は多いのではないでしょうか。

人材開発の本質は、成果に繋がる行動を促すことです。つまり、社員が目標達成に必要な行動を自発的に取れるように育成することが、人材開発の目的といえます。

そこで本記事では、人材開発および行動開発を成功に導くために、前提となる「開発しやすい・開発しにくい行動」、行動に影響を与える要素を理解するためのモデルや公式を紹介します。

そもそも人材開発とは

人材開発とは、従業員の能力やスキルを向上させて、組織としての目標を達成するための取り組みを指します。

人材開発とは行動開発である

人材開発とは行動開発であるといえます。経営者が常に期待する「成果」は、各従業員の行動によってのみ生まれるためです。

ただし、成果を出すための行動は、闇雲に行えば良いというものではありません。まずは、事業戦略に基づいて成果を明確にする必要があります。次に、その成果を達成するために必要な行動を分析します。そして、行動を促すために何が足りないのか、あるいは行動を阻害しているものは何かを特定したうえで、人材開発施策を計画・実行することが重要です。

なお本記事では、全体最適の視点から行動開発を検討するための考えを紹介します。人材開発および行動開発を成功させるためには、全体最適とあわせて、個人に対して何をすべきかまでを理解する必要があるため、こちらの記事と併せてご覧いただくことをお薦めします。
人材開発は行動開発:成果に繋がる行動を促すための方法と注意点を紹介

理解すべき前提:開発しやすい行動・開発しにくい行動

行動開発を成功に導くためには、「開発しやすい行動」と「開発しにくい行動」を理解しておくことが重要です。なぜなら、人材開発施策の効果と効率を最大化しつつ、とくに「開発しにくい行動」については選抜・採用の段階で見極めないとならないためです。

「コンピテンシー」企業改革|会社を変える36のコンピテンシーによる考え方

米国の人事組織コンサルティング会社のCEO、およびエグゼクティブ・サーチ会社の会長を務めるマイケル・ズウェルは、著書”「コンピテンシー」企業改革 会社を変える36のコンピテンシー”の中で、開発しやすい行動とそうでない行動について次のように解説しています。

  • 開発しやすい行動
    他者の人材開発、効率の高い仕事ぶり、チームワーク、技術的専門能力、サービス重視、業績マネジメント

  • 開発がやや困難な行動
    成果重視、意思決定のクオリティ、 影響力、対立の解決、戦略的思考力、分析的思考力、組織力学の理解

  • 開発が困難な行動
    率先行動、イノベーション、インテグリティと誠実さ、ストレスマネジメント、柔軟性、概念化思考力

DDIによる考え方

DDI*は、開発しやすい行動と、開発しにくい行動を下記のように定義しています。

  • LOW(開発が困難)
    ・Arrogance(独善性)
    ・Inquisitive(好奇心旺盛)
    ・Ambitious(野心的)
    ・Learning Orientation(学習志向)
    ・Results Driven(成果志向)

  • MODERATE(開発がやや困難)
    ・Risk-Taker(リスクテイク)
    ・Letting Go(手放すこと)*過去の感情や経験、あるいは制約や固定観念などを手放し、新しい状況やアイデアに対して柔軟に対応すること
    ・Making Sound Decisions(健全な意思決定)

  • HIGH(開発しやすい)
    ・Customer Focus(顧客志向)
    ・Developing Strong Teams(強力なチームを育成する)
    ・Executing Strategy(戦略を実行する)
    ・Building Future Talent(将来の人材を育成する)
    ・Communicating with Impact(効果的なコミュニケーション)

以上から、社員に開発しにくい行動を求める場合は、育成という観点より、いかに選抜、採用の段階で人材を見極めるかが重要となるのです。

*グローバルリーダーシップコンサルティングファームです。1970年に設立され、現在では世界50カ国以上で事業を展開しています。

行動に影響を与える要素

行動に影響を与える要素を「マクレランドの氷山モデル」を用いて解説します。

前項目では開発しやすい行動と困難な行動を紹介しましたが、ここからは、「そもそも行動とはどのような因子によって生み出されるのか」を解説します。この理解を深めることで、開発しやすい行動と開発しにくい行動の意味をより深く理解できるのと同時に、行動を開発するための施策を考える切り口を得ることができます。

行動に影響を与える要素は、以下の2つです。

  1. 個人の要因

  2. 環境要因

まずは個人の要因について解説します。

個人の要因(氷山モデル)

氷山モデルは、行動開発において重要なフレームワークです。このモデルは、「氷山の一角」という言葉が表すように、物事の見えている表面だけでなく、見えていない要素も含めて全体像を捉える考え方です。

具体的には、人の行動や成果(表面の一角)だけでなく、その背後にある価値観や意識などの内面的な要素(氷山の下の部分)も考慮しながら、行動に影響を与える要素について考えなければなりません。
なお、氷山の下に行けば行くほど、変えにくい因子となります。

氷山モデル


氷山モデルの各要素

氷山モデルの各要素について、具体的に解説します。

知識、スキル

知識とスキルは、密接な関係にありますが、明確な違いがあります。知識とは、特定の分野や対象について理解している情報や理論のことです。一方でスキルとは、知識を活かして具体的な行動を実行する能力のことを指します。知識、スキルは何歳になっても習得することが可能です。

経験

ここでの経験とは、過去に体験した出来事やそこから得た学びのことを指します。

マインドセット

マインドセットとは、価値観、意識、意欲のことを指します。

  • 価値観:本人にとって価値を感じるものや考え方の基準です。25歳くらいまでに固まると言われている。事故や病気、辛い経験などで変わることもあります。

  • 意識:周囲の環境や自分の状態を認識し、情報処理を行う能力です。

  • 意欲:何かを成し遂げようとする強い動機や熱意のことです。なお、意識・意欲は変えることは可能ですが、長続きしづらいです。

ヒューマンコア

ヒューマンコアとは、性格特性・動機のことを指します。

  • 性格特性:生まれつき持っている素質や遺伝、幼少期の環境や経験を通じて形成される個人の一貫してみられる行動傾向を指します。

  • 動機:行動の原動力となるものであり、目標達成に向けたエネルギーを生み出す役割を果たします。遺伝や環境、経験などの様々な要因によって影響を受けます。性格特性・動機は20歳くらいまでに固まり、変容させることが極めて困難といわれています。

この「行動の氷山モデル」を基に、どの様に行動開発の施策を打つべきか、より詳細に解説いたします。

氷山モデルを用いた育成体系の検討

例えば、「戦略思考力」というコンピテンシーを開発する場合、以下のような整理をしてみることで、必然的に、どのようなインプットとアサインメントが必要になるかが見えてきます。

なお、どの組織も求めるコンピテンシー(行動)は一つではありません。一見手間に思えますが、一つひとつのコンピテンシーについて下記のようなプロセスでプログラムを構想した上で、あとから全体を統合する方が、より短い時間で効果的な設計を行えます。


資質とコンピテンシー(行動)の関係性

資質とコンピテンシー(行動)の関係性について解説します。1つの行動は複数の「資質」から影響を受けます。

例えば、ある資質診断テストでは、下記のように被験者が発揮するであろうコンピテンシーを予測しています。また、各資質には強弱があり、これも発揮される行動に影響を与える一因になっています。

上記に示している通り、1つの特性が弱いからと言って、特定のコンピテンシーが発揮されないとは断言できません。例えば、特性Aが弱くても、特性B、Cがとても強かった場合、コンピテンシーが発揮されることがあります。

現に私が支援したある会社様では、以下のような事がありました。

前提情報:組織を統率するための重要な特性として、“自己容認性”(今のままの自分で大丈夫、と思う傾向)があります。この特性が低いと優柔不断になったり、重要な意思決定を先延ばしにしてしまうリスクがあります。そうなると、組織を統率する上で重要なコンピテンシーの一つである、“方向提示力”(リーダーとして、進むべき方向性を周囲に提示する力)というコンピテンシーの発揮に悪影響を及ぼします。

事例:ある会社の次期経営者候補のA氏は、この自己容認性が低いにもかかわらず、方向提示力の結果は、「経営者として十分に発揮されるだろう」と診断されました。なぜなら、方向提示力の発揮を支える他の特性のスコアが高かったためです。

このように、性格特性・動機・特性の領域まで手を広げる場合は、外部の専門家の協力を求めることをお薦めします。

また、より簡易的に個人の行動要因を整理する方法としては、以下のようなものもあります。

環境要因

組織行動に影響を及ぼす環境要因として、以下の要素が挙げられます。

  • 知識・スキルを学べる環境(新しい行動を起こすための知識やスキルを学ぶ機会・環境)

  • 物的資源、道具(変革を起こすのに必要な予算や人的資源)

  • 組織体制(組織間の壁、部分最適な思考など)

  • 評価制度・報酬・インセンティブ(新しい行動を評価し、報酬やインセンティブを与える制度)

  • 職場の環境(定年退職を目前にした年配の部下ばかりで、習慣を変えたがらないなど)

  • 情報(何をすべきかを考えるのに十分な情報が手に入らない、情報から遠ざけられている)

なお、これらの要素は、アメリカの研究組織ATD(Association for talent development)が組織内のパフォーマンス・マネージメントを研究する部会で挙げたものです。

また、上記で紹介したATD Performance Mgmt研究部会による環境要因をより簡潔に整理する方法として、以下の5つのカテゴリーが有効です。


まとめ

人材開発および行動開発を成功に導くために、理解すべき前提や、行動に影響を与える各要素を紹介しました。

成果を上げるためには行動が必要であり、「人材を開発する」とは結局「行動を開発する」ことであるといえます。行動には「開発しやすい行動」と「開発しにくい行動」が存在します。研修企画者は、「業績を上げるためにはどの行動を開発することが有効か」「どのように開発するのが効果的か」の2つを明確に理解しなければならないのです。

また、行動は組織文化や評価基準などの個人を取り巻く環境にも影響を受けるため、行動開発のためには、研修の企画だけでなく、何によって行動が促進されるのか全体を視野に入れた総合的な施策の企画が欠かせません。

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